14 「我」来たる
外壁が破壊される。崩れ落ちる。
『元来た道を戻るのだ!』
コチョウが告げた。騎体を駆けさせながら、砲声に負けぬようナガレが怒鳴った。
「何が起きた!?」
『砲撃だ! 海中からの砲撃――〈レヴェラー〉だ!』
電子戦艦〈フェニックス〉からの画像が送られる。海上に突き出た連装砲塔。そこから白い水柱を立たせるように、多脚軍艦イクサ・フレームとも呼ぶべき〈レヴェラー〉の威容が現れる。ズドドン! 再度撃ち込まれる砲弾!
『デカイ!? 何だよ、アレ!?』
『本当に〈レヴェラー〉って……!』
訳も分からぬまま叫んでいるヨモギと異なり、コージローには多少の知識があるようだった。
『アア!? 何それ!?』
『セブン・スピアーズってヨモギ=サン知らない!? そこから説明!?』
そう――ジキセン城では気づかなかったが、こうして観ると〈レヴェラー〉の軍艦としての異様さがよくわかる。船尾寄りに配された艦橋は、イクサ・フレームの上半身なのだ。2門の超大型砲塔はそのまま腕部である。
本来ならば〈バトル・オブ・セキガーラ〉で投入され、その質量で東側に陣取ったトクガ連合軍を蹂躙していただろうこの奇形の巨人は、しかしトヨミ軍の多分に政治的な都合の数々により、結局その威力を発揮できぬまま終わった。それが、今は何の制約もなく力を奮う!!
主砲が蠢く――ズドドン! KRATOOOOM!! 外壁破壊! ナガレたちのコクピットカメラからも海が見えるようになる。日光が海面に反射し、自動的に明度を下げた。カメラ画像には、最早はっきり視認出来るほど接近しつつある〈レヴェラー〉が映っている。ナガレが呟く。
「アレに突っ込むか……!?」
『却下する。〈グランドエイジア〉が復調していない。敵に乗り込むにせよ、ザンバーで斬り込むにせよ、今の出力ではハリネズミめいた対空機銃群で撃ち落とされるのがオチぞ』
「そのまま隠れてろと?」
『
「チィーッ……!」
思考を読まれ、ナガレは舌打ちする。そこに、コージローが発言の許可を求めた。
『あの、いいですか? エート……何とお呼びしたら?』
『おお、はじめまして、ユタ・コージロー=サン。わたしはミズ・アゲハです。何か?』
『いや、そもそも、彼らが攻撃してきたのは、ナンデ?』
『ほう?』
『まだ完全には施設の職員は脱出できてないようなんです。資材は多くを破棄してます。それにも拘わらず攻撃している――』
『エート、アタシにはよくわからないんですけど……』
「簡単だよヨモギ=サン」
今ひとつ要領を得ない様子のヨモギに、ナガレが噛んで含めるように言った。
「この砲撃は、本当の目的を隠すためのド派手な目眩ましってことだ」
ズドドドドン!! 砲撃! 更に激しい!
『見よ、タワーだ!』
またも〈フェニックス〉からの画像送信。
ただし今度はタワーだった。窓ガラスが揺れ、少しずつ割れ砕けてゆく。タワー全体が揺れているのだ。
震動が強くなる。崩落してゆくのは窓だけではない。足場のついた骨組もまた脱落していた。
タワーがその偽りの衣を脱ぎ捨て、本来の姿を露わにした。ナガレにはそれに見覚えがあった。例えるならばタネガシマ島で見た、軌道エレヴェータ〈ミハシラ1〉の超小型ヴァージョン――
『軌道カタパルトか』
コチョウが呟く。読みきれなかった口惜しさを滲ませて。
光が、真っ白い噴煙を棚引かせて空へ向かう。シャトルだ。恐らくは、あれにミズタ・ヒタニが乗っている。
「〈フェニックス〉、追えないのか」
『駄目だな。安全策を取って遠目に位置取ったのが仇になった』
ズドドン! ナガレとコチョウの会話に割り込むように砲撃が行われる。ドン、ドン、ドン! 降り注ぐ砲火! 砲撃は止まぬ。恐らくここでナガレらを仕留めるつもりだろう。これぞ
逃げるだけならば、それこそ死ぬ気でやればどうとでもなるかも知れない。しかし反撃の手段がないことがナガレを苛立たせた。
タナカとの約定を思い出す。これでは約定を果たすどころか、拉致された人々すら犠牲になりかねない。
『クソッ、何かねーのか! オイ、アンタ、ミズ・アゲハ!?』
『無い。オヌシが出来ることなど、隠れてやり過ごすことくらいだ。大人しくしておるがよい』
『その上から目線、気に食わねェ――』
『こんな時に喧嘩しないでくれ!』
焦るヨモギ。諦観するコチョウ。迷惑するコージロー。ナガレは、〈レヴェラー〉に対して目を凝らし続けている。
「ウン……?」
砲撃が止んだ。〈レヴェラー〉はハリネズミめいて艦体(あるいは騎体?)に生やした機銃が、曳光弾を大量にバラ撒いている。対空攻撃。
『誰かがヤツに攻撃を仕掛けている……?』
〈レヴェラー〉を周囲を鮮明拡大化。イクサ・フレームのスラスター炎が残光による円弧軌道を宙に刻んでいる。
それをカメラが追う。
映し出されたのは、槍とカタナを左右に持った朱色のイクサ・フレームだ。
『――〈ヴァーミリオン・レイン〉だ!』
コチョウが出し抜けに叫んだ。
『銀河戦国期の
× × × × ×
「そうです! わたしが来ましたぁー!」
サトミ・ヨシノは〈ヴァーミリオン・レイン〉のコクピットで、莞爾たる笑みを浮かべた。重力中和装置でも殺しきれぬGが脳天にまで突き抜けるのを快としながら、彼女は笑っていた。
「行っちゃいますよぉーーーーーッ!!」
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