第12話 旭VSダマスク【後編】

ーーーー第三者視点ダマスクサイドーーーー


 ダマスクの屋敷の中に怒声が響く。


「おい!連絡要員から旭達がこの屋敷に向かっているという情報が入った!この都市にいる部下を全員集めろ!!屋敷の守りを固めさせろ!!」


 叫んでいるのはダマスクである。

 旭達を襲わせたグループの男から、襲撃は失敗し、旭が屋敷に向かっているとの報告を受けたからである。

 ダマスクは魔物召喚の際にAランク級の魔物まで召喚したことを知っていた。

 その数が100体に近いことも。


 しかし、その後に聞いた報告は悲惨なものだった。

 100体に及ぶ魔物の群れは一瞬にして旭に殲滅された。

 それどころではなくダマスクの屋敷に向かっているという。


 ダマスクが自分の身を守るために部下を招集するのも仕方がなかった。

 しかし、その報告すらも旭によって情報規制されていることにダマスクは気づいていない。

 旭への強襲に失敗したことで、冷静な判断ができなくなっていた。


「……クソッ!!冒険者ギルドマスターのお墨付きとは聞いていたが、自分よりもはるかに高ランクの魔物の群れを一瞬で殲滅されるなんて想像ができるか!?そんな情報聞いていないぞ!」


 ……情報自体は書類上に上がってきていたので、それに目を通さなかったダマスク自身のミスである。

 そんなことは気にもとめていなかったダマスクは、部下に連絡を取る。


「おい!現在の状況はどうなっている!?」


『1階の人員配置は終了しました』


『2階も同じく人員配置完了しました』


『ダマスク様の地下室に至る道も人員配置完了です。魔物の召喚も終了しています』


 ダマスクは現在地下の緊急避難用の部屋に来ていた。

 隣にはリーアを含めたロリ奴隷が控えている。

 リーア以外はゴスロリ風のメイド服をこしらえている。

 リーアは少し離れた場所でダマスクを眺めている。


(……旭様達は、魔物の襲撃を難なく突破してこちらに向かって来てくださっている……。ダマスクの企みもこれで終わりね……。私も救ってくれるかしら……?)


 リーアはダマスクの慌てた表情と言葉から、旭達がこちらに向かっていることを把握した。

 旭はレーナに仇なすものに対して、遠慮はしないということは知っている。

 そのこともあって、ダマスクの命運は今日までだろうと推測していた。


「おい、リーア!最悪お前も先頭に出てもらうことになる!その高い防御力とHPを俺のために活かせ!」


「……はい、かしこまりました」


 ダマスクは旭とレーナがリーアを気にかけていたことに気づいていた。

 本当に危なくなった時は、リーアを人質にして旭を始末しようと考えていた。

 奴隷の首輪がある以上、リーアはダマスクを裏切ることはできない。


(やっぱりダマスクは私を最後に使い捨てる気なのね……。旭様が奴隷の首輪をなくすことができることも知らずに……かわいそうな男)


 そう、旭はレーナにつけてられていた奴隷の首輪を外している。

 レーナの代わりに買われたリーアはその情報も知っていた。

 元奴隷なのに自分よりもいい待遇のレーナに嫉妬し、情報収集に励んだのだ。

 ダマスクはそのほとんどの時間をロリ奴隷との情事に費やしていたので、情報収集は容易かったというのもある。


 ダマスクの部下の配置が完了した後、震えたような声で部下から連絡が入る。


『お頭!旭のやつがきました!!……後ろには巨大な蛇と天使と思われる集団が続いています!!その数……2、200以上……!!!』


「200以上だと!?全戦力を持ってこれを排除せよ!!俺のことは命がけでも守れ!!」


『りょ、了解!』


 こうして旭VSダマスクの戦い(実際はただの蹂躙となるだろうが)の火蓋が切って落とされた。



 ▼


 ーーーー旭視点ーーーー

 ようやくダマスクの屋敷にたどり着いた。

 部下の男達を拘束して引き連れているから、時間がかかるとは思っていたが、まさかここまでかかるとは……。

 ちなみに部下の男達は、デススネークとハイエンジェルに囲まれている。

 逃げようとしても拘束されているからそれすらも叶わない。

 まぁ、今更逃げるような肝っ玉の持ち主はいないだろうけどな。


「パパ、ダマスクの屋敷にかなりの人がいるように見えるんだけど……」


 レーナがダマスクの屋敷の方を見て、少し震えたような声を出す。

 俺はレーナの頭を撫でて、安心させるように言葉をかける。


「大丈夫、あれくらいなら眷属だけでも制圧できる。俺の予想通りに一箇所にまとまってくれたみたいだ。おそらくここでダマスクを潰せば、組織諸共崩壊するだろうさ」


 そう、杞憂していた他の場所にも組織の構成員が散らばっているという事態は避けられたのだ。

 眷属は全部で400体。

 人間1人くらいならこの人数でもオーバーキルなので、戦力的には申し分はない。

 ……それに、俺への暴言からレーナのヤンデレが発動する可能性もあるしな。

 今回は徹底的に攻撃するため、止める必要はない。


 俺とレーナはそんな会話をのんびりとしながら、ダマスクの屋敷に向かって歩み続ける。


「おい!冒険者風情がダマスク様のお屋敷に何の用だ!まだ依頼の期限は完了していないだろう!」


「何の用とは随分な言葉じゃないか。そっちが俺たちを襲撃してきたから依頼は反古にされたようなもんだろ。後ろの男達が説明してくれたぞ?」


「は!そんな男達は知らないな!人質に使えるかもと思ったんだろうが、残念だったな!俺たちはそんな奴らは知らない!」


 あらら。仲間を知らないときましたか。

 拘束された男達の裏切られた!と言わんばかりの表情に、少しばかり同情を感じ得ない。


「さて、拘束されている皆さんに聞こうか。ダマスクの屋敷にいる男は君たちを知らないとぬかしているが……選択肢を与えよう。人質としての意味がなくなったからここで殺されるか、ダマスクの屋敷の道案内兼仲間殺しを行うか。まぁ、今後こんな仕事をしないと誓える奴だけだけどな。……どうする?」


「パパ……その選択肢はどっちもどっちだと思うんだ。まぁ、気持ちはわかるんだけど」


 レーナからツッコミが入るが、男達は俺が本気で言っていると思ってくれたらしい。


「「「もうこんな酷いことをする奴の下にはつかない!屋敷の案内と敵の排除を行なうから命だけは!!」」」


 男達から一斉に叫び声が上がる。

 うんうん、生きる希望に縋りたい気持ちはわかるよ。

 選択したなら、拘束を解除してあげようじゃないか。


「よし、わかった。眷属達よ、男の拘束を解除していいぞ」


「「わかりました、主。」」


 拘束を解除された男達は一様にホッとした表情をしている。

 これから元仲間と殺しあうというのにのんきなやつらだと思う。


 そう思って前を見つめていたら、1人の男がレーナの首にナイフを突き立てて、俺の前に立ち塞がった。

 狂気に走った男の様子を他の男達は、馬鹿にしたような目で眺めている。

 男達の視線に命を無駄にしやがってという思いが込められているような気がするのは、気のせいではないと思う。


「ははは……!馬鹿め!!本当に更生するわけがないだろ!!こいつを殺されたくなかったら、今すぐに眷属達を消せ!そして大人しく殺されろ!お前を殺せば……俺は一生遊んで暮らせるんだ!!」


 欲望にまみれた男の末路というのはこうも醜いものなのか。

 どう対処するか思案していたら、デススネークとハイエンジェルからテレパシーが入る。


(主、どうしますか?消えたと思って保護色を発動させますか?)


(下衆な手でお嬢様の体に触れているなど……!主、私たちにあの不届きものを殺す許可を!)


 レーナのことも大切に思ってくれている眷属達に、感動して涙ぐみそうになったが、今はそれどころではない。

 それに……


(……お前達は手を出すな。あいつは俺が殺す。できるだけ苦しめて殺してやる)


((わ……わかりました。主の御心のままに))


 眷属達から恐れたようなテレパシーが届く。

 実際、今の俺は怒りでどうにかなりそうだ。

 自分の大切なものを奪う奴らは……楽には殺さない。


 ーーーー[スキル習得条件を確認。スキル【憤怒】を獲得しました。これにより攻撃力が増加します]


【憤怒】か……。今の俺の心情にぴったりだな。


 レーナを拘束している男は慌てたように叫ぶ。


「お、おい!何をのんびりしてやがる!早く眷属共を消せ!」


「パパ……わたしは大丈夫だから……はやくこの男を倒して……!」


「あぁ!?人質の分際で生意気なことをぬかしてんじゃねぇぞ!?」


 レーナの首元にナイフが少し食い込む。

 食い込んだ部分から血が流れてレーナの服を汚していく。


「……グッ!?痛い……痛いよ……!」


「旭!娘が大切ならさっさとしやがれ!」


 男が何か叫んでいる……が、気にしない。

 あいつは何をやった?

 レーナを傷つけた……?


 そう考えた途端、怒りが爆発した。

【叡智のサポート】から魔法の一覧が脳裏に届く。


「……うるさい、黙れ。お前は楽には殺さないでおいてやろうとおもったが、変更だ。生きたことを後悔させてやる。切断魔法【四肢消失】」


 俺の魔法が発動した瞬間に、レーナは拘束が解かれ、俺の元にかけてくる。


「な、なんだ……!?何が起こった……!?……ガ!?アァァァァァ!俺の足と手がぁぁ!!」


 俺が放った魔法はその名の通り四肢をなくすものだ。なくすというよりかは切断するといったほうがいいか?

 男の両肩両足からは血が噴水のように噴き出している。

 そのまま放置すれば出血多量で絶命するだろう。

 だが、レーナを傷つけたあいつは生きたまま苦しめると決めている。


「【持続回復ヒーリング】をかけてやる。痛みを永遠に味わうがいい。」


 俺はそう言って男に【持続回復】をかける。

 この魔法は中級の回復魔法だが、四肢を失った痛みまでは消すことができない。

 男の表情に絶望が浮かぶ。

 叫びたいが、痛みが持続しているのでもはや言葉を出すことさえも許されない。


「おい……お前らもこうなりたくなかったら、先ほど言った言葉を違えてくれるなよ?違えた瞬間に殺してやる。あとこいつはお前らの中の誰かが拘束しておけ」


「「わかった……!決して裏切らない!だから、命だけは……!」」


 そう言って2人の男が未だに声にならない悲鳴をあげている男を拘束する。


「さて、待たせてしまったな?じゃあ、ダマスクの場所まで案内してもらおうか」


 一連の流れで空気になっていた屋敷前にいる男がハッとした表情になる。


「ダマスクのお頭のところには行かせるか!や、野郎共!旭と裏切り者をぶちのめせ!」


 知らないと言ったり裏切り者と言ったり……色々矛盾していることに気がつかないのかね?

 まぁいい。これで完全に敵対となった。

 敵には容赦しないのが俺のポリシー。

 だが、ダマスクまでの道のりで少しとは言えども魔力を消費したくないので、眷属達に梅雨払いを任せることにする。


「開戦だ!デススネークとハイエンジェルは、俺がダマスクの元にたどり着けるように周りの敵を殲滅せよ!情けは無用だ!歯向かうものは塵も残さず全員葬り去れ!ダマスクと連絡を取っていた奴は奴がいる場所まで案内しろ!妙なことを考えたら……わかるな?」


「「任務了解しました!我々の全力を持って敵を排除します!」」


「わ……わかってるよ。あんたに敵対はしない!ダマスクのやつがいる場所には見当がつくからそこに案内する……!」


 デススネークとハイエンジェルは高らかに宣言したあと、ダマスクの部下に向かって特攻していく。

 その後を裏切られた男達がへっぴり腰ながら後を追っていく。

 連絡役の男はもうどうにでもなれとばかりに、叫んで道案内を開始した。


 おっと、レーナの傷を癒しておかないとな。

 レーナを抱きしめて魔法を唱える。

「【完全回復パーフェクトヒール】。レーナごめんな、痛かったよな……?もう大丈夫だからな?」


「パパ……ありがとう。【完全回復】はオーバーヒールな気もするけど……パパに何もなくてよかったぁ……」


 レーナはそう言って俺の胸に頭を擦り付ける。

 不安にさせてしまったから俺も抱きしめる力を強くする。


「パパ……リーアって子も必ず助け出そうね……」


「勿論だ。そのためにもダマスクをどうにかしないとな」


あにさん!早く行きやしょう!」


 いつのまにか兄さん呼ばわりされているのが気になるが、早く行くというのには賛成なので、俺たちもダマスクの屋敷に踏み込むことにする。

 レーナは片腕で抱っこしたままだ。

 次にレーナが人質に取られたら屋敷ごと滅ぼしかねないからな。

 それだとリーアが救えない。

 そうならないための処置であったが、当のレーナは蕩け顔で俺の首をスンスンしている。

 これから戦闘だというのになんとも気の抜ける状況だった。


 ▼


 ダマスクの屋敷の中は悲鳴と怒声が響き渡っていた。

 デススネーク達は猛毒で敵を倒し、ハイエンジェル達は【断罪の聖剣】と【銀翼の聖弾シルバーバレット】で敵を殲滅して行く。

 というか、【銀翼の聖弾】なんて使えたんか。

【叡智のサポート】が教えてくれなかったら、気づかなかったぞ……。

 眷属の後ろに続く男達は、戦闘の出番がないからか絶命した男達を端にどけている。

 仲間殺しをするかもと思っていたら、俺の眷属が圧倒的な戦闘力で殲滅して行くから呆気に取られたのだろう。


「主!1階は時期に殲滅が完了します!先に進んでください!」


 ハイエンジェル達がそう宣言する。

 まだ突入して10分と経っていないはずなんだが……ダマスクの部下ごときでは俺の眷属を止めることはできないらしい。

 ……まぁ、ナーガとゼウスが禁忌級だから仕方がないのかもしれない。


「兄さん!ダマスクは恐らく地下にいると思われます!勢力のほとんどをそこに集中させていると思われますが……どうしますか!?」


 ハイエンジェル達の動きを確認していたら、連絡の男から叫び声があがる。

 そうか、ダマスクは地下にいるのか。

 そこにリーアもいるのだろう。

 まぁ、殲滅すればいいだけだし、眷属達の力もいらないだろう。


「俺とレーナ、あとは案内のお前だけで行く。眷属達は地下以外の殲滅を頼む」


「「かしこまりました!この身に変えても遂行します!!」」


 そう叫ぶ眷属達の姿を後にして俺達は地下に進む。


「パパ……ものすごい数の魔物がいるね。多分森の時より多いんじゃないかなぁ?どうするの?」


 レーナの言う通り、地下に降りてきた俺たちの目の前には廊下に所狭しと魔物がひしめいている。

 ーーーーというか、こんなに召喚したら戦力として役に立たないんじゃないか?

 ダマスクが魔物を肉壁として認識している件について。


「あんなにひしめいていたら物理攻撃はできなさそうだよなぁ。時間稼ぎか?」


 そんなことを言っていたら、魔物達が多種多様な魔法を撃ち込んできた。

 どうやら遠距離タイプの魔物を用意していたらしい。

 魔法が俺たちの目の前に迫る。

 この魔法が当たれば俺たちは跡形もないだろう。

 しかし……


「【聖域サンクトゥアーリウム】」


 まぁ、それも俺に攻撃が届けばの話だ。

【聖域】に防げない魔法はない。


「敵の立場だとかなり厄介ですが……味方だとかなり安心しますね……!」


 連絡の男が何かぬかしている。

 今回は案内人として同行しているので魔法が届かない事態に安心しているようだ。


「レーナ、ここで禁忌魔法使っても問題ないと思うか?」


「んぅぅ……。魔物の攻撃魔法が中級から上級魔法だから、上級魔法のほうがいいかも。というより、禁忌魔法だと屋敷が崩れる気がするよ」


「となると……どの魔法がいいかね……」


 ーーーー[疑問を確認。上級魔法での殲滅に適した魔法を検索します。……検索完了。【光流星ホーリーメテオ】か【炎獄の台風ブラストストーム】のどちらかをお勧めします]


 痒いところに手が届く【叡智のサポート】は本当に有用だな。

 この件が終わったら、まじめに新しい名前を考えるとしよう。

 さて、【光流星】でもいいが、地下というのが気になるところなんだよな。

 それで言ったら炎もダメなんだろうけど、魔法による酸素消費はないから使うなら【炎獄の台風】かな。


「レーナ、使う魔法が決まった。音がすごいと思うから耳塞いでおいてな。案内人のお前も一応耳と目を塞いでおけ。失明してもしらないからな」


「わ……わかりやした……」


 そう言って男はうずくまる。

 さてと……一応念のために【魔法威力向上】を使用しておくかな?

 上級魔法とはいえども、一発で倒せないと意味ないし。


「さぁ、ダマスクへの道を開けてくれよ?【炎獄の台風ブラストストーム】!」


【炎獄の台風】が魔物に向かって飛んで行く。

 炎の竜巻が横向きで向かって行く様はなかなかに壮観だ。

 魔物達は避けることもなく、魔法が衝突する。

 炎が当たった途端に、肉が焼ける匂いが辺りに充満していく。


 炎が消えた後、旭達の前に魔物の姿はなかった。

 うんうん、これで問題なくダマスクの部屋に行けるってものだ。


「兄さん……今の魔法は一体……」


 満足げに廊下を眺めていたら、男とレーナが驚いたような顔をしていた。

 ……いや、レーナはどちらかというと呆れているな?


「ん?あぁ、炎上級魔法の【炎獄の台風】だ。上級魔法は使えるものもいるんだろう?」


「パパ、あの威力は正直禁忌魔法級だと思うよ……?もしかして、【魔法威力向上】とか使った?」


「あぁ、一発で倒せないと色々と面倒だからな」


 その言葉を聞いた男は諦めに似た表情を浮かべる。


「……俺たちはとんでもない御仁に喧嘩を売ってしまったんだな……。このまま生き延びられますように……」


「それはお前の働き次第なんだが……。まぁ、道は開けたんだから、さっさと案内を再開してくれ」


「サー!イエッサー!」


 俺は男に案内を再開させ、ダマスクが潜んでいる部屋の前にたどり着いた。

 ドアを蹴飛ばし、中に入り込む。


「ダマスク!俺たちを襲ってきた報復をしにきたぞ!!」


「あ、旭!? どういうことだ!!まだここに来てから30分も経ってないじゃないか!あいつらは何をしているんだ!」


 ダマスクは慌てながら叫んでいる。

 周りにはゴスロリ風のロリ奴隷が控えている。

 服装が乱れているのはそういうことをしていたのか?

 襲撃されているというのによくもまぁ……そんなことができるもんだ。


「うっ……!嫌な匂い……!」


 レーナはそういって俺に強く抱きついてくる。

 まぁ、ダマスクのイカ臭いにおいはきついよなぁ。俺もきつい。

 部屋の中に雄と雌のにおいが充満しているのは、戦意を消失させる。

 それを計算してやっているのなら感心できるんだが……それはないな。

 したくなったからしたに違いない。


 ダマスクは俺の近くにいる連絡役の男を見つけて吠えている。


「おい、お前!なんでその男と一緒にいる!俺の部下なら今すぐにレーナをこっちに連れてこい!」


 いやいや、俺と一緒にいる時点で俺の人質って言う考えには至らないのだろうか?


「……ダマスクのお頭……いや元お頭。俺はもうあんたについてはいかない。俺は兄さんについて行く!」


「いや、俺のパーティに男はいらないんでお断りします」


「…………ズーンorz」


 即答で断られた男は地面に両手をついて落ち込んでいる。

 男なんていたらいつNTRれるかわからないからな。

 ハーレムパーティだけでいいです。


「パパ……ハーレム作る気なの……?……まぁ、他の男の人が一緒にいるのはわたしも嫌だけど……」


 レーナもハーレムは否定かな?

 でも男の夢だから勘弁してほしい。


 俺と男の一連の流れを見ていたダマスクは、ハッとしてさらに怒鳴り込む。


「ふざけるな!レーナは俺のもんだ!旭の女じゃねぇんだよ!」


「レーナをものでしか見ていないお前にとやかく言う資格はない。とりあえず、うるさいからちょっと黙っていろ。ーーーー【絶望を呼ぶ旋風】」


「グッ……!?ガハッ……!」


 ダマスクは俺の恐怖魔法を受けて地面にうずくまる。

 ロリ奴隷達が支えようとしないことから、ダマスクがどう思われているかわかるだろう。

 見るからに安心している。

 中には涙を浮かべている子もいる。

 無理やり情事をさせられたのは、トラウマだっただろう。


「……響谷旭様……ダマスク様の命により、貴方様を……倒します」


 ロリ奴隷達をどうしようか考えていたら、リーアが俺たちにそんなことを宣言した。

 言葉とは裏腹に表情はそんなことをしたくないと言わんばかりだ。

 ……どうやらダマスクは最後の手段としてリーアに戦わせようとしたらしい。

 前衛向きのステータスだったからというのもあるのだろう。


 俺がさわれば奴隷の首輪は外せると思うが、今のリーアに近づけるかと言われると微妙なところだろう。

 リーアの意思とは関係なく、【嫉妬】のオーラが吹き出している。

 魔法を封じられていても攻撃とかのステータスは強化されているだろう。

 どうやって救うか迷っていると……抱き上げているレーナが神妙な顔で俺に話しかけてきた。


「パパ……ちょっと下ろして?わたしが……あの子を止めるから、隙ができたら首輪を解除して。わたしの首輪に触れた時に難なく外せたパパならできると思う」


「俺は構わないが……大丈夫か?リーアは【嫉妬】の効果で強化されているぞ?」


「大丈夫、わたしも【狂愛】の効果が溢れているから。パパを倒すなんていっちゃう女は許せないし……」


 そう言うレーナも【狂愛】のオーラが吹き出している。

 まぁ、禁忌魔法も使えるんだろうし、問題はなさそうだが……。

 救出対象であると言うことも忘れないでほしい。

 もし殺しそうになっちゃったら俺が止めることにしよう。


「あら……レーナさんが私の相手をしてくれるんだね。……私ね?貴女が羨ましくて仕方がなかったの

 。私と同じエルフ族でダマスク……様の奴隷だったのに、旭様に救われて……さらに深い愛情を注いでもらっている。私とは真逆の存在……。私は貴女を殺したくなるほど羨ましい!」


「まぁ、パパに1番愛されてるのは事実なんだけど。ダマスクの命令とはいえパパを倒すなんていう女は……わたしが倒さないと。それに今の言葉からして、貴女もパパのことが好きになりつつある感じなんだよね……。パパはハーレムを作りたいみたいだけど、わたしが認めない限りはそんなことは許さない。その脅威となりそうな女は絶対に倒す……!」


「いや、レーナさんや。リーアは救出対象だからな?殺すなy「パパは黙って見ていてください」……わかりました」


 一触即発な空気だったから、レーナに釘を刺そうとしたんだが……食い気味に封じられてしまった。

 こうなったら好きにさせるのが吉かなぁ。

 殺さないようにだけ注意しておこう。

 俺は未だにうずくまっているダマスクの首を掴んで、部屋の入り口付近に移動する。

 ロリ奴隷の女の子達も俺に続いて移動してくる。

 ダマスクの体を蹴りつけているのは、いままでの仕返しのつもりなのだろうか?


「グッ……俺を……どうするつもりだ……!?」


「あ?レーナとリーアの戦いの邪魔になるから、俺と一緒に観戦するんだよ。お前をどうするかはそのあと決める。あぁ、そうそう。その前に……【勲章EDを無くす病】」


 俺に魔法をかけられたダマスクは絶句する。


「な、何をしやがった!」


「あー、勃起不全になる魔法をかけただけだよ。レーナの戦闘中に興奮されても困るんでな」


「な……なん……だと!?俺の息子が……再起不能に……」


 ダマスクは落ち込んでいるが、そもそも襲撃されているのに盛っている方がわるい。

 殺すまで勃起不全にショックを受けていればいいと思う。


 さて、悲惨な戦いが始まるだろうと息を飲んで2人を見ていたんだが……実際に起こったのは予想外のことだった。


「大体、旭様をパパって貴女は何を考えてるの!?義理とはいえ父親と娘が愛し合っているなんておかしいとは思わないの!?」


 ポカポカと聞こえてきそうな音を立てて、リーアはレーナに問い詰める。


「いいじゃない!実際のお父さんよりもかっこよくて、本当のパパみたいなんだから!パパに恋愛の感情を持つエルフがいてもおかしくないじゃない!」


 レーナもそれに対応するように、リーアをポカポカと攻撃を仕掛ける。


 ……おやぁ?魔法とかをぶつけ合う戦いになるんじゃなかったの?

 なんか子供の喧嘩にしか見えないんだけど……。

 いや、年齢的にはその通りなんだけどさ。


「確かに旭様はカッコいいわよ!一目惚れしてもおかしくないと思うわ!私もそうだもの!」


「……やっぱりパパのことを狙ってた!パパの最愛の女はわたしだけでいいんだもん!の入る隙間はないんですー!」


「そんなのわからないじゃない!そもそも私を助けるために乗り込んできてくれたんでしょ!?依頼の確認の時にそんな話をしているのを扉の外で聞いたんだからね!ダマスクから救ってもらたらにだって負けないんだから!」


「うぐ……っ!それを言われると反論できないけど、パパの愛情は私が1番もらうんだから!」


「ならそれ以上に愛情をもらえるように、旭様を誘惑するだけよ!」


 なんか聞いていて恥ずかしくなってくるな。

 戦闘に参加していない俺に心理ダメージを与えないでくれ。

 俺はいたたまれなくなって、隣にいるダマスクに話を振る。


「ダマスク……リーアの中でお前から俺に救い出されるのは確定みたいだが……?」


「言うな……アイツがそんな事を考えていたとは……」


「まぁ、レーナに手を出した時点でお前はもう生きられないんだけどな。また強襲とかされても困るし」


「ぐっ……くそぅ……。やるならさっさと殺せ!その瞬間リーアも死ぬがな!そう言う契約をアイツにはしておいた!さぁ、どうする旭!」


 ダマスクは自暴自棄になったのかそんな事を叫び出した。

 ただ、それくらいは問題ですらない。


「ならあの子の首輪を解除すればいいだけだろう?死ぬのはお前1人だ」


「なっ……!?」


 絶句するダマスクを連絡の男に任せて、俺はレーナとリーアのところに向かう。


「パパ!この女狐に近づいちゃダメ!やっぱりリーアはパパを狙ってた!」


「旭様、今は来ないでください!好きな人を攻撃したくないんです!」


 レーナとリーアが息を合わせたように俺に近づかないように叫ぶ。

 ……実は仲良くなってないか?


「リーアの首輪の効果を解除する。そうしないとダマスクを殺してもリーアが死んでしまうからな」


「「……なっ!?」」


 驚いている隙をついて俺はリーアに一気に近づき、首輪に触れる。

 俺の手が触れた途端、首輪はパキンと音を立てて消滅した。

 これでリーアは問題ないだろう。


「首輪が……!やはり旭様は奴隷の首輪を無効化できるのですね……!」


「当たり前じゃない!わたしの愛するパパだもの!」


 レーナとリーアが再び俺のいいところを言い合う口喧嘩?を始めたので、ダマスクのいる場所に戻る。

 ダマスクはもはや万策尽きたと言わんばかりに、下を向いていた。


「さて、これでお前の策も尽きたわけだが……最後に言いたいことはあるか?」


「クッ……俺1人を倒したところでいい気にならないことだ。俺みたいな悪徳な商売をしている男は多いんだ

 。近いうちにレーナをさらおうとする奴がまた現れるだろうy「もういい、くたばれ。【心蝕む蠱毒ハートポイズン】」……グハッ!?」


 あまりにテンプレなことを言うもんだから、セリフの途中で恐怖魔法の禁忌級を放ってしまった。

【心蝕む蠱毒】は心臓の動きを止める魔法だから、絶命は免れない。

 まぁ、レーナを狙う輩がやってきたところで返り討ちにするだけなんだが。


 これでダマスクの組織は完全に潰した。

 地上部隊はどうなったのかな?


(ハイエンジェル隊、デススネーク隊に告ぐ。ダマスクの処分は終了した。そちらの状況はどうなっている?)


(こちらは地下を除く全てのフロアを殲滅しました。商売用と思われる奴隷はどうしますか?)


(ハイエンジェル達の回復魔法で外傷を治しておいてくれ。ともかく、よくやった!これで俺たちの任務は完了だ!)


 テレパシーを終了した後、地上の方から勇ましい雄叫びが聞こえる。

 おそらくは眷属が勝利の雄叫びを叫んでいるのだろう。


「レーナ、これで終わったの……?もう……私は自由になれたの?」


「そうだよ、リーア。パパがダマスクを殺したことで、貴女は自由の身になった。これからどうするの?」


「私は……旭様についていきたい。好きになった方の近くでこれからの生を歩んで生きたい」


「やっぱりそうなっちゃうか……。……パパに敵対しないって言うなら許可してあげる。でも!1番パパのことを愛しているのはわたしなんだからね!」


 ダマスクの処理が終わったのでレーナとリーアの近くに行こうとしたら、そんな会話が聞こえてきた。

 君たちさっきまで言い争いをしていなかったか?

 というか、レーナが他の女が俺の近くに侍ることを許すなんて……。

 ヤンデレはどうした?


「パパ、これからはリーアも一緒に面倒を見て欲しいんだけど……ダメかな?」


「いや、俺は構わないんだが……レーナはいいのか?レーナ以外の女が俺の近くにいることになるが」


「リーアのパパへの愛情は本物だったから……、特別。でも!パパはわたしを1番に愛さないとダメなんだからね!」


 レーナは顔を赤くしてそんなことを説明する。

 言ってから恥ずかしくなったのだろう。


「リーア、そう言うわけでこれから君は俺たちと行動を共にすることになる。リーアが嫌だったら強制はしないが……」


「……ッ!そんなことあるわけないじゃないですか!むしろこちらからお願いしたいです……!」


 リーアは涙目で俺に叫ぶ。

 彼女からしたら好きになった人と一緒に過ごせるということの方が大事なようだ。


「わかった。じゃあリーアもこれからは俺たちの仲間だ。もう敬語は使わなくていいから、これからよろしく頼むな」


「はい……!……ところで、ひとつお願いがあるのです……いや、あるんだけど……」


「どうした?俺にできることなら聞くぞ?」


 リーアが俺にお願い?なんだろう?

 レーナはリーアの言葉を聞いてまさか!?という表情をしている。


「これからは……お兄ちゃんと呼んでも……いい?」


 ……リーアは今なんて言った?

 俺のことをお兄ちゃんと呼んでもいいっていったか?

 義娘の次は義妹ですか……半端ないな異世界。


「あー……、リーアがそれでいいなら構わないが……」


「パパ!?」


 レーナがどういうことだと言わんばかりに俺の体をがくがくと揺する。

 いや、ダークエルフの少女にお兄ちゃんって呼ばれるのが思いのほか嬉しかったから、仕方ないと思うんだ。

 俺のセリフを聞いたリーアは、満面の笑顔でこう答えた。


「ありがとう、お兄ちゃん!私、お兄ちゃんのこと大好きだよ!」


 そういって、俺の体に抱きついてくる。

 前にはレーナ、後ろにはリーアに挟まれる形だ。

 前後をロリでサンドされているこの現状。

 前の世界だったら事案案件だな。

 そうじゃなくても事案案件なんだけど……。


「ちょっとリーア!?貴女さっき言ってたことと矛盾してるじゃない!リーアも同じことしている時点で説得力ないんですけど!!」


「レーナのパパよりはまだましだと思うけど!?パパと娘の恋愛より、兄と妹の恋愛の方がまだマシってもんよ!」


 俺からしたらどっちも変わらないと思うんだが、言い出せる雰囲気ではないので静かにしておこうと思う。


 こうして、ダマスクの依頼は依頼者の死亡という形で終了した。

 冒険者ギルドはこの展開を望んでいたようだから、罰せられることはないと思うが……一度確認しに行かなければなるまい。


 そう考えた俺はこの後どうするかと思案することにした。

 時刻はまだ朝方だ。

 1日ゆっくり休んでから冒険者ギルドに行っても問題はないだろう。

 俺はレーナとリーアの口喧嘩を間で聴きながらそんなことを考えるのであった。



「……あのー……俺はどうしたらいいんですかね……?」


 部屋の入り口では連絡の男がロリ奴隷達に殴られているダマスクの死体を眺めながらポツリと呟いていた。

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