その8 狸の術はアリ

 第一回戦を制したのはなんと真理枝さんだった。

「アンドレアに一式借りて撃ったり、早朝にここのフィールドを確認して有利なポジションを考えたりしておいたからね。ま、事前準備の勝利かな」


「いやそれは違うと思うのだ」

 深川先輩が異議を唱える。

「真理ポンは間違いなく術を使っていたのだ。一番上のいい位置に居ながら術で気配を完全にくらましていたのだ。それで全員が動き出してほどよく数が減って位置確認が出来た後に一気に掃討戦を始めたのだ」


「バレたか」

 真理枝さんはにやりと笑う。

「でもルール上問題無いよね」

 確かに獣人化は反則だけれど術の使用については言われていない。


「かなりえげつないけれど、まあ作戦と言えば作戦だな」

 進行役のアンドレアさんも苦笑いしているけれど。


「さて、次はここのフィールドの赤いロープ部分全体を使ったフラッグ戦だ。初心者陣営は向こう側の尾根が陣地、経験者陣営は家側の尾根が陣地。それぞれ陣地には旗が一本立っている。相手陣営の旗にタッチするか、どっちかの陣営が全滅するかでゲームセット。なお時間オーバーになった場合は残っている人間が多い方が勝利となる。つまり初心者陣営にかなり有利なルールだ」


「経験者陣営はイライザ先輩、美智流先輩、摩耶、小坂井ウサウサ、私の五人で御相手を致します。司会進行は牧田先輩とアンドレアが行いますので宜しくお願いします。

 それでは各自配置について下さい。なお初期配置は自分の陣営内とします。初心者組は白いロープの向こう側へ行って下さい。それでは配置開始、ブザーと共に戦闘開始です」


 小坂井さんも経験者なのか。

 結構意外だな。

 そう思いながら僕らはまたゲームフィールドへ。


「残り人数で決まるなら、あえて攻め込まず守りを固めた方が有利かな」

「そうだね。尾根上の見通しのいいところでちょっと隠れていようか」

「上からの方が弾が通るしその方がいいかな」


 そんな訳で尾根筋沿い、フラッグより敵陣寄りで木々に隠れるように陣取った。

 亜理寿さんとは十メートル位離れているがお互い見える位置だ。

 僕がちょっと敵陣寄りで上側という程度で。

 見た限りは大体こっちの陣営は防衛戦志向の感じだ。

 でも真理枝さんの姿が見えない。

 また術を使って隠れているのかもしれないけれど。


 ブザーの音が聞こえた。

 レバーを連射にして構える。

 今度はフィールドが広いから気配が遠い。

 どうなっているのかな……えっ。


 カタカタカタカタ……

 連射音が聞こえた。

 明らかにうちの陣地内だ。

 これは攻められている?


 動く何かが見えた。

 速い!

 引き金を絞る。

 追いつかない!


 小柄なその影は圧倒的な速さで僕や亜理寿さんの下を駆け抜けた。

 銃を向けるより速い位の勢いだ。

 あれは小坂井ウサウサさん!

 人間離れした脚力と走力で一気に突っ走ってこっちのフラッグを奪おうとした。

 でもその寸前。


「ヒット!」

 小坂井さんはそう言って手を上げる。


 旗の真後ろにいつの間にか銃を構えた姿勢の真理枝さんがいた。

小坂井ウサウサならきっとこう来ると思ったんだよね」

 きっと術であの姿勢のまま待機していたのだろう。

 確かにあれは気づかないなと僕は思う。

 僕らも真理枝さんがそこに居ることに全く気づかなかったから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る