その6 オフロードでバイク遊び

 見ると名簿みたいな紙があって、名前を書いては横線で消してある。

 名簿の最後は亜理寿さんでそこも横棒で消してあった。


「これが乗車名簿みたいなのものですか」

「ああ。乗車待ちが結構出たから名簿を作ったんだ。でも今出ている分で予約は最後だと思う」

 そういう事か。


「稲森さんや真理枝さんはどうしますか」

「私はパスかな。運転に向いていないって去年教習所で自覚したから」

 真理枝さんはパスと。


「なら私も今はパスかな。ちょっと川の方で何かやっているようだし見に行ってみようかと思って」

 確かに川の方で重機を使っているらしいエンジン音がする。

 でもバイクも面白そうだしなあ。


「なら僕はバイクを試してみる事にします」

「わかった。それじゃ後でね」

 二人は川の方へ。


 そう言えばアンドレア先輩にお礼を言っておくのを忘れていた事に気づいた。

「アンドレア先輩、遅くなりましたけれど機械類の整備、どうもありがとうございました」

「いやいや、あれは保存した人のおかげだな」

 アンドレア先輩はそう言ってにやりとする。


「あれはかなり機械好きな奴の仕業だ。どれも長期保管をするときのお手本のような感じで残っていた。こっちはオイル類を入れ替えてガソリンを入れた位だ。それで低速で慣らしただけであっさり本調子で動いた」


「それにしてもトラクタとかユンボまであるとは思わなかったな」

 これはイライザ先輩だ。

「レアがこの事を教えてくれたらもっと早くここに遊びに来たんだが」

「だからこそ言わずにおいたんだ」


「でもこのコースは楽しいな。今はまだ初心者用だけれど中級者コースもいずれ作りたくなる」

「思い切りどうぞ。どうせ僕一人では使い切れないですから」

「なら夏休みまでにもう少しハードなセクションを作るか。広さも高さも充分あるし、重機も使えるしな」

 そんな話をしていたらバイクが戻って来た。

 確かに亜理寿さんだ。


「面白かったです。ありがとうございました」

 亜理寿さんは満面の笑顔でそう言ってヘルメットと手袋を外して僕に渡す。

「コースはどんな感じ」

「案内板があります。転回所の間を二往復だそうです」


 そんな訳で僕はヘルメットを被る。

 ちょっとシャンプーのような香りがした。

 同じ風呂場で同じシャンプーを使っているのについ意識してしまう。

 いかんいかん。


「それじゃ行ってきます」

 ギアを入れてアクセルを捻るとカブはトコトコ走り出す。

 左足を踏み込んで二速へ。

 うん、運転そのものは簡単だ。


 家の裏に『←バイク』という案内板があった。

 前に歩いた時とは別の方向へ道が出来ている。

 更に行くと竹林の手前がちょっと広く整地してあった。

 ここに『転回場』と看板がある。

 至れり尽くせりだな、これは。

 僕はそこから竹林内へ続く登り道にバイクを進ませた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る