4-16 先輩と屋台飲み
「ショウスケ、お前いま暇か?」
「あー、えっと、デルフィにいろいろ引き継いだら暇になります」
「デルフィ?」
「はい、あのときのエルフの……」
「ああ! あのエルフの嬢ちゃんか!!」
どうやらあのグレイウルフ事件は、ガンドルフォさんのなかでも印象深い出来事らしいな。
「なんだ、パーティーでも組んだか?」
「ええ、まぁ、いろいろ縁がありまして。とりあえず10階層まではお互いソロで攻略してから、合流ってことにしてます」
「ほうほう。じゃああの嬢ちゃんが、いまから10階層にアタックするってか? 大丈夫か?」
10階層にはグレイウルフの群れより危険な魔物が、わんさか出てくるし、ミノタウロスなんていう、ソロじゃCランク級の強さを求められる階層ボスも出るからな。
心配になっても仕方ないだろう。
「いや、それが弓持ったらエルフってすっげー強いんすよ。ギルドで魔弓っての借りてからは絶好調みたいで」
「なるほどな。ああ、そういやあのときは悪かったな、事情も知らんのに偉そうなこと言って」
ガンドルフォさんが申し訳けなさそうにポリポリと頬をかく。
軽く頬を染めてるが、ごっついオッサンがそれやっても全然可愛くないから。
「なにがです?」
「ほら、あのときだよ、俺が救援要請を受けたとき」
「なにかありましたっけ?」
「いや、事情をよく知らんから説教みたいなこと言っちまったけど、あのときお前さん、あのエルフの嬢ちゃんを助けようとしたんだってな。あとからあの嬢ちゃんに説明されてよ」
ああ、そういうことか。
デルフィ、ちゃんと事情説明してくれてたんだな。
別に気にすることなかったんだけど、そういう気遣いは嬉しい。
「なんだよ、鼻の下伸ばしやがって」
「あはは……いや、別に助けようとしたとかじゃなくて、たまたま居合わせただけですよ」
「はいはい。まぁソロで10階層攻略できる奴が、グレイウルフの群れごときに遅れはとらんわな」
いやまぁ、あのときは結構ギリギリだったんだけどね。
俺が行かなきゃデルフィは死んでたわけだし。
「じゃ、俺は屋台にいるから、気が向いたら来てくれや。コイツの礼も含めてメシくらいはおごるぜ」
と、ガンドルフォさんはミノタウロスの戦斧を、愛おしげにペシペシと叩く。
「ええ、じゃあ、あとで」
**********
宿屋に行き、デルフィを起こしてもらう。
宿屋のカフェスペースで待っていると、寝ぼけ眼のデルフィが現れたので、とりあえずコーヒーとサンドイッチのセットを頼んでおいた。
コーヒーをすすっているうちに目が覚めてきたようなので、10階層のマップを渡した。
「ミノタウロス、意外と速いから気をつけてね。斧とかものすごい勢いで振り回してくるから」
「斧が届く範囲に近づかないから大丈夫よ。ここまでのボスも出てきた瞬間に
そ、そうなんだ……、なかなか容赦無いね。
まぁ彼女のなかには、グレイウルフに後れを取ったことがなにかしらの教訓として残っているのかも知れないな。
俺からマップを受け取ったデルフィは、サンドイッチとコーヒーを平らげ、お金を置こうとしたので制止する。
「レアドロップで臨時収入があったから。今日は奢るよ」
「え、悪いわよ……」
「いいのいいの。金があるときくらいカッコつけさせてよ」
「……わかった。ごちそうさま」
「俺はこのあとここで寝てるか、屋台で飯食ってるかって感じだから、終わったら声かけて」
デルフィがダンジョンへ向かった時点でまだ八刻(午後4時)前。
飯を食うには早いので、2時間ほど仮眠をとった。
いい具合に疲労が取れ、すっきりしたところで屋台に向かう。
ガンドルフォさんはすぐに見つかった。
「よぉ、遅かったじゃねぇか」
「すんません、ちょっと疲れてたもんで、休憩してました」
「そうかそうか。とりあえずビールでいいか?」
「あ、はい」
「まぁ適当につまんでくれや」
ガンドルフォさんの前には、屋台料理が所狭しと並んでいたので、お言葉に甘えて適当につまませてもらった。
食事や飲み物は、通常各屋台まで取りに行かなければならないが、小遣い稼ぎ目当ての子どもがそのあたりをウロウロしているので、チップを渡せば持ってきてくれるようだ。
しばらくすると、犬獣人の子どもが、ビールを持ってきてくれた。
「じゃ、乾杯だ」
〈酔い耐性〉のおかげで悪酔いしづらくなってはいるものの、それでも多少は酔うので、いい気分にはなる。
しかし屋外で食べる屋台料理ってのは、なんでこんなに美味いのかね。
部屋に引きこもったままじゃあ、経験できなかったことだなぁ。
とまあ、そんなこんなで1時間ほど、ガンドルフォさんや、周りにいた見知らぬオッサンらと無駄話しながら飲んでると、デルフィが帰ってきた。
「よぉ、嬢ちゃん!! ミノタウロスはどうだったよ?」
デルフィを見つけたガンドルフォさんが、上機嫌で声をかけた。
「え? あ……楽勝でした」
最初は面食らったデルフィだったが、なんとか応答できたようだ。
「へええ、この嬢ちゃんがミノタウロスをねぇ!」
見知らぬオッサンどもも、当たり前のように会話に入ってくる。
「そうだぜ? しかもソロだぜ? なあ嬢ちゃん!!」
「え、ええ……まぁ」
ひとりだけシラフのデルフィは、絶賛ドン引き中だ。
「ほへぇー、見かけによらずすげぇ嬢ちゃんだなぁ!!」
「見かけによらずってんならこのショウスケだってすごいんだぜ? 見ろよこの立派な斧!! コイツぁショウスケがソロでミノタウロス倒して手に入れたんだぜぇ!?」
「だぁかぁらぁ、その話はもうさっきから10回以上聞いてるっつーの!!」
「うるせぇ!! あと20回は聞けぇ!!」
とまぁこんな感じでできあがってるオッサンどもを放っといて、俺はデルフィのそばに寄った。
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