◆幕間-4◆




「…あの、ここってどこなんでしょうか?」





 見たことの無い場所。


気が付くと私は光に溢れた空間に立っていた。





どこかの宮殿のような不思議な雰囲気の場所だ。


天井はとても高いが敷地で言うと十畳くらいだろうか。


厳かな装飾で囲まれたその部屋の中心に私はいつの間にか立っていて、私の正面には使い込まれた風合いの机と椅子がある。





そこにはニコニコした美しい女性が腰掛けていて、私に向かって「お待ちしておりました」と言った。





「…私、どうしてここに…?」





 記憶が混濁している。


ここに来る前にいったい何があったっけ?





何かとても悲しかったような…


とても怒っていたような


とても怖かったような





もうちょっとで思い出せそうだ。





「生前の事なんて無理に思い出さなくていいんですよ?」





 記憶が繋がりそうになったところで目の前の女性の言葉がそれを霧散させる。





生前…?


私死んだの?


ここは天国?それとも地獄…?


彼氏もいない。


いた事もない。


それなのに最後は変質者に襲われて死んじゃうなんて…。





…あ。





そうだった。


私死んだんだ。





どうして死んだんだっけ?





確か何か探し物を。


そう、ずっと何かを探していて。





夜の公園だったっけ。


一休みしてコーヒーを飲んでたんだった。


カフェラテと間違えてとなりのブラックを買っちゃってそれをチビチビ飲んでたんだ。





めちゃくちゃ苦くて、こりゃ辛いなぁ~って凹んでたら急に目の前が真っ暗になって…。





 そうそう。


後ろから急に頭に袋を被せられて、抵抗しようとしたら思い切りお腹殴られて、あれは痛かったなぁ…。


そんでそのまま担いで運ばれて、気が付いたら公園の隅の真っ暗な茂みの中だったんだよね。





袋は取れたけど代わりにテープで口を塞がれて、手もテープでぐるぐるにされちゃってた。


相手の顔に見覚えは無かったからただの変態さんだったんだろう。


昔から私は彼氏とかが出来ない割りにストーカーとかにあったり痴漢されたりと、そういう事が多かったのだがここまで来ると本当に笑えない。





まさかこんな形で死んじゃう事になるなんて。





…あれ?


でも違うなぁ。


その変態さんに殺された訳じゃない気がする。





…あ、思い出した。





私その変態さんが服を脱ぎだしてアレをアレしようとして来た時にのしかかってきた変態さんのアレに思い切り膝蹴り入れて走って逃げたんだった。





それでどうしたんだっけ。


確か夜景がすごく綺麗に見える高台になってて私のお気に入りの場所まで逃げたんだ。





いや、あれは逃げたというか追い込まれたんだろう。





眼下には綺麗な夜景。


柵の下は崖。





背後には怒りに燃える素っ裸の変態さん。





しかも変態さんは大分理性が飛んじゃっててナイフとか持ち出してた。





それで確か刺されそうになって、


こんな変態さんに刺されて死ぬのは嫌だなぁとか、殺されたあとにこの変態さんに死姦されるのは嫌だなぁとか思ったんだった。





そりゃそうだろう。


初体験が死んだ後で相手が見たこともない変態さんなんて真っ平ごめんだ。





そう、だから私は一瞬でいろいろ考えて、あーこりゃもうだめだわ。ってなっちゃったのだ。





だから私は変態さんに向かって一言





「あーでぃおっす♪」





 と言って柵を乗り越えて崖下にダイブしたのだった。





「もしもーし」





 そこで私はハッとなる。


そうだった。今のこの状況を忘れて考え事に没頭してしまった。





「だから生前の事考えるのやめましょうよ~死因なんて思い出してもいい事ないですよぉ?」








 …まぁそれもそうかもしれない。





「それで、貴女は?閻魔大王ってこんなに可愛らしかったのかしら」





「ち、ちがいますよぅ。私は女神です女神!」





 その自称女神様が言うにはここは死後に特別な人が辿り着く場所、らしい。





主に天界のうっかりミスとか、手違いで死んでしまった人がここに来て、新たな命をもらうのだそうだ。





「でも確か私自分から飛び降りて死んだ気がするんですけど」





「そうなんですよ。正直私達今困っています。普段は手違いが起きた時その命に対するお詫びとしてもう一つの世界に転生させるのですが、今それどころじゃないんですよぉ」





 もう一つの世界ってなんだ。


今までの世界で生き返るとか赤ちゃんとして生まれて来るとかそういうんじゃないんだろうか?





「おっと、説明不測でしたね。私達が管理してる世界がもう一つあって、そちらに転生させているんです。簡単に言うとファンタジー世界ですよ」





 …ファンタジー世界?


剣と魔法、それとモンスター、的な?





そういうのよく解らないけど…。





「今それどころじゃないって、何かトラブルとかですか?」





「そうなんですぅ~聞いてくださいますぅ?」





 女神はそう言って大きな目に涙を為ながら今の状況とやらを教えてくれた。





なんでも、もう一つの世界っていうところで今結構な混乱が起きていて、その原因が転生者かもしれないんだそうだ。


もし本当に混乱の原因が転生者だとした場合、誰が送り出した転生者かで責任の所在が変わってくるらしい。





この女神は最近この担当になったとの事なので、女神に責任があるわけじゃないらしいのだが、女神が転生させた特殊能力てんこ盛りチート野郎の生存確認もとれていない状態らしく、今はとにかくどうなっているのかっていう情報がほしいらしい。





で、すぐにでも転生者を送り込みたいのだがそうそう都合よく手違いなんて起きないので、選出基準を変えていい感じの人を見つけたらスカウトという形にしたのだそうだ。





その、いい感じの人と見つけたらとかいう適当で曖昧なやり方で選ばれてしまったわけだ。





「神様って意外と適当なんですね」





「そうですよ。適当、です。適当って言葉の意味ちゃんと知ってますぅ?一度辞書で調べたほうがいいですよぉ?」





 なんだかこの自称女神、腹立つ。








「私…手伝うのやめようかな」





「ご、ごめんなさい~謝るからぁ~!!」





 変な女神。





「で、結局私をこんな所に呼び出して何をさせたいんです?」





「うんうん、異世界に転生させるからいろいろ情報を仕入れて欲しいんですよぉ♪危険な事はしなくてもいいんで、情報収集エージェントってところですぅ☆」





「ちなみに断ると?」





「断られたら困っちゃいますけど、どうしても嫌だったら記憶を完全に消去して元の世界の動物に転生させます」





 え、なんで動物なの?





「人間じゃダメなんですか?」


「同じ種族に転生は基本NGです。こちらの手違いで、って場合ならある程度融通はできますが今回はそういう訳じゃないので…。異世界転生なら記憶もそのままで外見も若返らせたりとかいろいろできるんですけどねぇ~」





 …若返り、だと…?





「でも嫌なら仕方ないですよね…また他の人をさがし…」





「やりましょう」





 女神はニヤリと悪人のような顔で笑い、言った。





「では契約成立です。貴女の望む力を授けて転生させましょう。何を望みますか?」





 …勿論若返りだ。


これでも私は若い頃はちゃんと可愛かったのである。


今でも悪くは無いはずだが如何せん若さが足りない。





…そう、それと念の為にあれもお願いしよう。


これから行く世界にもしかしたら私の探し物があるかもしれない。








「探し物を、見つける能力を」


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