第16話 始まりと終わり

その1 此処の日常

 食事の後は露天風呂工事の皆さんが相次いで到着。

 父は教授を始めグループの皆さんと挨拶をし、教授とちょっと話込んだ後に何故かチェンソーを片手に丸太の前に。

 ちなみにこの丸太はサバゲ場から引っ張ってきたあの太くて重い奴だ。

 今ではその丸太の一部はいくつか輪切りにして立ててある。


 父はそのうち一本を大きくて重い方のチェンソーで切り始めた。

「もう数十年ぶりだからな、上手く行くかな」

 なんて言いながら右に左にカットしている。

 ウィーンウィーンとカットしているうちに何となく形になってきた。

 これはきっと……


「何故ペンギンなんだ」

「定番はフクロウなんだけれどな。それじゃ面白く無いってんで昔練習した」

 ちょこっと羽根を広げてちょこんと上を見ている子ペンギンだ。

 しかしまさか父にこんな特技があると思わなかったな。

 確かにメカ操作関係は何でも好きなのだけれど。


 チェンソーを止めると周りから拍手が巻き起こる。

 確かに悪くない出来だ。

 父は照れ笑いを浮かべながら口を開く。

「最近デスクワークばかりで筋力も腕も落ちた。これ以上細かく彫れる自信が無い」

「でも見事ですなあ。チェンソーアートは何処かで習われたんですか」


「この辺の大人は昔はこれくらい出来たものです。もう三十年以上昔ですけれど」

「なら負けじと私もやってみますか」

 今度は教授がチェンソーを持って丸太の前へ。


 何か勝手に意気投合しているので、取り敢えず僕は父を置いて車の方へ。

 取り敢えず荷物のタイヤを下ろしておこうと思ったのだ。

 一度前進した後、バックで倉庫前につける。

 倉庫と車のバックドアを開けてタイヤを出す。

 タイヤは思った以上に重い。

 ヨイショヨイショと転がしながら何とか倉庫の隅へ。

 二つ運んだ処で休憩していると、アンドレア先輩がやってきた。


「いいなこの車。冬になったら色々遊べそうだ」

「その時は色々ご指導お願いします。ところで何の用で」

教授センセーがバイク貸してくれだと。お前の親父と走ってくるそうだ」

 おいおい。


「怪我しなければいいんですけれどね」

「何かおっさん同士意気投合しているぞ。このあたりを一周するんだと」

 ちなみに改造カブは二台置いてある。

 裏の山で遊ぶ関係上、結局二台ともこの家の倉庫管理になったのだ。

 そんな訳で僕も手伝ってバイクを二台とも表へ回す。


「お、済まないな。悪いがちょっと借りる」

「父さんあまり無理はしないでよ」

「まあな、あと母さんには内緒な」


 まあ大丈夫だろう。

 そう判断して僕は倉庫の方へ戻る。

 途中でおっさんの乗ったカブ二台が僕を追い越していった。

 まずは裏山のバイク道を走る模様だ。

 なんだか僕以上に満喫しているなと思いつつ残りのタイヤを倉庫に仕舞う。

 思ったより腕が疲れた。


 残った体力で後席を荷室から座席に戻し、倉庫を閉めて車を前の駐車スペースへ。

 エンジンを切ろうと思ったら小坂井ウサウサ先輩と摩耶先輩がやってきた。

「ちょうどいいから農協とホムセン連れて行ってくれない。これから植える野菜とかを色々見てきたいの」

「今日は大学のトラックと教授の車しか無くてな。悪いが頼む」

 そんな訳で後に二人をのせてそのまま出発。

 父の方はあの調子なら放っておいて問題無いだろう。

 そう思いつつ街を目指して運転を始める。

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