その3 つい意識してしまう

 多分亜理寿さんは僕より早く読み終わるだろうな。

 そう思ったので二階の自分の部屋へ行ってSF系の本をちょい漁る。

 硬いのライトなの漫画取り合わせて5冊ほど持って再びリビングへ。

「もし読み終わって暇なら適当にこの辺でもどうぞ」

「ありがとうございます」

 僕ももう一度読書モードへ。


 読み終わったらもう昼だった。

 何せ長い本だしな。

 でもボイラーの方は大丈夫だろうか。

 見に行こうかなと立ち上がったところで亜理寿さんが口を開く。

「ボイラーはさっき薪を足しておきましたから大丈夫だと思います」

「ありがとう。つい気がつかずに読んでいた」

「いいえ」


 さて、ついでだから昼食でも食べておくか。

 キッチンに用意してあるのは豚汁とご飯。

 あと冷蔵庫に入っている常備菜も少し出す。

 キンピラゴボウとか卯の花とか。


 用意していると亜理寿さんも来た。

「亜理寿さんもお昼?」

「ええ、ちょうど読み終わったので」

 なら常備菜をもう少しずつ出しておこうかな。

「亜理寿さんも常備菜少し食べるよね」

「ええ。ちょっと出しておいて頂けると助かります」

「わかった」

 朝夜は大体一緒に食べているので食べそうな量は予想できる。


「いただきます」

 お互いそう言って昼食開始。

 このシチュエーションって実は相当珍しいよな。

 通常は最低でも美鈴さんと真理枝さんが一緒だから。

 何か微妙に緊張するのは別に相手が亜理寿さんだからじゃない。

 家でこの状況が珍しいからだ。

 とりあえずそう思う事にする。


 でも二人で向かい合って食べるとつい亜理寿さんに視線が行ってしまう。

 睫毛が長いんだなとか髪も綺麗だなとかやっぱり美人だよなとか。

 色々考えかけて慌てて自分をセーブする、

 亜理寿さんはそういうのは苦手だった筈だ。

 他人特に異性は苦手だった筈だ。

 だからそういう事やそういう相手としては考えない。

 僕はそうするつもりだった筈だ。


 だから出来るだけ亜理寿さんの方を見ないようにしようと試みる。

 でもこういう場合どの辺に視線を持って行くのが普通なのだろう。

 その辺がちょっとわからなくなる。

 食事だけを見ているのも変だし。


 考えて見れば同世代の女の子と同居しているなんて普通はありえない状況だ。

 いつもは人数が多くて逆に意識しないで済んでいたけれど。

 この状態でなにもありませんというのは部外者には信じて貰えない状況だろう。

 抜田先輩から前に脅かされたように。

 かといって急いで食べて逃げるというのも何だよな。

 亜理寿さんに不審に思われてしまいそうだ。


「文明さんどうしました。何か箸が進んでいないようですけれど」

 まずい、気づかれた。


「何でも無い。ちょっと考え事」

 嘘では無いよな、この返事でも。

 そんな訳で心を無にしようと思いつつ、機械的に箸を口元に運ぶ。

 亜理寿さんの方も食事が終わりそうだし副菜も無くなったしそろそろいいかな。


「それじゃごちそうさま」

 そう宣言して自分の食器をまとめて片付けへと逃げた。

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