第90話・道中の想い
カナンを出発し、アスモデウス領地へ向かう。
先頭は俺、アテナ、荷物。オオカミ兄弟三頭で進み、少し離れてリューネとモエ、アミー、ユキとシロの父母オオカミがゆっくり歩く。
俺は、何度か後ろをチラッと見るが……ちゃんと付いて来る。
「ぱぱ、おねーちゃんたちとお話、しないの?」
「んー……どうだろうなあ」
ルナは、リューネやモエたちに興味津々だ。
アミーは本能で恐れているのかあまり近づかないが……参ったな。興味のあるものから露骨に引き離すことはしたくないし、かといって俺やリューネたちの関係を説明するのも……いや、したくない。
とりあえず、今は気にしないでおくか。
「ねーアロー……思ったけどさ、この辺って魔獣いなくない?」
「いないよ。というか、マリウス領地が普通じゃあり得ないくらい、魔獣がいるだけだぞ」
「え~……」
「お前なあ……とりあえず、まずはセーレに向かうから、そこで美味い物いっぱい食べたり、観光したりすればいいだろ」
「あ、それいいわね。ルナ、美味しい物いっぱい食べよっか!!」
「うん!!」
すると、ルナがアテナの方に行きたがったので、ブランたちを止めてアテナに預ける。
何度も言ったが、ルナを乗せたままスピード出したり、無茶な動きさせないように言った。
一人になると、荷物に入れておいたファウヌースが、カバンから顔を出す。
『アローはん、どれくらいでセーレに着くんや?』
「最短距離で行くから一週間だな。途中、町をいくつか経由するけど、野営もあるから、ルナの枕よろしく頼むぞ」
『……ワテが一緒に来たのって、マジで枕のためなん?』
まあそういうこと。
すると、上空を旋回していたミネルバが俺の肩へ止まった。
『ぴゅるる』
「ん、どうした? メシはまだだぞ」
『ミネルバはん、ただ休みに来ただけみたいでっせ。アローはん、だいぶ懐かれてますなあ。神獣がヒトにこれほど懐くなんて、ワテは初めて見ましたわ』
『ぴゅいい!!』
『わわ、すんません!! その通りです!!』
「おい、なんて言ってるんだ?」
『アローはんは、ミネルバはんの僕ってことですわ』
「……は?」
こいつ、俺のこと僕と思ってるのかよ……まあいいけど。
ミネルバは、翼をバサバサして、俺の顔を軽く打った。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
リューネ、モエは、アローと笑い合うルナとアテナを見ていた。
「…………」
「リューネ。大丈夫ですか?」
「……あ、うん」
ほんの少し前まで、食事も会話も碌にできないくらい、リューネは憔悴……心が壊れていた。
だが、アローがアスモデウス領地へ行く、サリヴァンの元へ行くと聞き、壊れた心の奥から何かがせり上がり、久しぶりに活力が沸いてきた。
そして、モエ、アミーに相談……こうして、アスモデウス領地へ同行することになった。
すると、アミーが近づいて来る。
「ね、リューネ……あなた、何をしにアスモデウス領地へ行くのかしら?」
「……知ってて聞いてるんでしょ。あんた、そんな性格だったなんてね」
「いいじゃない。猫かぶりしない方が、楽しいでしょ?」
「……あたしがアスモデウス領地へ行くのは、サリヴァンに本当の意味で『別れ』を告げるためよ。確かに、アローを陥れるために利用されたわ……でも、魅了されたのも事実。捨てられたのも事実。だから、あたしの意志でちゃんと別れを告げて、ケリを付けるの」
「ふぅん……強いのねぇ」
「強くなんかない。弱いだけ……あたしにはもっと『罰』が必要よ。幸せになる権利なんかないけど……それでも、落とし前は付けるわ」
「落とし前、ね……アローに対しては?」
「……謝罪はしたわ。アローはもう、あたしのことなんてどうでもいいみたいだし、これ以上関わるべきじゃないと思う。今の幸せに、あたしは……邪魔なだけ。この旅が終わったら……マリウス領地の片隅で、死ぬまで暮らすわ」
「……」
モエは黙りこんでいた……が、アミーはクスクス笑う。
「モエ、あなたは?」
「……私も、同じです」
「それは違う。リューネは自分の意志で動いたから『罪』はあるし、大好きなアローに二度と関われない、関わらないっていう『罰』を受ける。でも……あなたは違う。あなたはアローの頼みを聞いただけ。自分の意志なんてない、言われるがままの行動……アテナも言ったでしょ? あなたに、罪はない」
「…………」
「……え? モエ、どういう」
「リューネ、知ってるでしょう? モエはね、あなたたちを頼むって、アローに言われただけ。あなたみたいに、アローを裏切っていないのよ」
「……そう、だよね」
改めて言われ、リューネは苦しそうにほほ笑んだ。
「ね、モエ。あたしのことはもういいからさ……あんたは、もう一度やり直しなよ。アローもきっと、受け入れてくれる……」
「……リューネ」
「今まで、ありがとね。モエがいてくれて、あたし……嬉しかった。あたしがここまで生きてこれたのも、モエのおかげ」
「やめてください。そんな、別れみたいな……」
「そうよ? 旅はまだ始まったばかり。その言葉は、全て終わった後にしなきゃ」
「……っ」
モエはアミーを睨むが、アミーはクスクス笑うだけ。
リューネはもう、自分の人生の結末を決めている。
たった一人で、人生を終える覚悟を持っている。アローと幸せになる資格もない、でも……同じ地で、遠くから幸せを眺めるという、悲しい罰であり、罪を。
アミーはぺろりと舌なめずりした。
「ふふ、溢れてくるわ……モエ、あなたの感情が。とっても甘くて、少しだけほろ苦い」
「やめてください!!」
モエは、どうすればいいのかわからなかった。
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