第20話 幕間の物語-冬の聖典と旭一行1-
ウダルへ向かう途中。
【クリエイト】で創造した簡易ハウスで休んでいた時のことだ。
レーナが俺に向かって話しかけてきたことが始まりだった。
「パパ、わたしコ◯ックマーケットっていうのに、行ってみたい!」
スマホから顔を上げたレーナは勢いよく飛び上がる。
どうやらインターネットとかで冬の聖典のページを閲覧したらしい。
ちなみにリーアとルミアは意味がわかってないのか、2人でお茶を飲んでまったりしている。
そういえば、明日は12/31だったな。
俺も2回ほど参加したことがある。
今日が3日目だから……内容的には過激なものが多いとされている日じゃなかったかな。
2回しか参加したことがないから偏見といえば偏見だけど。
「いや……参加したいって言ってもなぁ……。この世界は日本じゃないし、行きようがないと思うんだけど……。それに行けたとしてもお金がないから厳しいかな」
「うぅ……そうだよねぇ……。この始発ラッシュとか待機列とか壁サー?とか気になっていたんだけど……」
レーナはしょんぼりとうなだれる。
エルフの象徴たる長耳も下を向いている。
可哀想なことをしているきもちになってくるが、ここは異世界[アマリス]。
日本への行き方なんてあるわけgーーーー[旭の力なら行くこと自体は可能ですが]……え?
叡智さんが俺の思念に割り込んで答えてくる。
え?行けるの?どうやって?
ーーーー[疑問を感知しました。ゼウスを呼び出し、ゼウスの力を借りて転移魔法を使用すれば日本に行くことはできるかと。しかし、行けたとしても朝に出たとしたら18時までとなります。魔力の消費が莫大なのと、日本には魔力がほとんど存在していないので。お金の件は……旭の口座に残っているはずなのでそこからおろしてください]
叡智さんはなぜ異世界転移した後の俺の口座の中身を知っているんだ?
ゼウスの力借りれば異世界転移もできるの?
さすがは【全知全能の神】と言ったところか?
俺は叡智さんから知り得た情報をレーナに伝える。
「レーナ、なんか行くこと可能みたいだぞ?ゼウスの力を借りる必要があるみたいだけど。お金は……おろしてから行くから始発ラッシュはキツイと思うけどね」
「コ◯ケに行けるの!?やったーーーっ!」
行けないと思っていたレーナは、喜びを爆発させんばかりに飛び上がる。
何故かリーアのところに近づいて腕をブンブンと振っている。
「リーア!コ◯ケに行けるって!!」
「ちょ……ちょっとレーナ!嬉しいのはわかるけど、私たちにもわかるように説明して欲しいのだけれど!」
リーアは困惑顔でレーナを窘めようとする。
レーナはそんなリーアに興奮しながら事情を説明する。
説明した内容を簡略化すると以下の通りだ。
・パパの元いた世界でオタクの聖典と呼ばれるお祭りがある。
・そこには日本中のいたるところから人が集まる。
・いろんな服装をした人が撮影会をしている。
・パパのいた世界を堪能して、パパの好みを知る大チャンス(最重要)
……3番目まではまだわかるんだが、4番目の項目必要?
しかし、それを聞いたリーアは目を輝かせる。
「お兄ちゃんの好みを知る大チャンス!?それに行けるというの!?……なら、参加するしかないじゃない!」
「リーア、レーナの話の中で4番目の項目が大事なのか?」
「当たり前じゃない!お兄ちゃんの好みを知ることは何事においても重要なんだよ!?」
……いや、そうではないと思うのだが……。
しかし、テンションの上がった2人にそんな水を差すような言葉は言えない。
ルミアなら冷静だろうと視線を向けるが……。
「旭さんの好みを知るチャンス……?この情報を取得すれば、旭さんも私のことを少しは気にかけてくれたり……?いえ、落ち着くのよルミア。好みを知ったところでそれを準備できるかは別問題なのでは……?でも……」
……ジーザス、ルミアよお前もか。
まぁ、いいや。
もう行けないと思っていたから行ける機会があるなら行きたい。
ただ、1つ問題があるんだよな。
「盛り上がっているところ悪いけど、そのままの格好では行けないからな?」
「「「……?」」」
俺の言葉に首をかしげる3人。
3人に理解してもらえるよう説明を続ける。
「レーナはハイエルフ、リーアはダークエルフ、ルミアは猫耳族だろ?俺のいた日本にはそういうファンタジーな存在はいないんだよ。その姿形をどうにかしないと、行くのは難しいと思う」
「それでしたらレーナさんの光魔法で姿形を偽装すればいいのではないでしょうか?」
ルミアがとんでもないことを言い出した。
光魔法って姿形を変えられる魔法あるの?
「【
「レーナができるなら俺がやったほうがいいかもしれないな。レーナもそれでいいか?」
「わたしは別に問題ないよ。能力的にもパパの方が高いからね〜」
レーナの許可も得たし、試してみるか。
それで問題ないようなら転移の準備を始めるとしよう。
「【偽装】をレーナ、リーア、ルミアの3人に」
詠唱が必要ないというのはこういう時に便利だな。
俺の魔法が3人を包み込み、姿形が変わる……かと思いきや。
「あれ?俺には何も変化がないように見えるんだけど……」
「わたしもみんなが同じように見えるよ?」
「仲間には効果がない魔法ですから。鏡があるのでそれで確認しましょう」
ルミアはそう言って部屋の中にあった縦鏡を持ってきた。
おぉう、たしかに鏡を見ると姿形が変わっている。
レーナは金髪碧眼の白人に。身長は150cmほどになっている。
リーアは褐色赤眼の黒人に。身長は160cmほどか。
ルミアは……猫耳と尻尾が消えただけだが、見た目は完全に一般人だ。
「お?おぉ〜!わたしの身長が伸びてる!幻想だけど……」
「私も伸びているわ!でも、胸の成長はほとんど変わらないのはなんでかしら?幻想ならもう少し大きくしてくれてもいいのに」
「いや、それを俺に言われても……」
リーアは【偽装】に対して文句を言っているが……俺自身がコントロールしている訳ではなく、数年後の姿をあらわす魔法のようなので勘弁してもらいたい。
次はゼウスに力を借りないと……。召喚して、聞くだけ聞いてみるか。
「顕現せよ……【全知全能の神】!……俺たちが地球に行くのを手伝ってもらいたいんだが、できるか?」
『参上しました、主。……転移魔法ですか?確かに我がいれば、世界間の転移も可能となりますが……時間制限がある上に、魔力をだいぶ使いますぞ?」
「うん、それは理解している。地球は魔力がほとんどないから、ゼウスには帰りの魔力を補助してほしんだ」
『帰りですな?このゼウス了解致しました。……主、向こうでは何が起こるかわかりませぬ。これをお持ちください」
ゼウスはそう言って俺に1つのぬいぐるみを渡してくる。
……なにこれ?ゼウスになんとなく似てるけど……。しかもなんか可愛くデフォルトされてないか?
アラサーの俺にぬいぐるみを持って行けと?
『これに我の魔力を閉じ込めてあります。レーナ嬢に渡しておけば問題はないかと。制限時間前にこちらに戻ってくる際に使用してくだされ』
時間制限前に帰ることのできるアイテムはありがたいな。
俺はレーナにぬいぐるみを渡しておく。
「レーナ、これは大事なものだから落とさないようにしっかり持っておいてね」
「大丈夫だよ、パパ。わたしは落としたりしないから!」
フラグが立った気がするが、まぁいいか。
まだ寝るには早いが、明日に備えてゆっくり休むのも大事だろう。
「じゃあ、明日は大変な1日になると思うから、ゆっくり休むとしよう。みんなもそれでいいか?」
俺の言葉に賛成の声があがる。
そうして俺たちはそれぞれの部屋に戻って寝ることにした。
ゼウスも召喚し直すのが大変ということで、今回は簡易ハウスで休んでもらうことにする。
今更気づいたが、ゼウスって身長を自在に変えられるのな。
初回の召喚時に巨大だったのは、威圧するためらしい。
▼
翌朝の朝6時。
俺たちは簡易ハウスのリビングに集まっていた。
【偽装】の魔法は既にかけてあり、出発の準備は完了している。
「じゃあ、ゼウス。今から地球への転移を行うが、何か特記事項はあるか?」
『そうですな……。時差が3時間くらいあることでしょうか。今から出れば9時には着くと思われます。座標は主に任せます故』
「わかった。3人とも聞いてくれ。コ◯ケは戦争だ。日本中から俺以上の強者がたくさんやってくる。始発で行かないとはいえども、人混みはかなりのものだと思われる。俺のそばから離れないように注意するように!!」
「「「はいっ!」」」
「後、レーナ。向こうに行ったら俺のことをパパと呼んじゃダメだからね?」
「…………!?どうして!?」
レーナはそんなバカな!と絶望した顔をしている。
……とはいえども、俺もここは譲ることはできない。
「レーナ、聞いてくれ。俺のいた世界では、本当の家族以外で幼女にパパと呼ばせたら警察に捕まるんだ……。だからせめてお兄ちゃんにしてくれないか?」
むぐぐ……と納得がいかない表情のレーナ。
一時的とは言えども、パパと呼べないのは辛いものがあるのだろう。
レーナにとって俺は父親みたいなものだからな。(それなのに襲われるっていうのもどうなのか……)
「うぅ……わかった。向こうでは旭お兄ちゃんって呼ぶことにする……」
レーナは渋々ながらも納得してくれた。
俺のお願いを素直に聞いてくれたので頭を撫でておく。
頭を撫でることで機嫌が良くなるのはわかっているのだよ。
「じゃあ、今度こそ出発だ!……座標を国際展示場駅前に固定。ゼウス、俺たちにハイエンジェルが使っている【透明化】をかけておいてくれ」
『了解しました。透明化を実行……主の任意のタイミングで解除可能となります』
「了解した。実行……【境界転移】!」
俺が魔法を唱えた途端、俺たち4人の体を光が包み込む。
次の瞬間、俺たちは国際展示場の券売機近くにいた。
【透明化】が効いているため、コ◯ケに向かう人々は俺たちには気づかない。
……時間制限があるとしても帰ってきたんだな、日本に。
たった数日離れていただけだというのに、懐かしい気分になる。
さぁ、オタクの聖戦に向かうとしようか……!!
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