第12話 変態狸の痕跡

その1 とある噂話

 教習所はかなりいいペースで進んでいる。

 このままだと六月中には卒業だ。

 ただ教習所のせいでどうしても土日は潰れてしまう。

 大体朝九時には教習開始で教習所を出るのは午後四時過ぎ。

 美鈴さんにSNSでお願いされた買い物をして午後五時前に帰宅。

 休日に会うのも良く泊まっている小坂井ウサウサ先輩と摩耶先輩位。


 そんな感じで気がつけば六月も三週目というある日の昼休みだった。

「それにしてもこの大学には女子が少ないよな」

 いつもの昼休みの第二食堂で同じクラスの仲がいい連中と食事中。

 長尾が自称豆腐コロッケ定食という格安メニューを食べながら言う。

 まあこの台詞はいつものご挨拶みたいなものだ。

 しかし今日は少し進行が違った。


「そう言えば稲城が言っていたな。サバゲサークルで女子と知り合ったって」

「何だそりゃ」

「女子ばかりのチームと対戦したんだと。しかもその女子達もこの大学の学生らしい。医学部薬学部中心のチームなんだと」

 何か気になるな。

 知っている連中の気配がする。


「それで誰か御友達になれたのか」

 長尾が興味深げに松原に尋ねる。


「残念ながら惨敗したらしくてその隙も余裕もなかったらしい。ただそれでちょっと面白い話を聞いた」

「何だ?」

「その女子サバゲチームは自分達専用のサバゲ場を持っていてな。そしてその土地を貸してくれている家があって、そこは可愛い女の子ばかり数人で住んでいるらしい」

 おいまさかその家って。


「何か美味すぎる話だよな。稲城の夢か願望なんじゃ無いのか」

「いかにも古い感じの家で、そこの家の山と田んぼ跡にサバゲーのフィールドがあるそうなんだ。その家にサバゲーチームの女子の一人が住んでいるんだと。

 あと他にその家で女の子二人、静かな感じの大学生風と中学生風それぞれ美少女を見たらしんだわ。トイレを借りた時にちらっと見ただけらしいけれどな」


 おいそれきっと僕の家だ! なんて事は勿論言えない。

 とりあえずは口を挟まずどんな話になるか聞くだけ聞いてみよう。


「そう言えば似たような話を聞いたぞ」

 今度は松本が口を開いた。


「そっちもサバゲ関係か」

「いや、バイクのツーリングクラブ。うちのクラスの片瀬が入っている奴」

「ああ異国の美麗なお姉様が副部長やっている処か」

 これも何か知り合いの匂いがする話だな。


「ああそのクラブの話だ。あそこツーリングだけで無くオフロードを走る練習とかもしているんだけどさ。バイクで走っていい山があって、そこの地主の家がやっぱり女の子だけらしいって話だ」

 ああこれも心当たりがバシバシある。


「でもこの辺の田舎にそんな若い子がいるかね。四十年前の若い子って落ちじゃないのか」

「そう言えば津々井この辺に住んでいるんだよな。何かそんな話知らないか」

 おっと僕に回ってきたか。


「わからないな。この辺は父の地元だけれど僕はここに入ってから移り住んだから。近所に知り合いもいないし」

 とりあえずごまかしておく。


「そうか。知っていたらお近づきになりたいなと思ったんだが」

 おいおいおい。


「まあでもどっちも確かな話じゃ無いだろ。多分に願望入りなんじゃね」

「実際はそんなとこだろーな」

 そう行って松原がふっとため息をつく。


「でももしそんな女の子ばかりの家があって、そこで下宿なんてできたらいーよな」

「ラブコメ展開やラッキースケベとかあったりしてな」


「もっと現実をみろ。工学部はあまりに女性がいないせいか性転換する奴が出てきている状態だぞ」

「魚だと雌雄が変わるのはよくある話だけれどな」


「雌雄転換しないで雄好きになる雄も出るらしいぞ。カエルなんかも繁殖期には雌が足りないと雄に乗る雄が出たりする」

「環境による適応の悪い例だ。怖くて尻がむずむずする」


「マジで第三サークル棟のシャワー室はやばいらしい」

「そっちは簡単に試せるな。何なら誰か適応の例を試しに行くか」

「やめて、おしりが、いたい」

 おいおいおい。


 でもちょっと家の方が心配になる。

 特に亜理寿さん、人が苦手だから。

 今日帰ったらちょっと聞いてみよう。

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