4-6 新兵器

「銃? ああ、そういやそういう呼び方もあったね」


フェデーレさんが取り出した魔筒まづつってのは、まさしく拳銃だった。

少し古くさい型だが、立派なリボルバー式だ。


「元々は火薬を使って、金属の弾を飛ばす武器だったらしいんだけど、威力が弱くてね。大昔にどこかから伝わったものの、結局美術品としての価値くらいしかないものだったんだよ」


まあ、魔術なんてものがあったり、魔力や強化で身体能力を上げることができるんなら、火薬の量や口径で威力が決まる銃より、弓矢のほうが強かったりするんだろうな、この世界じゃ。


「ところが魔術と魔道具の発達で見直されるようになってね。この魔筒には本体に魔術を込めて使うこともできるし、魔石を入れて使うことも可能なんだ」

「へええ。魔石をシリンダーに入れるってわけですか?」

「そ。特殊な形に加工しないといけないけどね。うちのは空魔石からませきを入れてて、そこに魔術を装填するタイプ」


本来魔石というのは、魔道具なんかの動力として使うとだんだん小さくなっていき、最終的には消滅するんだが、魔石の中の魔力だけを抜き取って、魔術を出し入れできるような特殊な加工を施したものを『空魔石』という。


「どうやって魔術を込めるんです?」

「それを持った状態で《弾》系魔術を使えば、詠唱終了後に装填されるよ。で、そこの引き金を引くと発射」

「これって事前に6発準備できるんです?」

「そうだよ。それがこの魔筒の特徴だね」

「へええ」

「随分熱心に見てるねぇ。よかったら訓練場行く? 試射だけなら無料でいいよ?」


マジで? 銃撃てるの!?


「行きます!」

「わ、私も!」


物騒だとわかっていても、男の子が拳銃に憧れるのはしょうがないよね。



訓練場には、フェデーレさんもついてくることになった。

さすがに無料で貸す以上、放ったらかしってわけにもいかないようだ。


だだっ広い訓練場の片隅にある射撃場に到着。

ここは弓術や弩術の訓練に使われる場所で、通常の的のほかに、自動修復機能を持つ人型のゴーレムなんかも置いてある。

幸いこの日は俺たち以外人はいなかったので、思う存分試射出来る。


まずはデルフィーヌさんが魔弓を構える。

矢をつがえず弦を引くと、その動きをなぞるように炎の矢が現れる。

《炎矢》を使ったのだろう。

なんだか惚れ惚れするほど堂に入った動きだ。

弓を構える凜々しいデルフィーヌさん……尊い……。


そして次の瞬間、炎の矢が放たれると、その射線上にあった岩のゴーレムが爆散した。


「「え……?」」


俺とフェデーレさんは同時にマヌケな声を出してしまう。

見事ゴーレムを撃ちぬいたデルフィーヌさんは、嬉しそうにこちらを向いたが、俺たちふたりのマヌケな顔を見て、少し不機嫌な表情を見せた。


「あの、私一応ハイエルフなんだけど?」

「ホントに!? いや、てっきり僕は普通のエルフか下手すりゃハーフなんじゃないかと」


今度はフェデーレさんがひとりで驚く。

ハイエルフと普通のエルフの違いってなんでしょね?

でもハーフエルフ呼ばわりはまずいんじゃね? なんかハーフエルフってエルフからは忌避されてるってのがファンタジーものの定番なんだけど……。


「いまはダブルって呼ばないと怒られるわよ」

「たしか、二種族のいいとこどりでダブル、だったっけ? うん、そのほうが確かにいいね」

「まぁ私はダブルじゃないけど」


とくに怒った様子もなければ、ハーフ……じゃなかった、ダブルを蔑む様子もないデルフィーヌさん。


「でもさぁ、ハイエルフって魔法とかバンバン使えるイメージあるんだけど、デルフィーヌちゃんわざわざ魔術覚えてるから」

「いつの時代の話をしてんのよ。ここまで魔術が発達してるのよ? いまどきのエルフはわざわざ魔法なんて覚えないわよ。たとえハイエルフであってもね」

「ええー、なんかガッカリ」

「勝手に期待して勝手に落ち込まないでよ。そのぶんいまどきのエルフは樹海にいるあいだ、弓術の修行に時間を費やすのよ。あの時だって弓矢さえあれば……」


と、こちらを見るデルフィーヌさん。

なるほど、弓矢さえあれば、あの程度の窮地は脱せたってことね。

いや、いまの光景見たら納得だわ。


さて、話は戻るが、魔弓ってのは《矢》系魔術に、弓術の威力が上乗せされるらしい。

ただの《炎矢》じゃあ岩製のゴーレムに当たっても表面をちょっと焦がして削るぐらいだろう。

それが爆散だよ?

溜めが結構あったからおそらく《炎矢》へ魔力を上乗せしてるんだろうけど、それを差し引いても弓術の腕は大したもんだと思う。


そのあと、フェデーレさんがなんかコントロールパネルみたいなところを操作すると、ゴーレムが動き出した。

結構素早く動いていたんだが、デルフィーヌさんは《氷矢》《雷矢》《魔矢》《聖矢》をそれぞれゴーレムに放ち、すべて命中のうえ、例外なくオーバーキルとなる。

これなら足手まといどころか、非常に頼りがいのある戦力になるぞ!


「じゃ、次は俺の番ということで」


続けて俺が魔筒の試射を行ったんだが……、こりゃ実戦で使うのはどうなんだろうね。

最初は“拳銃だー!”ってテンションで撃ちまくってたんだけど、冷静に考えたら《弾》系しか撃てないって不便じゃね?


それに魔弓と違って、個人の能力に依る威力補正もあんまないし、空魔石の容量の関係で魔力の上乗せも出来ないし、命中率に関してはむしろ下がってるんだよね。

それは俺の銃の腕が悪いからだけどさ。


6発事前準備できるから、連射できるのはちょっとだけありがたいかも。

まあ、銃を撃つ行為ってのは射的みたいで楽しいから、バンバン撃ちまくったけどさ。


《スキル習得》

〈射撃〉

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