遺書たち

銀礫

十年後の僕へ

 はじめに。

 この手紙を正式に受け取る人がいないことを、許してください。


 さて、十年後の僕は、どんな感じだったのでしょうか。

 十年後ということは、十分に大人と呼ばれる年齢ですね。ちゃんと、社会人になれていたのでしょうか。もしかしたら結婚して、子どもだっていたかもしれません。

 そして、お酒でも飲んで、友達や家族と、昔の思い出話などをしていたかもしれませんね。


 ありえた未来。でももう、ありえない未来。


 こうなってしまったのは、友達でも、学校でも、もちろん親のせいでもありません。

 ただただ、僕が弱かっただけなのです。


 大人たちはいいます。

 「あの頃の辛い時期があったから、今の自分がある」と。

 その「辛い時期」に、僕は負けてしまいました。

 ただ、それだけの話です。






 ただ、もしも。

 もしも、十年後、この手紙を読んで、悲しんでくれる優しい誰かがいるのならば。


 この手紙を書いている今、手を差し伸べて欲しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る