二人のために別れましょう

〈語り・椿紗〉


『博孝、別れましょう 』


付き合い出して二年。


彼が私を誰かと

重ね合わせていることに

わりと早く気付いてしまったのです。


それでも、彼の傍に居たくて

今日まで触れることを

避けてきましたが

不安感は日に日に

積もっていくばかりで

遂に、心が悲鳴を上げたのです。


ですから、私から

別れを告げたしだいです。


『椿紗……何で……』


彼は気付いて

いなかったのでしょう。


『貴方は私を誰かと

重ね合わせて

見ているようでしたから』


そう告げると

驚いた表情(かお)をしました。


やはり、

気付いていなかったのですね(苦笑)


『…………』


『別れましょう』


もう一度告げて

彼のマンションを出ました。


❁……❁……❁……❁……❁……❁


〈語り・博孝〉


『博孝、別れましょう』


椿紗にそう告げられ

僕は何故? と思い問い返した。


『椿紗……何で……』


その問いに返ってきた

答えに僕は愕然とした。


『貴方は私を誰かと

重ね合わせて

見ているようでしたから』


僕が椿紗を?


ある一つの考えが

頭を過った瞬間、

僕はこの二年間

椿紗に対して

なんて残酷なことを

していたのだろうと思った。


『…………』


何も言えずにいると

椿紗がもう一度言った。


『別れましょう』


それだけ言うと

マンションを出て行った。

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