第84話 旭はユミの力を実感する

 優しい目で俺を見つめているユミに驚きつつも……言葉を紡いだ。


「……ユミ……なんだよな?」


「えぇ。正真正銘、本物のユミですよ?旭お兄様」


 俺の問いかけにユミはにっこりと笑ってみせる。

 言葉遣いだけを見ると成長していると実感できる。

 逆に身体はさらに縮んで幼くなってしまっているが……。


「え?……え?あれがユミちゃんなの……?言葉は大人みたいなのに体はより小さくなって……でも心は成長していて……あれ??」


 レーナはユミを見て混乱している。

 中身は成長していても、外見が更に幼くなっていたら普通は混乱するよなぁ……。

 その一方でリーアは落ち着いているみたいだ。

 レーナの頭をぽんぽんしながら、落ち着くように声をかけている。


「レーナ、少し落ち着いて。確かに心は成長しているみたいだけど……ユミであることに変わりはないよ。……そうでしょう?」


「リーアお姉様の言う通りですよ。今の私は旭お兄様の魔力で一時的に力が戻っている状態です。なぜ体が縮んでいるのかは……わかりませんけれども。それ以上でもそれ以下でもないですから、レーナお姉様も安心してくださいな」


 リーアの言葉に頷いたユミは、レーナの近くまで行って頭を撫でようとした。

 ……が、身長差があってレーナの頭に届かない!

 ユミは無言で背中から天使の翼を生やし、飛んでレーナの頭を撫でに行った。

 ……天使の翼まで常備しているのかよ……属性てんこ盛りだな……。


[……これがユミの特殊スキル【神威解放】の効果となります。旭から魔力を受け取り、それを媒体として【天降る女神】を唱えることにより、封印された神格が解放されるのです。旭の魔力を用いるので、ステータスもかなり強化されます。旭の魔力を使い切ると元に戻ってしまいますけど。ちなみに身体が縮んでいるのは仕様です。時間遡行前の女神に戻らないために、旭の魔力が制限をかけているのですよ]


 ソフィアはユミの姿に驚いているギルドマスターと俺にそう説明してくれた。

 あのウザい女神に戻る訳ではない……というのはこのことだったらしい。

 俺の魔力が元の女神に戻らないように制限しているとは思わなかったが。

 なにはともあれ、あのウザい女神に戻らなくて一安心である。


「旭君の魔力を得て強化される女神様……か。旭君のパーティはどんどん強化されていくな……。ますます敵に回したくなくなったぞ、おい……。……それはそうと、そろそろ拘束を解いてくれないか?旭君に対して害なす行動は取らないと約束するから」


 ギルドマスターはそう言って、動けない自分の体に視線を送った。

 ……そういえば、拘束していたな。

 俺はギルドマスターの言葉を受けて、【空間固定】を解除した。

 まぁ、この人なら約束を破ることはないだろう。


「……ふぅ。やはりこの【空間固定】という魔法は恐ろしいな……。不可思議の鎖に縛られて動けないのは……結構精神的にくるね」


 ギルドマスターは自由になった体をほぐしながらそんなことを呟いた。

 確かに見えない鎖に縛られるのは恐怖かもしれない……が。


「いや、【空間固定】はまだマシなほうだろ?レーナ達が使う【狂愛ノ束縛】の方が効果がえげつないと思うんだが」


「……それは旭君にしか効果がない魔法じゃなかったかい?まぁ、あの威力を見ていると普通の人間には耐えられないと思うけどね……」


 俺の言葉にギルドマスターは明後日の方角を向いてそんなことを言った。

 ヤンデレの愛を耐えきれないくらいなら、その女性を愛する資格はないと思うのは俺だけだろうか。

 想いが強いほどに拘束が強くなる……なんて最高以外の何物でもないのだが。


[旭、そろそろユミの魔力を発散させてあげてはどうですか?初めてで長時間の解放はあまり良くないと思うのですが……]


 ギルドマスターと会話をしていたら、ソフィアが話しかけてきた。

 そうか、供給した魔力を発散させないといけないのか。


「それもそうだな……。おーい、ユミ。そろそろ元に戻るために俺の魔力を使い切ろうか」


「あら……楽しい時間はあっという間ですね……。わかりました、旭お兄様に従います。……使う魔法は私が選択してもいいですか?」


 俺の言葉にユミは一瞬残念そうな表情を浮かべたが……すぐに笑顔に戻った。

 いつでもこの姿になれるというのを理解したんだろう。

 ただ……どの魔法を使うのかはユミが決める……?


「ユミ、危険な魔法は使わないよな?」


「えぇ、勿論ですとも。旭お兄様、念のために【聖断】をお願いしますね」


 ユミは笑顔のままそんなことを言った。

 そう言っている間にもユミの周りに魔力が溢れていく。


「…………【聖断】」


 俺は意識を集中して【聖断】を唱える。

 ソフィアみたいに自由自在にはまだ使えず、集中しないとイメージした通りに結界が発動しないからだ。

 俺が魔法を唱えた瞬間、決闘場の内部は虹色に輝く結界に覆われた。


「お姉様方から教わった【狂愛】も……今の私なら使えそうですね……。【狂愛】と同時に【紅き鎧】も使用します。……これだけやれば一回の魔法でお兄様からの魔力は全てなくなるでしょう」


 ユミはレーナ達から教わったらしい【狂愛】と俺の【紅き鎧】を同時に発動させた。

 ……なんの魔法を放とうとしているんだ……?


 そんな俺の考えを他所に、ユミは目を閉じて神経を集中させていく。

 集中し始めてから数秒後、赤く光り輝く右手を空中に掲げてカッと目を見開いた。

 その右手には強烈な魔力が渦巻いている。

 そして……掲げていた右手が勢いよく振り下ろした。


「……さぁ、私が今出せる全力をご覧くださいませ!……旭お兄様の魔力を全てこの攻撃に!【神の裁きディバイン・ジャッジメント】!!」



 ーーーーズガガガガガガ!!!


 ユミが魔法を唱え途端、右手の動きに合わせて非常に強力な光……いや、雷か?が【聖断】に向かって迸った。

 地面には当たっていないので、直撃を受けている【聖断】以外はなんともない。

 だが、その熱量は膨大で地面から火花らしきものが見え隠れしている。


「…………ハァァァァァァァ!!!」


 ユミは体のうちにある俺の魔力を全て使い切るために、さらに出力を上げた。

 雷がさらに大きくなって【聖断】を破壊しようと勢いを増していく。

 ……これ、【聖断】壊れないよな?

 強化しておけばよかったか……。

 俺は一人冷や汗をかきながらその光景を見守るのだった。


 ▼


 そんな光景が5分続いた後……。


「……スゥスゥ」


 俺の魔力を使い切ったユミは元の身長に戻り、今は俺に抱かれて眠っていた。

 魔力を使い切った途端に後ろに倒れそうになったので、急いで抱きとめたのだ。

 ……全く無茶苦茶してくれるよ。


「ねぇ……パパ。ユミちゃんにどれくらいの魔力を送ったの?攻撃の持続時間が予想以上に長かったけど……」


 レーナはユミのほっぺをツンツンしながら、そんなことを聞いてきた。

 ほっぺをツンツンされているユミはうぅん……とかわいらしく唸っている。


「いや、キス自体は一瞬だったし、そんなには魔力を送っていないはずだぞ?」


[いえ、旭が送った魔力量はMP換算でおよそ10万くらいですよ?旭は無意識に魔力を送り込んでいたのでしょう]


「10万かぁ……。それほどの魔力がないとあの技は使えないってことだね。違う魔法にすれば問題はないんだろうけど」


 ソフィアの言葉にリーアは顎に手を当てて考察している。

 それにしても無意識で10万もの魔力をユミに流し込むって……やばくないか?

 先ほどの魔力の流れはユミの中に収まりきらなかった魔力が溢れていたのだろう。

 次からは魔力を調整できるように訓練しないとな。


「……ソフィアの言ったことは理解した。それで、魔力を使い果たしたユミはいつ頃起きるんだ?」


[そうですね……。今回は魔力を一気に放出したので、お昼ぐらいまでは眠っているのではないかと思います。【神威解放】を使用したのも初めてですし。……初めてであそこまでの力を使えるのはさすが女神といったところでしょうか]


 ソフィアはそういうと、ユミの頭を優しく撫でた。

 頭を撫でられたユミは眠ったまま、幸せそうな表情を浮かべている。

 いい夢でも見ているのだろうか?


「じゃあ、ユミ君が起きるまで一旦解散としようか。私も旭君に話したいことがあったのだが……。その話をしている途中で起きてしまったらかわいそうだしな。じゃあ、また夕方ごろにでも来てくれ。お茶とお茶菓子を用意して待っているから」


 ギルドマスターはそう言って冒険者ギルドに戻っていった。

 俺に話したいこと……?

 何かあっただろうか。

 まぁ、それは夕方に行った時に分かることだろう。


「それじゃあ、俺達も一旦家に帰ろうか。ルミアも待っているだろうしな」


「「はーい」」


[わかりました]


 俺は3人がくっついてきたのを確認して【長距離転移】を発動した。

 ユミには転移の影響で起きてしまわないように、うすーく【聖域】を展開してある。


「あら、皆さん。お帰りなさいませ……って、ユミは寝ているのですね。今毛布を持ってきます」


 俺達が転移で帰宅したのを迎えたルミアは、ユミが寝ているのを見て毛布を取りに寝室に向かった。

 気がきく彼女を仲間にして本当に良かったと思う。


 レーナとリーアは一旦部屋に戻るようだ。

 色々と考えることでもあるのだろうか?


「ふわぁぁぁ……。俺も少し仮眠してこようかなぁ……。ソフィア、お昼ができたらお越しに来てくれないか?」


[Yes,My Master。ユミもその方が安心するでしょう。時間になったら起こしに行きますので、今はゆっくり休んできてください]


 俺はソフィアに起こしてもらうように頼んで、ルミアが向かった寝室へ歩いていく。

 ユミと添い寝か。

 誰かと一緒に添い寝をするのは丹奈の前の彼女と付き合っていた時以来なので、どことなく新鮮味を感じる。


「旭さん?毛布を持ってきましたが……あぁ、旭さんもお休みになられるのですね」


「あぁ、お昼ができたらソフィアに起こしてもらうように頼んできた。少しの間寝てくるとするよ」


「ふふ……。久しぶりにゆっくり休んでください」


 寝室から毛布を持って出てきたルミアに仮眠をとることを伝えて、そのまま寝室に入っていく。

 俺はベッドにユミを寝かせて、その隣に寝転んだ。

 ……お昼までのしばしの間……おやすみ。

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