その2 襲撃の当日

 無事検定は合格。

 晴れて自動車学校は卒業となった。


 ただこの県は土日には運転免許試験はやっていない。

 だから免許を取るための試験は残念ながら夏休みに持ち越しだ。

 平日に上手く授業が休講になってくれる日があれば別だけれども。


 さて、それより今日は土曜日。

 抜田先輩が予告したあの土曜日だ。

 午後三時過ぎに家に帰るといつもと様子が違う。

 土曜ならたいていいる摩耶先輩や小坂井ウサウサ先輩の姿は無い。

 代わりに見慣れない女子というか講師の先生までいる。


 そんな訳で帰宅して早速、美智流先輩にいらっしゃっている四人を紹介された。

「今日は例の日なのでウサウサさんや摩耶さんは一度帰って貰いました。その代わり被害者の会から四人ほど助太刀をお願いしています。

 こちらはは理学部数学科の山井先生でエルフ、こちらは薬学部五年の宮苑さんでダーナ・オシー、薬学部四年の時間ときまさんでケット・シー。イライザはもう知っていますね」


「こんな時で無ければもう少しこの場所を楽しむのですけれどね」

 山井先生は線形数学を教わっているので顔を知っている。

「先生方も抜田先輩の被害に遭われたんですか」

「ええ」

 美智流先輩を含めて五人全員が頷く。

「本日はあのエロ狸を征伐する会と聞きまして」

「一度討伐しておかないと大学と寮の治安に関わるからな」


 なるほど。

 傾向はそれぞれ違うが確かに皆さん美人だ。

 怜悧系、物静かな西洋風大和撫子系?、小柄で活発系、野生系。

 抜田先輩の選球眼は悪くない模様。

 ただ皆さんそれなりに強そうではある。

「そんな訳で今夜はお騒がせしますかどうぞ宜しくお願いします」

「いえいえこちらこそ、お疲れ様です」


 一通り挨拶をして二階の自分の部屋へ。

 えっ。

 扉を開けたら先客がいた。

 この家の本来の住人でも遊びに良く来る人でも無い。

 むしろ敵扱いされている方だ。

 つまり。


「やあ、思ったより早いお帰りだね」

 抜田先輩本人だった。

 座布団を枕に昼寝をしていた模様だ。


「夜までここで待つのも一興かなと思ったんだが、それはそれで君があとで色々言われるだろうからね。また場所を移すよ」

 おいおいおい。


「どうやって入ったんですか」

「その辺は企業秘密だね」

 そんな事を言って先輩は立ち上がる。

「そんな訳で夜までまた別の場所で待つとしよう。それでは皆さんに宜しく」


 階段をドドドドドと駆け上る音がする。

「どうした文明、誰だそこにいるのは!」

 イライザ先輩の声だ。

 どうやら抜田先輩の気配に気づいた模様。


「それじゃ、アデュー」

 抜田先輩は階段と反対側の出窓からひょいと外へと飛び出る。

 同時にイライザ先輩が部屋に入ってきた。


「奴か!」

「術で無ければ」

「わかった」

 イライザ先輩はそのまま窓へと飛び出す。


 窓の外、屋根の上を走る足音がした。

 遠くクレクレタコラの歌が聞こえる。

 どうもあの歌、抜田先輩の好みのようだ。

 歌と足音ははどんどん遠くなっていき、やがて聞こえなくなった。

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