2-22 初めての攻撃魔術

 門の外で意識を取り戻した俺は、すぐさま門の中に入る。


《スタート地点を更新》


 これでゆっくり考える時間ができた。

 なんとなく場所も分かったし、全力で駆けつければもう少し余裕をもって助けられるはずだ。

 しかし、いまの俺だと、どう考えても力不足だ。

 何回も挑んでレベルアップを続ければ、そのうちなんとかなるだろうけど、それは最終手段として、死なずに済むならそのほうがいい。

 できればもう少し効率よく行きたい。

 こうしているあいだにも、彼女には危険が迫って、放っておけば死んでしまう。

 それを考えると胸が苦しくなる。

 でも、いまの俺が行っても、彼女は逃げないだろう。

 結局死んでしまうんだ。

 だったら、お互い死ぬ回数は少ないほうがいいよな?

 俺のひとりよがりかもしれないけど、そう考えたんだ。


 いまの俺では力不足だ。

 連中を撃退し、彼女を助けるための、新しい戦術が欲しい。

 そこで思いついたのが、攻撃魔術。

 もしかすると、攻撃魔術だともっと効率よく、敵を倒せるんじゃないだろうか。

 そのためにも、先立つものが必要だ。

 俺は街を練り歩いて武器屋を探しだし、カウンターに解体用ミスリルナイフを置いた。


「ここ、買い取りは行ってますか?」


 キリッとしたイケメンが、店頭に立ってた。


「ああ、やってるよ。それを売るのか?」


 はい、お願いします。

 解体用ミスリルナイフを手にとった店員は、一目見て驚きの声を上げた。


「これはなかなか……。ナイフもいいが、鞘がすごいな」


 そういやいろんな機能がついてたな、その鞘。


「…20,000でどうだ?」


 え……、マジで? クラークさん、そんないい物くれたの?


「……クッ、わかった! 25,000だ。それ以上は出せない!!」


 なんか俺が黙ってたら、勝手に勘違いして値上げしてくれた。


「あ、はい! 大事な贈り物なのでで、きれば手放したくはなかったのですが、その価格なら了承できます!!」


 予想以上に高かったから、変な言い訳をしてしまった……。


「そうか。払いは金貨でいいか?」

「はい」


 そう言うと、店員さんは金貨2枚と大銀貨5枚を置いたので、俺はそれをポケットにしまった。


「ありがとうございました!」


 クラークさん、ごめんっ!! あとで取り戻すから!!

 ……いや、あとでってのもおかしな話だけど。


**********


「攻撃魔術ねぇ。最初のおすすめは『下級攻撃魔術パック』かしらね。攻撃魔術用基本属性四種の《矢》《弾》《球》と『攻撃魔術基本講座』をセットにしてなんと3,000G!!」


 なるほど。

 たぶん普通に覚えるとしたら、これなんだろうな。

 となると、すでに覚えてる・・・・・・・ってことになれば、あとあと面倒なことになりそうだ。


「例えば、上級攻撃魔術って、お得なセットはありますか?」

「上級の場合は各属性の《渦》《波》合わせて3万のところ、セットだと2万、というのはあるわね。下級のような属性四種パックというのはないわ」


 よし、ならそのへんにしとくか。

 2万なら払えるし。


「例えばなんですけど、魔法を使えると、そのぶん魔術の威力が上がるってことはありますか?」

「どういうことかしら?」

「例えば〈無魔法〉を使えると〈無魔術〉の威力が上がるとかそういうの」

「そうね。もちろん魔法を使いこなせれば、そのぶん魔術には反映されるわね」


 よし、決まりだな。


「無属性の『上級攻撃魔術パック』をお願いしたいんですが」

「あら、じゃあ頑張ってお金稼いで、ランク上げないとねぇ」


 ランク? もしかしてランク制限あんのか!?


「あの、上級を覚えるには……?」

「Cランク以上じゃないとダメ」

「えっと……じゃあ俺が覚えられるのは……?」

「下級までね」


 くっ……、どうする? やっぱループ繰り返すか? それともあとの面倒は度外視して、下級魔術を覚えるか。


「お金はあるのかしら?」

「ええ、まぁ……」

「何か事情がありそうねぇ……。もしあとでおねーさんのお願いを聞いてくれるなら、特別に中級を覚えさせてあげてもいいわよ?」

「ホントですか!?」

「ただし、覚えても使えるとはかぎらないから、その時は文句言わないでね」

「もちろんです!! ちなみにお願いというのは……?」

「ダジギリの根もありがたいんだけどね。魔石も集めてほしいのよ」


 異世界ものでおなじみの魔石……、この世界にもあるのか。

 しかし魔物を解体しても出てこなかったなぁ。

 まあ、どこで手に入れるかはあとで聞こう。


「わかりました! 詳しいことは後日でいいですか?」

「ええ、いいわよ。じゃあついてらっしゃい」

「あと、訓練所も使いたいんですけど……」

「はぁ……。いろいろワケありみたいね。ま、詳しく聞くつもりはないけど、あんまり無茶しないでね」

「お気遣いありがとうございます」


 魔術習得施設で、無属性中級攻撃魔術|魔刃《まじん》と《魔槍まそう》を覚え、そのまま訓練場へ入った。

 最初のほうだけ、ハリエットさんが見てくれるみたいだ。

 離れた場所にある、巻藁みたいなのを標的に、撃てばいいらしい。

 意識を集中し、まずは《魔刃》を放つ。


「……あれ?」


 なんか、出そうなんだけど、えらい時間かかるな。


 結局10秒後くらいに準備完了って感じがしたので、改めて放つと、無色透明の刃が巻藁を切断した。


「……ショウスケちゃん、初めてよね?」

「ええ、まぁ」

「すごいわね……」

「あの、なんか発動するまで、すげー時間かかったんですけど」

「ああ、そういえばショウスケちゃん、攻撃魔術基本講座を、受けてないんだったわね」

「あ、はい」

「ある程度高度な魔術になると、ちょっと長めの『詠唱えいしょう』が必要になるのよ」

「詠唱……ですか」

「そ。中級攻撃魔術だと、大体10秒くらいね」


 そんなにか……! あの群れを相手にこの待機時間はちょっと厳しいか?

 試しに《魔槍》も撃ってみたが、やはり発動までに10秒くらいかかった。

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