その4 午後にも一仕事

「川で魚を追っていたらついつい面白くなって、気づいたら全身びしょ濡れでした」

というのが亜理寿さんの説明だった。

 今は座卓についてうどんをすすっている。


「でもあんなに取れるんだね、魚」

 亜理寿さんは頷く。

「本当はもっといっぱい居たのですけれど、網の目の大きさがあるのでやや大きめのものしか捕れなかったんです。ドジョウだけは別の網で捕ったので細いですけれど」

「小さいのはうじゃうじゃいたのだ。ただメダカサイズで食べ甲斐が無いので捕らなかったのだ」


「一番上流側の田んぼ跡を掘り返して水を入れたしさ。うまくいけばあそこに育った魚が居着いてくれるかもしれない」

「浅い場所は十センチくらいの深さで水が張ってあるだけだけれどね。重機掘って深い部分も作ったから多少水が減っても大丈夫だと思うよ」

 昨日言っていたビオトープ計画の方も進めたらしい。

 色々やっているんだな。


「最近の川は投網禁止だの釣り許可証だの色々面倒で煩いのだ。だからここまで思い切り魚を捕りまくったのは久しぶり過ぎるくらい久しぶりなのだ。

 それにここの川そのものもなかなかいいのだ。護岸工事はしてあるけれどいい具合に砂とか砂利、土が底にたまって自然に近い形になっているのだ。外来魚もいなかったしいい感じで自然なのだ」


「人がいなくなったおかげかな」

「人がいないとかえって荒れる場合もあるのだ。水が動かなくなってヘドロ化したり藻が繁殖しすぎた後腐ってヘドロ化したり悪くなった例も色々あるのだ。ここの場合は年間を通じて水量が一定以上あるとか有機物がそこまで多くないとか色々条件に恵まれていたと思うのだ」


 龍神だけあってやっぱり色々詳しい。

 僕も川で遊ぶなんて小学校四学ころ以来やっていない。

 でも何だか楽しそうだ。

 小屋作りが終わったらどんな感じか一度見てみよう。

 上流のビオトープやため池、更にその先にある川も含めて。


「さて、小屋組はそろそろ行こうか。サバゲ前に入口側の壁を完成させたいし」

 稲森さんがそう言って立ち上がる。

 そうだな。

 今日はサバイバルゲームがあるからある程度早く動かないと。

 そんな訳で僕と真理枝さんは丼を持ってシンクへ。


「後で様子を見に行くのだ」

「待っていますよ」

 そんな事を言いながら丼を洗って重ね、外へ。


 ◇◇◇


 小屋の入口側の壁は他三面に比べてかなり面倒くさい。

 入口である開口部を作る必要があるからだ。

 入口の両脇は他の壁と同様に丸竹を紐で固定した物。


 まず入り口に置いたブロックを使い、入口部分を奥行き方向に竹が二本ずつになるように立てて紐できつく縛る。

 この時手前側と奥側で竹一本分の間が空いているが、何か理由があるのだろう。

 両脇の壁部分は他の壁と同じように丸竹を紐で編み込んだものを設置。

 そして入口の上はさっき気になった竹一本分の隙間に、後の壁を作る時に切りそろえた後の余りの竹を横方向に挟み込む。

 最後に全体をもう一度紐でしっかり縛って固定。

 屋根と入口部分以外は全部竹で囲われた。


「あとは屋根を載せるだけだね」

「それは明日にしよう。もうじき二時半だし」

「でももういかにも小屋という感じだね」

 形としては丸太の代わりに竹を使ったログハウス。

 でも壁部分の竹が縦方向だったり色々違いはある。

 雰囲気としてはいかにも和風な感じ。

 詫び寂びとかいう言葉が似合いそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る