2-24 Re_初めての人助け 前編

《スタート地点を更新》


 スタート地点に戻った俺は、急いで門を出て、駆け出した。


 前回も森の中を走り回ってたから、正確な位置はわからないけど、それでも近い位置にいるような気はする。

 場所はともかく、時間的にはそろそろだ。

 そのときに備え、《魔槍》の詠唱を開始。


「イヤァァ!!」


 よし、前回より近い。

 〈気配察知〉で、おそらくは逃げている女性と、それを追いかけているグレイウルフ、さらに少し離れて女性を包囲している個体を確認した。

 うしろを追いかけているのはともかく、隠れて左右に展開している連中は、ウザいな。

 そろそろ射程に入りそうなので、とりあえず左の茂みに隠れている奴に向けて《魔槍》を放つ。


「ギャウンッ……!」

「よし!」


 〈気配察知〉と〈魔力感知〉を全開にしていたおかげで、ほぼ正確な位置を把握していた俺は、難なく最初のグレイウルフを仕留めた。

 そのまま俺は《魔槍》詠唱をしつつ、右の木陰に隠れているやつを標的にする。


「キャァァ! 誰か……」


 対象を狙える位置に移動した時点で詠唱が終わり、即座に《魔槍》を放つ。


「キャインッ……」


 2匹目も無事倒せた時点で、女性に姿が見える位置取りができ、先方も俺を見つけたのか、途中で悲鳴がおさまった。


「そのまま逃げて!」


 女性が、驚いたような表情を見せる。

 この時点で俺と彼女はまだ出会っていない、、、、、、、

 俺が一方的に知っているだけだ。


 いきなり現れた得体の知れん男に、逃げろなんて言われても、戸惑うばかりだろう。

 しかし、いまは緊急事態。

 とりあえずこの場から去って、安全を確保して欲しい。


「このまま走れば森を抜けられるから!! 急いで!!」


 彼女はあいかわらず戸惑っているようで、逃げ足が少し遅くなる。

 できれば、俺の魔術は見られたくない。


「とりあえず俺が引きつけとく! 大丈夫、逃げ足に自信はあるからっ!」


 そこまで言うと、彼女は渋々ではあるが無言で頷き、森を抜けるべく走る速度を上げた。

 何か言いたげにしていたが、少し距離があるからか、諦めたようだ。

 よし、それでいい。


 標的が彼女から俺に変わっていることを確認し、グレイウルフと対峙する。

 左右から包囲すべく茂みの中を走っていた連中は、それぞれ先頭をの個体を倒されたため、警戒してスピードを緩めていたが、うしろから追いかけていた連中はそのままの勢いで走ってくる。

 不意打ちができないなら、効果範囲の広い《魔刃》のほうが当たりやすかろう。

 ギリギリ詠唱を終えていた俺は、まず先頭を走る個体に《魔刃》を放つ。


「ギャッ……!」


 不可視の刃が、先頭を走る狼の首を飛ばした。


《レベルアップ》


 それを見て、続く狼どもは慌てて足を止める。

 もともと《魔刃》は無色透明だが、それでも魔力の塊である以上、なんらかの形で察知されるはずだ。

 なので、効果の程はともかく、〈気配隠匿〉を意識しつつ放っている。

 いまの一撃は、ほぼ不意打ちに近いのであっさり当たったが、向こうも俺がなんらかの攻撃を行うことに、警戒はしているだろう。

 次はかわされるかもしれない。


 しかし、向こうが足を止めてくれたおかげで、詠唱の時間は稼げた。

 2匹かたまって警戒していたので、そこに向けて、できるだけ動作でバレないように《魔刃》を放つ。

 手前にいた個体は首を、奥にいた個体は胸のあたりを切断され、悲鳴を上げる間もなく絶命する。

〈気配隠匿〉と〈無魔術〉の相性、もしかして凄いんじゃないだろうか。


 残った狼どもが、明らかに怯えた様子で後ずさる。

 ちょっとばかり哀れみを誘う光景ではあったが、無残に食い荒らされた彼女の姿を思い出すと、そんな哀れみは家ほども残らず消え去った。


「逃がさんよ」


 自分より弱いものを襲うからには、強いものに襲われても文句は言えんよな。

 まして俺の恩人に手を出したんだ。

 おとなしく死んで、俺の糧になれ。


《レベルアップ》


《スキルレベルアップ》

〈気配隠匿〉


 詠唱時間がネックになるかと思っていたが、正体不明の攻撃に対し、連中が戸惑って動きがとまったのは僥倖だった。

 もう少し数が多かったり、強かったりしたら危なかったかもしれないが、俺は思っていたよりあっさりと、グレイウルフの群れを全滅できたのだった。


 あたりに他の魔物の気配がないことを確認し、死骸を集めて解体して収納する。

 前回売った解体用ミスリルナイフは、死に戻りのおかげで、ちゃんとカバンに入っていた。

 さてと、このグレイウルフの死骸は、たまたま見つけたってことにして納品しよう。

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