第163話、ダンジョン無双・後半

 翌日。

 オルトリンデたちは、早朝からダンジョンに向かった。

 まだ霧が掛かっている時間帯なのに、ダンジョン前には多くの冒険者がいた。

 昨日並んだ入口の列に並び、思い出したようにオルトリンデが言う。


「そういや、また最初から潜るのか?」

「いいえ、よくわかりませんが……最後に降りた階からのスタートみたいです。このダンジョンを作ったチート能力による効果らしいですけど……」

「ふーん。まぁ楽でいいな」

「お姉さま、まさか今日も?」

「もちろん、ぶっ放す。なぁライオット」

「うっす!! 自分も戦うっす!!」


 相変わらず、4人は目立っていた。

 エレオノールはピーちゃんを抱き、オルトリンデはライオットの頭をペシペシ叩く。ヴァルトラウテはクスクス笑い、ライオットは叩かれながらもどこか嬉しそうに見えた。


 4人のダンジョン探索2日目。50階層からのスタートは、ここ数年ではない記録だ。

 そして、ダンジョン入口の列が進み、オルトリンデたちの順番になる。


「おし、いくぜ」

「はい、オルトリンデさん」

「お姉さま、油断は禁物ですわよ」

「うっす!! 行くっす!!」


 4人は、特に緊張もせずにダンジョンに踏み込んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 第60階層ボス・オーガキング。

 ドロップレア装備・魔拳タイラント レア度9。


 第70階層ボス・オークキング。

 ドロップレア装備・魔杖アスクレピオス レア度8。


 第80階層ボス・デーモンロード。

 ドロップレア装備・魔斧ペルクナス レア度8。


 第90階層ボス・デモンワイバーン。

 ドロップレア装備・魔弓シェキナ レア度9。


 オルトリンデ一行は、順調に階層を攻略していった。

 ライオットとオルトリンデの攻撃を防ぐことすらできず、モンスターは銃弾でハチの巣、ミサイルで木っ端微塵、ぶん殴られ撲殺され、エレオノールとヴァルトラウテは攻撃の余波を防いでいた。

 恐ろしいくらい、順調に進んでいた。


「ったく、こんな武器ばっか出やがる。取引用に1つあればいいんだけどよ……」

「ここまでのボス、みんな武器を落としましたね」


 ボスを倒すと、トラップが仕掛けられた宝箱が現れた。

 宝箱の中は毒ガスだったり、いきなり矢が飛んできたりだったが、アンドロイドであるオルトリンデたちに毒ガスは効かず、飛んできた矢はライオットに直撃したが、まるで意に介していなかった。

 中身は全て武器。

 見る者が見れば腰を抜かす業物ばかりだが、オルトリンデたちはかなりどうでもいいのか、ぞんざいに扱っていた。


「お姉さま、もうすぐ100階層ですわ」

「ああ、最後かどうか知らねーけど、少しは骨のあるヤツだといいな」

「うっす、姐さん。次のボスは自分っすよ」

「わーってるよ。オメーが負けたらアタシの番だ」

「うっす!!」


 こうして一行は、まるで苦戦することなく100階層へ到着した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 第100階層ボス・カイザードラゴン。

 100階層に踏み込んだオルトリンデたちを待っていたのは、黄金の表皮を持つ巨大なドラゴンだった。

 知る者が知れば驚愕したであろう。このカイザードラゴンは『S級』認定された伝説のモンスターの一体でもあるのだから。

 

 100階層はドーム型になっており、踏み込むと同時に背後の入り口が消えた。

 そして、部屋の奥にいるカイザードラゴンとご対面という。

 オルトリンデたちは、特に変わらない調子で言った。


「ライオット、おめーの番だぜ」

「うっす!!」

「どーする? そこそこやりそうだけど、『使う』のか?」

「うっす。使わせていただくっす!!」


 ライオットは、ズンズンと前に進む。


「へんんんんん~~~~~~~~~~しぃぃぃぃんんっ!!」


 変身コールと変身ポーズで、ライオットの身体が変わる。

 全身に切れ込みが入り、裏返っていく。

 表が人間の姿なら、裏は戦闘用アンドロイドの姿。

 漆黒の甲冑を纏ったような、ゴツゴツとした黒い戦闘形態に変身した。

 ちなみに、「変身」の叫びとポーズはセンセイの趣味である。


「ライオット・ボルテックモぉぉぉ~~~どっ!!」


 拠点防衛制圧兵器・ティターン・Type-LUKE。

 センセイによりリミッター解除されたスペックは、戦乙女型に匹敵する。

 ライオットは、背中の装甲を展開、ガシャガシャと音を立て、発電用電極『ライトニングボルト』を露出させ、両腕の攻撃用電極『エレクトリカルアーム』も展開する。


『グルルルル……ギャォォォォォォォォォォォッ!!』


 ここでようやく、カイザードラゴンが動き出した。

 意外にも素早い動きでライオットに迫り、長い首をしならせて帯電するライオットに噛み付く。


『ギュギイギギギギギギギ……っ!!』

「自分を嚙み砕くつもりっすか?」


 ギシギシとライオットの装甲が軋む。


「ライオットさんっ!!」


 エレオノールが叫び、右手を突き出した……が、ヴァルトラウテに止められる。


「ヴァルトラウテさん、なんでっ」

「大丈夫ですわ。それより、わたくしより前に出ないでくださいな」


 ヴァルトラウテは、『乙女絶甲アイギス・アルマティア』を展開し、オルトリンデとエレオノールの前に出る。

 オルトリンデが、なぜか楽しそうに言った。


「あのハゲ、最初から狙ってやがった」

「え……?」

「見ろよ、ライオットのやつ、エネルギーチャージしてやがる。キラキラした表皮を狙うより、初めから体内を狙った一撃を出すつもりだ」


 ライオットは、未だカイザードラゴンに噛み付かれている。

 ミシミシと装甲が軋む。だが……ライオットの身体が光を帯びているのが見えた。

 そして、ライオットは両腕をカイザードラゴンの口の中にねじ込む。


「『超高圧放電砲ライオットスパーク』っす!!」


 莫大な閃光、破壊音、衝撃、振動。

 ライオットが放った攻撃は雷を凌駕した。

 

「きゃぁぁぁーーーーーっ!!」

「ほぉ……なかなかの威力じゃねーか」

「ええ。【乙女神技ヴァルキリー・フィニッシュ】に匹敵しますわね」


 攻撃の余波が、ヴァルトラウテのアイギスを叩く。

 オルトリンデとヴァルトラウテは感心し、エレオノールは目を閉じてピーちゃんを抱きしめうずくまってしまった。

 そして、ゆっくりと目を開けると……。


「終わりっす。お、宝箱っすよ」


 いつの間にか人間に戻ったライオットを、黄金の身体が炭のように黒焦げたカイザードラゴンだった。

 カイザードラゴンが消滅し、黄金の宝箱が現れる。


「おし、開けてみろ」

「うっす!!」


 特にライオットをねぎらわず、オルトリンデが支持する。

 ライオットが宝箱を開けたが、今回はトラップが仕掛けられている様子はなかった。

 宝箱は、開けると同時に消え、1本の黄金の剣が残された。


**************

○魔剣ゴールデンドーン レア度10

 黄金を操る伝説の魔剣。

**************

 

 オルトリンデは、無造作に剣をつかむ。


「最後は剣か」

「ええと……これでダンジョンクリア、なのでしょうか?」


 エレオノールの疑問はすぐに解消された。

 なぜなら、入り口の反対側の壁が開き、奥へ続く通路が現れたのである。

 4人は頷きあい、奥へ進むと、そこには転移魔方陣があった。


「どうやら、ここで終わりのようですわね」

「んだよ。最後まで来たってのに剣1本だけかよ。しけてやがるなぁ」

「あ、あの……その剣、かなりのレア装備なのでは?」


 オルトリンデがつまらなそうに吐き捨て、エレオノールがフォローする。

 ヴァルトラウテはクスクス笑い、ライオットはうんうん頷く。


 4人は、どこまでも楽しそうに転移魔方陣の上に乗った。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 地上に戻ったはいいが、特に何もなかった。

 冒険者たちは相変わらずたくさんいる。

 戻ったオルトリンデたちは、かなり注目されていた。

 理由は簡単……オルトリンデが肩に担いだ、黄金の剣だ。


「オルトリンデ殿!!」

「ん?……ああ、昨日の」


 ミリアとミルコが、オルトリンデたちの前に来た。


「ここで待てば会えると思いましたが……その剣は?」

「100階層のドラゴンを始末したら出てきた。レア度10だとよ」

「なっ……」


 何気ない一言に、周囲がどよめく。

 今や、ここにいる全ての冒険者グループが、オルトリンデたちに注目していた。

 

「ま、まさか、ダンジョンを踏破したのですか?」

「ああ。それより約束だ」


 ライオットに指示し、ミリアの前にガチャガチャと武具を落とす。

 ダンジョンで獲得した、すべてのレア装備だ。


「情報料だ。情報の内容次第じゃ、これを全部くれてやる」

「お、おお……」


 レア装備がどれほどすごいのか知らないが、周囲はどよめいた。

 一流装備であるレア装備がこんなにある。

 ミリアとミルコはゴクリと唾を飲み込み、頭を下げた。


「オルトリンデ殿。事情が変わりました」

「あん?」

「どうか、我々の本部までお越し頂けないでしょうか」


 『女神の剣』の二人は、頭を上げることはなかった。

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