第三話
「クソ、言うことを聞けこのクソ鳥が!!」
ツバキの言葉で薬で意思を奪われた鳥龍達が壁を作って空賊達を閉じ込めていた。空賊達の言うことは頑として聞かず、小型とはいえ鳥龍なので殴った程度ではびくともしない様子だった。
そこへ大きなダウンウォッシュを伴ってデュラン達が着島し空賊達は悲鳴を上げた。
「投降しろ。牢屋の冷飯だって海龍の餌よりマシだろう?」
圧倒的威容を誇る銀龍の上から降伏勧告され、それが生き残る最後のチャンスと悟って島に残っていた空賊達は投降した。
「お待たせしましたツバキ様。ウェルデール・トランスポーター、ただいまお迎えに上がりましたっととと」
破損した建物の前に降り、顔を覆っていた兜のバイザーを上げるとデュランは乗客であるツバキに微笑みながら小さく礼をする。ツバキがそれを無視して抱きついてきて苦笑した。
「無事でよかった! そんな事は全然ないのに死んじゃったかと思ったんですよ⁉︎ 信じてましたけれど‼︎」
「言わなかったな、俺は不死身の男なんだ、でも知ってたろう? 俺とウェルズの凄さは。だから信じてくれてありがとう」
ぎゅう、とデュランに抱きついたツバキが腕を締めるがデュランの着た鎧が硬くて痛くなってきた。
「硬いです、全然抱き締めてるつもりになれません」
「鎧を着てるからな。帰ったら幾らでも抱きつかせてやるから今は我慢してくれ。そんな事より……よく頑張ったなツバキ」
籠手でツバキの髪を挟んでしまわないよう慎重に撫でる。籠手を外して思い切り撫でてやりたいところだがそれどころではないので仕方がない。
「ツバキ、そこの鳥龍達に空賊の奴ら掴んでついてこれるか聞けるか?」
「わかりました! みんな、その人たちをそれぞれ掴んでください!」
そう言うと、鳥龍達が雑に空賊達を引っ掴んだ。痛え! や折れる! といった悲鳴が聞こえて慌ててツバキが訂正しようとしたが、デュランがまあ自業自得だしと言ってほうっておかせる。
「よしこれを着てもらうぞ。重たいから気をつけろ?」
デュランが上からかぶせるように鎧を被せる。デュランの物と違い飛龍の鱗で覆うのではなく金属プレートでできている。大急ぎで雑に着せられた上にサイズもあっていない為、外れはしないもののガタガタしていて着心地は決していいとは言えない
しかもサイズが合わないせいで肩に全力で重量がかかってしまい膝ががくがくしてしまっていた。
「おい大丈夫か? あとちょっとの辛抱だ、我慢してくれ」
そのまま抱えあげられてドッスンとウェルズのごつごつした鎧の隙間に設けられた鞍に座らされ、ベルトで二重三重に足を縛られる。
「無理やり付けたから握るバーは無いんだ。悪いけど鎧の端っこ掴んでくれよな」
ツバキは頷くと淵をがっちりと掴んだ。デュランはそれを見て頷くとツバキの頭のバイザーを下ろして開かないように顎で留める。手早くデュランも鞍に跨ってウェルズの体を起こさせた。
「ついてきてください!」
ツバキが飛び上がったと共に鳥龍達に声をかける。鳥龍達はウェルズの後をしっかりとついてくる。内臓が浮き上がるような感覚を伴いながら縦長の島の頂点から下、青海へ向けて垂直落下を開始した。鳥龍達も空賊の悲鳴を連れてウェルズの跡をついてくる。水面ギリギリで切り替えて水平飛行へ移行すると、水面下で海龍達が並走している様が見えてなかなかに心臓に悪い。大丈夫とは分かっていても怖いものは怖いのである。
しばらくの間無風ながらも大雨の降る
「おいデュラン! アレ何とかしてくれよアレ! 逃がしてんじゃないよバカデュラン!」
「いやツバキ乗ってるんだが?」
「だったら僕のヴェントに乗り換えてやってきてくれよ! あんなの相手できないじゃん!」
飛行速度で負けていればいかに龍騎士と言えど勝ち目はない。数の利で抑え込もうにもあまりにも速度差があるのだ。
「わーかったわーかったから! ってうおっ!!」
此方の姿を認識したであろう黒龍がこちらに向けて飛んできた矢を躱す。次の矢を準備するバルームの目には狂気が宿っていた。その眼差しはデュランにもウェルズにも向いていない。向いているのはツバキだ。
「こりゃだめだツバキ! 踏ん張れぇぇ!!」
「そっちの腕龍さんについて行ってくださぐえっ!」
ウェルズが翼を固定し例の飛び方をして急加速する。後ろをついていた鳥龍達はツバキの言葉に従ってユオンのヴェントに追従していた。
ウェルズとファブル、互いが高速度になり真正面から衝突するような軌跡を描いている。ツバキは今までにないすさまじい急加速に首を若干痛めちょっと出しちゃいけない声をだした。
「みんな離れろ!! デュランの邪魔じゃん!!」
ユオンの号令に必死にバルームを追っていた龍騎士たちが反転し離れていく。デュランはそれに感謝しながら正面の状況に全神経を集中させる。
敵真正面、
互いが放ったのは同時。ウェルズが最高速に達し、その状態で放たれたデュランの矢がドン、と不自然な音を立てた。互いの矢が衝撃で干渉しあい間一髪外れる。そしてデュランの弓はボウガンと違い速射ができる。デュランの二射目と共に龍同士が直近を通過した。
「ウェルズ!!!」
通過した瞬間ウェルズが思い切り全身を起こ翼を大きく広げる。翼が雲を引くほどの急減速と急旋回、翼の限界と人体の限界寸前を越えた超機動でデュランの視界が暗闇に染まる。
バルームは至近で発生した猛烈な音に耳を思わず抑えた。立て直し旋回し再攻撃を敢行しようとするが、ファブルはそれに応じない。力を失ったように必死にもがくように飛んでいる。バルームは見た、翼の付け根に大きな筒が付いた矢が刺さっていることを。
そして背後から迫るウェルズの口が火炎を開放しようとしていることを。
「おしまいだ。中飛なめんなよ」
視界が回復し始め世界は暗闇からモノクロへ復帰した。その先に居る黒龍へ向け、デュランはウェルズの鱗を一度叩くと右手で二本指をさした。
火炎が迸る。ファブルも咆哮しながらバルームを守るべく風の結界を彼の周囲に張り巡らすが、火炎を受けた筒が大爆発を起こし、黒龍諸共空中に大きな花火を咲かせた。
「やっと一息つける。ツバキ! 戻ったらとりあえず飯にしようか!! 蜀剣がいいもの腹いっぱい食わせてくれるぞ!」
結果を一瞥することもなく、デュランは高度を上げていく。周囲の龍騎士達から歓声が上がっている。空域各所で空賊達は抵抗をやめ投降していっているようだ。それを見て警戒を解き飛び方を羽ばたきに戻し減速した。
デュランが後ろを見れば鎧をつかんだまま頭を伏せているツバキの姿があった。
「ツバキもう大丈夫だ、頭上げていいぞ? ツバキー?」
「おい? ツバキちゃん気絶してんじゃん?」
再び並走してきたユオンが真横からツバキの様子を観察してため息を吐いた。デュランでさえ気絶寸前に行く機動にツバキが耐えられるはずもなかった。気絶しても決して手を離さなかっただけ、ツバキは健闘したといっていいだろう。
「ツ、ツバキィィィィ!!」
デュランの悲鳴が空に響き渡った。
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