第2章

第23話 旭は旅の途中で一休みをする

冬◯ミでの色々な出来事から2日。

様々なことがあったことで疲れていた俺は、二日間ゆっくり休んでいた。

レーナとリーア、ルミアの女性3人組も戦利品を穴が空くほど読み込んでいたので、特に何事もなく休むことができた。

襲って来なくてすこし残念だったのは内緒である。


現在、俺達はゴーレム馬車に乗って悠々自適な旅を続けていた。

ダスクからウダルまでは普通の馬車で5日ほどの距離らしい。

しかし、俺のゴーレム馬車は時速60kmは出せるので、半分くらいの日時でウダルまで着きそうだ。

今は広めの草原に馬車を止めて、お昼休憩をしている。


「ダスクからウダルまでは結構時間がかかるとは思いましたが……もう折り返し地点についてしまうとは……」


ルミアは猫耳をピクピクさせながらそんなことをボヤく。

まぁ、スピード出ていたからなぁ。

でも、俺は知っている。

馬車の窓から顔をだし、風を受けてルミアの尻尾がブンブン振られていたことを。

……本人は絶対に認めようとしないので俺の心のうちに閉まっておくが。


ちなみにお昼の担当はルミアである。

ギルドマスターの補佐官をやっていたからか、準備をスムーズに行なっている。

話を聞くと、一人暮らしが長いそうだ。

俺も料理はできるが……やっぱり女性の手作り料理ってポイント高いよな。


「うぅ……こんなことなら料理を習っておけばよかった……!」


「レーナはまだ学ぶ環境があるからいいじゃない……。私なんてそんな環境すらなかったし……」


ルミアの料理姿を見て悔しそうにしているのはレーナとリーアだ。

2人とも料理はできないので、指をくわえてルミアを眺めている。

俺はそんな2人を視界の隅に置きつつ、空を眺める。


「…………なんかルミアが仲間になりそうなフラグが立っている気がするんだよなぁ……」


ルミアの献身ぶりがすごいんだ。

俺1人だったら絶対に気が回らないところも、気づいてサポートしてくれる。

叡智さんが知識だとすれば、ルミアはメイドといったところか。

さすがはあのギルドマスターの補佐官を務めていただけはあるな。


「パパ!!」


そんなことを考えながらぼーっとしていたら、レーナとリーアが俺に抱きついてきた。


「パパ……コ◯ケから戻ってきて出立するまで部屋に行かなかったこと拗ねてるの……?」


「お兄ちゃん……2日も放置しちゃったのは謝るから……そろそろ私たちともお話ししよ……?」


2人は泣きそうな声でそんなことを言ってくる。

……確かに2人が来なかったのは拍子抜けしてしまい、すこしばかり悲しい気分になったことは認めよう。

あぁ、襲われなかったことを残念に思ったさ。

ただ、それが原因で話しかけなかったわけではない。

俺は出発してからルミアとも話していないからな。

2人を諭すように俺は話しかける


「大丈夫、寂しかったのは事実だけど、それが原因で話さなかったわけじゃないから」


「「……本当?もう怒ってない……?」」


「いや、元から怒ってはないよ。笹原丹奈……あいつへの対策を考えていたんだ」


そう言って俺はレーナとリーアの頭を優しく撫でる。

2人はくすぐったそうにしながらも、首をコテンと倒して質問してくる。


「パパ、元カノの対策ってどういうこと?」


「そうよ、お兄ちゃん。あの丹奈って冒険者が通らないルートだし、考えても仕方がないんじゃないの?」


……確かにこのウダルへの道のりは、丹奈が向かったと言われる王都へのルートとは真逆のルートだ。

普通の人間ならわざわざ遠回りしてここにくることはないだろう。

しかし……である。


「いや、確かにそうなんだけどさ。ダスクに戻った際にギルドマスターが俺たちのことを話さないとは思えないんだよなぁ……。そうしたらこっちにくる可能性が高いだろうから、対策は考えておかないと」


そういう俺の言葉にルミアが言葉を重ねる。


「確かに丹奈さんなら旭さんの話を聞いた後、こちらに向かってくるでしょうね。普通の馬車なので少しは時間が稼げるとは思いますが」


「そんなに元カレに会いたいものなのかなぁ?私だったら関わりたくないって思うけど……」


「多分俺が日本人ってのもあるから、十中八九くるだろうな。この世界にも転移者はいるんだろうけど、珍しいみたいだし」


リーアの言う通り、普通の人間なら元カレに会いたいなんて思わないだろう。

しかし、ここは地球ではなくアマリスという名の異世界である。

そこに自分と同じ地球からの転移者がいたと聞けば、接触を図ってくるだろう。

少なくても俺はそうする。


「パパ、対策するとしても、どうやって対策するの?元カノはAランクの冒険者なんでしょ?わたし達よりワンランク上の存在だけど……大丈夫?」


レーナは俺達が丹奈に勝てるかどうか心配なようだ。

長い耳を下に下げている。

というか、レーナは頑なに丹奈の名前を呼ばないな。

何か理由でもあるのか?


レーナの質問に答えたのはルミアだった。


「確かに前までの旭さん達だったら、負けることはなくても、レーナさんとリーアさんは傷を負ったかもしれません。ですが、今は表示上Bランクですが、旭さんだけならSランク以上なので、負けることは万が一にもあり得ません」


その言葉を聞いたレーナは、心の底から安堵したかのようにため息をつく。


「よかったぁ……。わたしがパパの足を引っ張ってしまわないか心配だったんだよねぇ……」


「レーナ、貴女は禁忌魔法使えるでしょうに……。足を引っ張るとしたら私の方だよ……」


2人は自分が足を引っ張ることを懸念していたみたいだな。

……というより、俺が2人を守るからそんな心配はいらないんだが。

そう答えようとしたら、ルミアが先に答えてしまった。


「お二人とも、安心してください。旭さんが2人を守ってくださいます。それに旭さんはお二人に【成長促進】のスキルを付与できることを確認しています。それによって、お二人も普通の冒険者に劣ることはありません。能力値だけでみたら、丹奈さんと同じAランク冒険者ですから」


ルミアが俺よりも俺について詳しい件について。

最近思ったんだけど、俺の仲間になる人や親しくなる人って俺に対しての執着心すごくないか?

……あれか?ルミアも仲間に加えろと……そういうことか?

だが、ルミアはまだ冒険者ギルド側の人間だ。

仲間になることは無理だろう。


そんなことを考えていると、レーナとリーアのホッとしたため息が聞こえてきた。


「よかったね、リーア!わたし達、パパの足を引っ張らなくてすみそう!ルミアお姉さん、ありがとう!」


「えぇ……えぇ!そうねレーナ。自信がついてきたよ!……ルミアさん、ありがとうございます」


俺の足を引っ張らないという事実に2人は喜び、ルミアにお礼を言っている。

ルミアも満更でもなさそうだ。


「さて、お昼が完成しました。早速食べましょう。準備してきますね」


ルミアはそう言って食事の準備に戻っていく。

俺たちと話しながら手を一切止めることがなかったのは流石だな。


「レーナ、リーア。ルミアの手伝いをしておいで?俺は食べる場所の準備を行なうから」


「「はーい、いってきまーす」」


レーナとリーアは元気にルミアの後を追いかけていく。

さて、俺もご飯を食べられるスペースを確保しますかね。

俺は近くにある草原に手をかざして、呪文を唱える。


「……【クリエイト:ウッドテーブルセット】」


魔法を唱えた瞬間、地面からウッドテーブルセットが創造される。

キャンプ場にあるかのような、立派なウッドテーブルセットだ。

椅子は長椅子状になっており、その座る場所には低反発のクッションが添えられている。

……うん、なかなかいい出来じゃないか?


ほぼ全てのものを創造できる【クリエイト】は万能すぎる魔法だと思う。

しかも、誰もいない状態である程度離れると消失するのも防犯的にかなりポイントが高い。

この魔法を教えてくれた叡智さんに感謝である。


そんなことを考えていたら、ルミア達が戻ってきた。


「旭さん、お食事をお持ちしました……って、これはまた立派なテーブルセットを創造されましたね」


「パパ……!これインターネットで見たことある!本当に木で作られているテーブルってあるんだねぇ……。しかも、表面がかなり綺麗……」


「……お兄ちゃん。私の記憶が間違っていなければ、私達が離れていたのって2分もないはずなんだけど……。そんな短い間にこんな立派なテーブルセットを創造しちゃうなんて……惚れ直しちゃうじゃん!」


三者三様の反応をしてくるが、不満点は無いようだ。

よかった、文句を言われるかもと考えたら少し不安になったからな。


「じゃあ、お昼ご飯を食べようか。ルミア、今日のメニューはなんだい?」


「はい、今日のメニューは[兎肉を使ったビーフシチュー]です。料理する前に兎を狩れたのは大きかったですね」


「兎肉か……前の世界でも食べたことはなかったな。じゃあ、食べるとしよう。いただきます」


「「「いただきます」」」


俺達は食事前の言葉をつぶやいて、ご飯を食べる。

ちなみに、いただきますは俺が教えた。

地球と似ているようで、地球にあった文化がないのだ。


ルミアの作った兎のビーフシチューは肉がトロトロでとても美味だった。

お昼なのに3杯もお代わりしてしまった。

料理ができる女性は本当に素晴らしい。

レーナとリーアもよほど美味しかったのか、リスみたいに頬を膨らませて食事をしていた。

美味しいご飯で胃が満たされ、小動物みたいなレーナとリーアを愛でることで精神的にも満たされる……。

今の俺ならなんでもできるかもしれない。

ちなみに、ルミアは自分の作った料理を美味しそうに食べる俺たちを見て、尻尾をブンブンと振っていた。


お昼ご飯を食べ終わって、出発しようと思った時のことだった。

俺の【探知】に敵の反応があった。


「3人とも、敵がこちらに向かっているようだ。俺が対処するから、3人は出発の準備をしていてくれ」


「「はーい!」」「わかりました、可能であれば肉の調達もお願いします」


そう言って、3人は準備に戻っていく。

ルミアからのリクエストは……食べられそうなやつだったらにしよう。


俺は1人、探知に引っかかった敵のところへ歩き出した。

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