第280話、BOSS・『パペッター・Type-PAWN』②/取り戻せ
俺は急ぎ外へ。というか、エンタープライズ号内にいたみんなが降り、ジークルーネの元へやって来た。
「センセイ、もう少しで、センセイの子供たちを取り戻せる……でも、向こうの抵抗がかなり激しくて、このままじゃ……」
「このままじゃ、このままじゃって……」
「クラックしちゃう……Type-PAWNは、生徒の脳内チップをバーストさせるつもりみたい。今はなんとか阻止してるけど、向こうも自滅覚悟なのか……かなり、まずい」
「なん、だって……」
クラック、そしてバースト。
意味を聞かなくても、碌でもない結果になるのは見えている。
自滅覚悟……つまり、相手はジークルーネに勝てない。そう思ったからこその破壊行為。
「ふざけやがって……ジークルーネ、なんとかならないのか!?」
「……わたしが、なんとかします」
「……ジークルーネ?」
「これから、限界値を越えた演算を行います。その間センセイ、わたしを『修理』して。常に『修理』をした状態なら、わたしが壊れることはないと思う」
「だ、大丈夫なのか?」
「はい。センセイが付いているから……」
「ジークルーネ……」
これは、ジークルーネの覚悟だ。
真紅の瞳は、先程からずっと輝いている。こうして喋っているのだって長くは持たない。今は、Type-PAWNの攻撃を必死にブロックしているんだ。
ビーハイヴ・ワスプに座るジークルーネの傍には、いくつかのディスプレイが浮かび、その内の一つに生徒たちが映し出されている。三日月はその映像をジッと眺めていた。
「……やろう、ジークルーネ。お前は絶対に破壊させない。俺がずっと『直し』てやるからな」
「はい、センセイ」
ジークルーネは、ニッコリ笑った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『第二着装形態展開・『花蟲蜂ビーハイヴ・ワスプ』変形開始』
「お、おお……!!」
ジークルーネの座る玉座が変形し、ジークルーネの身体をスッポリと覆う。まるで大きな黄金の卵のようになり、機械の木が卵を多い、全てのハチの巣が合体、華が分離し、小さな花弁が木に刺さる。
『変形完了・第二着装形態『超光度演算機構オモイカネ』展開。演算開始』
すっげ……なんだ、この森の中にポツンと落ちたような、黄金の卵は。
たぶん、普通に座って計算するより高度なことが出来るんだろうけど……よし、俺は俺に出来ることをやるんだ。
俺は黄金の卵に触れ、中にいるジークルーネに言う。
「ジークルーネ、俺が直す……暴れろ」
『はい、センセイ』
俺は全力の『
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇
アリアドネは、操作権限の奪還を放棄。生徒たちの脳を破壊するための電波干渉を行っていた。
「壊れろ、壊れろ、壊れろ……もういらない。もういらない!」
顔を歪め、必死に脳内チップを爆破させようと電波を送る。
アリアドネは、ジークルーネの演算能力と拮抗……いや、やや自分が勝っていると感じていた。
時間を掛ければ、生徒の操作権限を取り戻せるかもしれない。だが、恐らく数日はかかる……そんな時間を掛けることはできない。
なので、あっさりと生徒たちを放棄。未だに発進させていない大型兵器の操作に集中するため、生徒たちを処分しようとしていた。
「へへへっ……人形共をぶっ壊せば、センセイのメンタルにもダメージがいく。苦労して手に入れた魔導強化兵士だが仕方ねぇ」
アリアドネは、液体燃料の缶をがぶ飲みし、空き缶を投げ捨てる。
そして、固形燃料の飴をひっつかみ、何個も口の中に入れてはガリガリと噛み砕いた。
「あたしの『
ガリッ……飴玉を噛み砕き、ジークルーネの演算能力を上回る勢いで命令。脳内チップに小規模爆破の命令を出す。
これにより、生徒たちの脳に埋め込まれたチップは爆ぜる。
即死。全員、処分完了……。
「……よし、生命反応消失。それと……位置情報確認」
生徒を全員処分。
それと……ジークルーネの位置を特定した。
「クソが。あたしを舐めやがって……」
アリアドネは、アンドロイドと大型兵器を起動させ、ジークルーネのいる座標を確認。襲撃の命令を出す。
「センセイと人間たちもいるはずだ……とにかく、ぶっ壊せ」
命令を終え、小さく息を吐き、人間のように伸びをした。
これで、暫くは大丈夫だろう。レベル100能力者を失ったが、まだ大型兵器と魔導強化兵士、そしてType-JACKも稼働している。これだけでも、戦力的には十分。
「どれ、大型兵器の一つでも操さ
『お疲れさま。どうやら……わたしの勝ち、だね」
「……………………????」
通信。
アリアドネは、分析する。
勝ち、とは。
何に勝った?
『見せた方が早い、かな?』
「………………………」
アリアドネの正面にディスプレイが映り、始末したはずの生徒たちが、並んで歩いていた。
死体を操っている……違う。生きた人間を操作、どこかに誘導している。
『あなたの全力は測った。これなら、残りの人間たちも解放できる。今のわたしなら、あなたが干渉出来ないほど強固なプログラムを構築し、魔導強化兵士たちを解放できる』
「………………………」
『ふふ、ダミーデータにこれ以上ないくらい引っかかったね。おかげで、少しだけどあなたのデータも掴めた。ごめんね、もうあなたはわたしに勝てない。ではこれより『ビーハイヴ・ワスプ』起動。人間たちを解放させます』
「………………………」
何を、言っているのだ。
生徒たちはゆっくり行進している。他の画面を見ると、黄金の鉢が無数に飛んで行くのが見える。
なにを、するつもりなのだろうか?
「な、なに、を」
『聞いてたでしょ? これから人間たちを解放する。さすがに電波ジャックは出来ないから、一人ずつナノマシンを注入して、新しい命令を送るんだけどね』
「…………」
『ふふ、思考が追いついてないみたい。じゃあ、そこで見てるといいよ』
通信が、切れた。
アリアドネは、画面を見つめたまま硬直していた。
未だに気付いていない。
アリアドネは、ジークルーネに敗北した、と。
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