第4章

第60話 旭は神への対策を考える

「…………」


 レーナ達が冒険者ギルドに向かった後……。

 俺は椅子に座ったまま、瞑想をしていた。

 頭の中で考えているのは篠田伊吹姫のことだ。


 丹奈の情報によると、神は俺の反応を楽しむだけに伊吹姫を転移させると言っていたらしい。

 傍迷惑な神もいたものだ。

 俺の反応なんて見てどうするつもりなのだろう?

 第一、俺は神という存在に会っていない。

 パート帰りにいきなり転移されたんだ。

 何かが引っかかっているんだが……。


「…………何が目的だ……」


 いくつか可能性を考えてみたが……俺は神ではないので当然わからない。

 何か対策としていい案はないだろうか?


 ーーーー[旭、1人で考えていても何も始まりません。私もいることをお忘れなく]


 考え事をしていたら、みかねた叡智さんが声をかけてきた。

 俺の固有スキルなので悩んでいることは最初からお見通しだとは思うが……。

 1人で考える時間をくれたのは素直に嬉しかった。

 空気を読めない事もあるが、基本的には空気を読んでくれるのが叡智さんなのだ。


 ……うん、1人で考えていても意味が無いし、叡智さんの知恵を借りるとしよう。


「叡智さん、俺に知恵を貸してくれ。……で、早速本題に移るが、神による転移を阻止するにはどうしたらいいと思う?」


 ーーーー[そうですね……。恐らく転移を阻止するのは無理ではないかと]


「やっぱりそうか……どうしたもんかなぁ……」


 叡智さんの言葉に俺は机の上に突っぷす。

 俺の【境界転移】とはまるで違うのだ。

 本物の神の転移を阻止できるわけがない。


 ーーーー[旭、確かに神による転移は阻止できないと思いますが、送り返すことならできるかもしれません。神による転移の影響を受けなくするという手もあります]


 叡智さんはそう告げた。

 …………ちょっと待て。

 さっきから隣から声がしたり、耳元で囁かれたり……おかしくないか?


「…………ッ!?」


 俺はバッと顔を上げて声のする方を振り向いた。

 俺の視線の先にいたのは……。


 ーーーー[…………旭?どうかしましたか?そんなにジッと見つめて]


「……いや、誰?」


 なんか巫女服を着たピンク髪の美女が俺のことを見て微笑んでいるんだが。

 ……いや、まて。

 今[旭]と言ったか?

 そんな言い方をするのは叡智さんだけで……しかも今この部屋には俺しかいないわけで……。

 俺は震える声で目の前の美女に話しかける。


「……もしかして……叡智さん……?」


 ーーーー[…………?他に誰がいるのですか?]


「……いやいやいやいや!!おかしいでしょ!叡智さんは俺の固有スキルだよね!?その姿は何!?」


 ーーーー[旭が一人でブツブツ呟いているのは絵面的にどうかと思いまして。それなら人間の姿を借りて話しかけたほうが作戦会議っぽくなるかなと]


 叡智さんは何を当たり前のことを聞いているんだ……的なジト目で見ているが……。

 そうじゃない!そうじゃないんだ!!

 固有スキルって顕現できるの!?

 それとも何!?叡智さんは自我があるから顕現可能なのか!?


 …………チュッ。


 俺が混乱していると、唇に柔らかいものが触れた。

 目の前には真面目な表情をした叡智さんがいる。

 ……何故に俺は叡智さんから口付けをされたんだ?


「…………え?」


 ーーーー[旭、落ち着いてください。今はそんな狼狽えている場合じゃないでしょう?神の転移の影響を受けないようにするための話し合いを優先しないと]


「……あ、あぁ。そうだな……話し合いが優先だよな……ッ」


 どうやら叡智さんは俺を落ち着かせるために、口付けをしたらしい。

 緊張しているのは俺だけだったのか……。

 ……そうだよな。叡智さんがここまでして話し合いに参加してくれるんだ。

 俺が真面目にやらないでどうする。


 ーーーー[……今の口付けは私の気持ち……ですからね]


 だぁぁぁ、もうッ!!

 真面目にやろうと思っていた瞬間にこれだよッ!!

 いきなりそんな顔を真っ赤にして……潤んだ瞳で俺を見ないでくれッ!!

 勘違いするだろうッ!?


 ーーーー[旭……私は貴方のスキルなのですから、貴方の心の声は聞こえていますよ。……旭にならされてもいいですけど……。いつもいつも旭達がしているのをただ見るだけなのは……もう我慢できないんです……]


「…………今のは叡智さんが悪いんだからな」


 ……完全に理性が飛んだ。飛んでしまった。

 俺は顔が真っ赤なままの叡智さんをお姫様抱っこする。

 叡智さんは顔を真っ赤にしたままボソリと呟いた。


 ーーーー[……初めてなので……優しくしてくださいね……?]


 ……うん、それは無理な相談だ。

 俺は【色欲魔人】を発動させて、お姫様抱っこをした状態のまま寝室に向かった。

 作戦会議がご休憩に変わった瞬間だった。


 ▼


 作戦会議がご休憩に変わってから……約3時間。

 俺と叡智さんはテーブルに戻ってきていた。


「……さて、叡智さん。今から作戦会議を再開しようか」


[……旭……。なんで……貴方は……ハァハァ……そんなに元気なのですか……?やはり【色欲魔人】の効果ですか……。処女に……それも自分のスキルである私に【色欲魔人】を使うなんて……んッ。旭を甘く見ていましたか……]


 俺の言葉に叡智さんは真っ赤な顔で余韻に浸っている。

 ちなみに顕現しているからなのか……言葉の前のーーーーがなくなっている。

 あれは顕現していない時限定だったみたいだ。

 さっき使っていたって?

 俺が気がついていなかっただけなのでノーカンノーカン。


 それにしても……叡智さんが誘惑してくるのが悪い。

 巫女服を僅かにはだけさせた時にはグッときてしまった。

 思わず本気を出して相手をしてしまった程だ。

 ピンクの髪に巫女服という組み合わせもいけないと思う。

 ……俺は悪くない……よね?


[……ようやく落ち着いてきました……。旭に愛してもらうことの充実さを知る事が出来たのは大きいですね。……さて、3時間前の話題に戻りましょう。丹奈が言う神の転移の影響を受けないようにするためには、今の旭でも若干力が足りません]


 叡智さんはまだ顔が真っ赤だったが……息は整ってきたようだ。

 何事もなかったように話題を修正してきた。

 それにしても……今の俺の力でも足りないのか。

 流石は神と呼ばれる存在……。


「若干力が足りない……か。叡智さんは神のステータスを知っているのか?」


[旭に愛される前にハッキングして鑑定してきました。レジストされかけましたが……おをしたら抵抗をやめてくれましたよ]


 ……今叡智さんがもの凄い事を言った気がする。

 俺に抱かれる前に神にハッキングして?ステータスを鑑定してきた……!?

 なにそれ……叡智さん、神より強い説が浮かび上がってきたぞ……?

 ……多分だけど神を脅したんじゃないかと俺は考えてる。

 叡智さんはやっぱり叡智さんだった。しゅごい。


神の影響を受けないようにするためには、今の魔攻を残り10万程あげないといけません。逆に言えば20万あれば神のステータスを上回るという事ですね。まぁ、丹奈の言っていた神は神格が低いからこそできる対策なのですが]


「今の俺の魔攻が10万ちょっとだったか。……というか、俺のステータスって神に近いところまできているんか。どんだけチートなんだよ……」


[それは今更ではないですか?レーナやリーア、最近ではルミアも旭の【成長促進】の効果で似たような能力になってきていますし]


 ……まぁ、それを言われると弱いんだけどさ。

 レーナ達も似たような能力になってきているのは俺も気がついてはいた。

 それぞれの長所の伸び率がかなりいいのだ。

 いや、それ以外のステータスも普通の人と比べると格段に上がってはいるんだが。

 ……ん?そういえば、叡智さんは素のレベルだけでって言っていたよな……?


「叡智さん、もしかして……バフをかければ四神達を召喚しなくてもいける感じ?」


[えぇ、旭が考えている通りです。現在、旭にはスキルで【憤怒】、【悲哀】、【色欲魔人】。魔法で【赤き鎧】で能力を倍以上に強化できます。4乗のバフ効果を合わせれば20万どころか50万はいきますね。念のために四神を召喚し、【四獣結界】を使用する事をお勧めします]


 ……俺のバフ魔法ないしバフスキルって重ねがけができたんだなぁ……。

 知らないで使っていたよ。

 それは置いておくとして、いつも通りスキルを重ねがけすれば神のステータスを超えられる事が判明した。

 それが分かったのなら……準備はそんなに必要ないかも知れない。

 いや、転移の影響を受けないようにするためにはどうすべきかを相談する必要はあるか。


[……ようやくいつも通りの旭に戻りましたね。作戦を開始する際には私もこの状態でサポートしますので、気を楽にしてください]


 俺の様子を見た叡智さんが、満面の笑みで俺に微笑みかけてきた。

 あぁ……綺麗な笑顔だなぁと見惚れていると……


 ……ギュッ。


 叡智さんは満面の笑みを浮かべたまま、俺のことを胸に抱きしめてきた。

 俺の顔が彼女の豊満な胸に抱きとめられる。


 ……神なんて比じゃない。

 今ここに女神が顕現されたのだ。

 ……まぁ、こんなところをレーナ達に見られたら修羅場だけどな。

 叡智さんの顕現した姿はかなりの美女だし。


 そんな事を考えていたのがいけなかったのだろう。

 ドサリと荷物が落ちるような音がした。

 続けて身体に降りかかってくる【狂愛】のオーラ。

 振り向かなくてもわかる。

 一級フラグ建築士を取得できたかも知れない。

 ……あんまり嬉しくはないけどな!


「…………パパ?……その美人な女の人は誰なの……?どうして……パパを抱きしめているの……?ねぇ……ナンデナンデナンデ……?」


「お兄ちゃん……。私達がお兄ちゃんの役に立とうと頑張っている時に……知らない女を我が家に連れ込んだの……?そんなに……色んな女と体の関係を築きたいの……?どいて……?ソノオンナヲハイジョスルカラ……!」


「旭さん……流石にこの状況で言い逃れをしたりはしませんよね……?というより、そこの貴女は何者なのですか……?なんで私達3人と旭さんの愛の巣に入り込んでいるんですか……?……【神刀】。……覚悟はできているんでしょうね……?どこのどなたかは存じませんが……愛する旭さんに近づくのであれば……イマスグコノヨカラケシテアゲマス」


「「「でもその前に……」」」


 3人は光の亡くなった目を俺の方に向ける。

 やばい、矛先が俺の方にきた。

 だが……だがしかし!!

 俺は逃げないぞ!

 重い愛情を受け止めてこそ、男の甲斐性が発揮されるというものだ!!

 決して怖いからではない!


「「「狂愛ノ束縛……」」」


 3人分の狂気を含んだ鎖が俺に絡まる。

 おぉう……動くことすら叶わないとは……。

 レーナ達への愛は深海よりも深いからな!

 拘束が強くなっても嬉しさしかないな!


[……旭、喜んでいるのはいいのですが、この状況をどう対処するのですか?]


 3人に拘束される俺をみた叡智さんは……とても楽しそうに笑ったのであった。


 さて……どうやって3人に説明しようかなぁ。

 そんな事を考えていたら、レーナ達3人は【サキュバス】を発動させた。

 ……うん。3人を性的に満足させてから考えるとしよう。

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