第206話、ラミアハーレムと次の目的地

 ハーレム。

 それは、男一人に対して女性がいっぱい……。

 

「ささ、飲んで飲んで。長旅だったんでしょう? お話聞かせてちょうだいな」

「美味しいお料理もあるわよ? ラミア族の魚料理は絶品よ!」

「お兄さん、あなたの旅のお話聞かせて~♪」

「いやはは、あはははは」


 俺は、数十人のラミアに囲まれていた。

 困ったことに、男は俺一人。ブリュンヒルデとジークルーネもいるが、この二人は何も言わずにメシをがっついてる。日光がないからエネルギー補給するため、飲食モードを起動させてるとか。

 三日月とクトネは少女ラミアたちとお喋りに夢中だし……なんかアウェー感がすごい。


 いや、ハーレムは悪い気がしないよ?

 でも、いくら上半身がスタイル抜群の美女でも、下半身が蛇……しかも、凶暴なモンスターですら容易く絞め殺す尾と聞けば、さすがに怖い。


「じ、ジークルーネ、その、ルーシアたちは?」

「んぐ、ルーシアさんたちは地上待機です。さすがにここまで来れませんしね。んく」


 何度聞いたかわからない確認をする。

 地上班はそのまま待機し、明日合流すると連絡をした。

 アルシェが「誰がアタシたちの料理を作るのよ!」とか言ってたが、それくらいやれよと思う。

 でも、ゼドさんがドワーフ料理を振舞うとか言ってた……ちょっと興味ある。


「あ、エキドゥナ様」

「やっふ~……楽しんでるぅ?」


 ラミアに囲まれる俺を助けてくれたのは、あれからけっこう時間が経過したにも関わらず眠そうなエキドゥナだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「お手紙書いたよ~……ふぁぁ、ねむい~」

「……あんた、噂と全然違うな」


 俺は敬語を止め普通に話していた。

 エキドゥナも俺を咎めることなく、のんびりした口調で言う。


「そ~お?」

「ああ。毒蛇女王エキドゥナは妖術の達人で、長い尾はラミア族最強の力を持ち、一度絡みついたら逃げ出すことはできないって聞いた」

「あはは、そ~かもね~……まぁどうでもいいけど~」

「いいんかい」

「う~ん。わたし、の~んびりしたいだけだし~……百年前の戦いも、いつの間にか終わってて、わたしが王サマになっただけだし~」

「そ、そうなのか……」

「ん~……だから、のんびりするためなら、手伝うよ~……姉妹たちもゆっくり寝たいだろうしねぇ~」

「ん、寝たいかどうかわからんが、手伝いは感謝するよ」


 エキドゥナは、にっこり笑った。

 なんというか……子供みたいな笑顔だ。


「じゃ、楽しんでね~」

「ああ、ありがとう」


 エキドゥナは欠伸をしながら去った……たぶん、あの部屋で寝るんだろうな。

 俺もブリュンヒルデの隣に移動する。


「よう」

『お疲れ様です。センセイ』


 食事が終わったのか、皿が山のように積まれている。


『エネルギー補給完了。いつでも戦闘可能です』

「いやいや、ここじゃ戦闘しないから」

『はい。センセイ』

「はは……それより、少しは休めたか?」

『はい、センセイ』

「その……ゆっくり休んで、明日も頑張ろうな」

『はい、センセイ』


 うーん……話すことがない。

 けっこう長い付き合いになるが、ブリュンヒルデは未だによくわからん。心は成長してるんだと思うけどな……スタリオンがやられたときなんてブチ切れてたし。

 

『センセイ』

「ん?」

『私は、センセイを守ります。何があろうと絶対に』

「はは、ありがとう。俺もブリュンヒルデを守れるくらい、強くなりたいもんだ」

『センセイは、私が守ります』

「それはうれしいけど、男としてだな」

『センセイは、私が守ります』

「いや、あの……」


 ブリュンヒルデは、まっすぐ俺を見て目をそらさない。

 俺は息を吐き、ブリュンヒルデの頭をなでた。


『…………』

「ありがとう、ブリュンヒルデ」

『……はい、センセイ』


 嬉しそうに見えたのは……気のせい、かも。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日。

 意外にもラミアの作ったクッションが柔らかくて快眠でした。

 魚料理をいただき、地上へ戻ることに。


「帰りはこちらの道をまっすぐ進め、そうすれば地上に出られる」

「ありがとう」


 エキドゥナは爆睡してるので、代わりのラミアさんに地上までの道を案内してもらう。

 言われた通りの道を進み、ようやく日の当たる大地に戻ってきた。

 そして、エンタープライズ号もやってきた。


「ホルアクティを遠隔操作して、ここの位置まで案内したんです」


 と、ジークルーネが言う。ほんとに頼りになる子だ。

 ようやく、仲間と合流することができた。これから情報を共有して、龍人が住むと言われている渓谷を目指す。

 俺たちは再会を喜び、エンタープライズ号車内へ。


『もきゅもきゅ~』『もっきゅうう~』

「おお、ごま吉にジュリエッタ。元気にしてたか?」

『にゃあ』『なーご』『うにゃあ』『にゃおお』

「みんな、ただいま」

『…………』

「シリカ、なんか言ってくださいよー」


 俺の足下にじゃれつくごま吉とジュリエッタに、三日月に群がるネコたち、シリカは香箱座りしながら無言でクトネを出迎えた。

 ブリュンヒルデとジークルーネは、スタリオンとスプマドールのところへ。話は知ってるし別にいいか。


「じゃ、さっそく話をするか」


 俺は、ごま吉を抱き上げてソファに座り、ラミアの巣穴であったことを説明した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「なるほどな……噂など当てにならんということか」


 ルーシア、納得するのはいいけど、ジュリエッタを太ももの上に乗せてるから可愛いだけだぞ。しかもジュリエッタはほっこりしてるし。


「まさかあの毒蛇女王エキドゥナが、話せばわかる常識人だとは……」

「めっちゃ眠そうにしてたぞ」

「そ、そうですか……」


 キキョウも、コメントに困ったのか曖昧に頷く。

 ゼドさんは立派な顎髭を手で撫でつけていた。


「次の目的地は渓谷か。今度も話のわかる奴だといいんだがの」

「ですね。戦いはナシでお願いしたいです」

「ま、どんなやつが来ても、アタシがやっつけてやるわよ。なっはっは!」


 次の目的地は渓谷……龍人の住まう渓谷か。

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