その2 新たな居住希望者
声そのものは若い女の子の声。
どういう状況だろう。
考えても仕方ないので引き戸を開ける。
DKの食卓で女の子三人がおやつを食べながら寛いでいた。
うち二人は見知った顔、亜理寿さんと美鈴さん。
もうひとりは僕や亜理寿さんと同じくらい、女子大生風の女の子だ。
やや丸顔で人懐っこそうな可愛い系。
「文明さんごめんなさい。後をつけられました」
「後をつけられたって。でも……」
亜理寿さんの自転車は人目から離れた時点で空を飛んでいる。
あれの後をつけるのは不可能なのではないだろうか。
「五日もかかったんだよ。空中飛ばれると追いつけないから毎日少しずつ先に行って潜んで飛んでいる方向を確認して。でもこの自転車でもちょっと辛い距離だったなあ。もっと遠くだったら諦めていたかも」
でも疑問はまだまだある。
「いくら潜んでいても亜理寿さんなら居場所を気づくだろ?」
「真理枝さんは特別なんです」
真理枝さんというのか。
でも何が特別なんだろう。
「そんな訳で自己紹介。
ぽん、と頭の上に耳が出た。
丸っこい焦げ茶と白のもふもふな耳だ。
「えっ獣人?」
「ノンノン、獣人には違いないが狸と呼んで欲しいな。昔ながらの化け狸の末裔、それが私、真理枝ちゃんでーす」
何だこのノリは。
微妙に白い空気が流れる。
「あれ、驚かないの。お呼びでない?」
「既に魔女と座敷童がいるから」
今更という奴だ。
それにどう見ても害は無さそう。
「それで真理枝さんからお願いがあるそうなのですけれど」
「私も一部屋貸して。使っていない二階のどっちかの部屋でいいから」
うん。
始めて会うし僕には判断つけられないな。
「お願い! 寮は緑が無くて味気なくて狭くて住みにくいの。かと言って一軒家借りる程のお金も伝手も無いし。だからいい場所をずっと探していたの」
「亜理寿さんと美鈴さんはどう思う」
美鈴さんは亜理寿さんに何やらささやくような仕草をする。
「美鈴さんが言うには人間的には問題無いという事です。むしろ人が増えた方が美鈴さん的には嬉しいようです」
「亜理寿さんは」
「私は特に問題はありません」
ならいいか。
どうせ家の管理は美鈴さんがやっているんだしな。
「それじゃいいよ。部屋は二階でいいかな」
「えっ、本当にいいの? 何なら色々条件がついたりお試し期間とかあったり最悪夜伽を命じるなんての無しで」
おいおい。
「美鈴さんがいいと判断するなら問題無い。でも学校遠いけれど大丈夫かな?」
「雨が降らなければ何とか。このためにスペシャルな自転車買ったし」
確かに大型バッテリ搭載の変速機付き電動自転車だった。
自転車としては最強に近い。
「雪は」
「どうせ車を買うつもりだろうから便乗させて貰おうと思って」
そこまで知っているのか。
そう思ってふと気づいた。
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