Realize on Dream 1-4
「いつも竜真がお世話になっております」
60台後半に見える男が頭を下げていた。だれもいないから良かったものの、外から見れば異様な光景だったろう。
英国紳士風にハットを胸元によせ、昇降口から吹く風でコートを揺らし、ロマンスグレーの頭はアラフォー間近の工藤を羨ましいと思わせた。
「えっと。音無の…お父さんでいらっしゃいますか?」
おずおずと聞くと顔を上げた。
「いえ、音無を引き取ったおやじです」
「あ、ゲーム屋さんの。名前はお伺いしてもーーー」
要件を聞こうとした矢先、コートの内側から、袋を取り出した。
「これをあいつに渡しといてやってください」
「これを竜真に、ですか?」
「今日は虎が来る最初の日ですから、お体には気を付けて…」
「え、それはどういう…」
『うわあああ!!』
受け取った瞬間、上の階から叫び声が聞こえた。静まった校舎に響く生徒の声に反応し、工藤は天井を見上げた。
「!? 2階から声が!おじいさんはここで待っーーいない?!」
イサ公が振り向いた時にはゲーム屋のおっちゃんは消えていた。そして俺がおっちゃんにもう一度会えるのも随分先の話。
おっちゃんは叫び声に乗じて、校舎を後にした。校門に手をかけ、振り返ると悲しげに、いや口角を上げつぶやいた。
「竜真、お前がどの未来を選んでも、お前の運命は変わらない」
「探してて気づかなかった!!!」
俺は試しに大声を出した!効果がなかった!
「てか自分でバレるようなことしてたら意味ないじゃねぇか!」
あぶねーと当たり前のことに安堵し、一旦職員室を出た。
昇降口に向かったイサ公と鉢合わさないため、反対方向の廊下を歩き始めた。
「夏休みに入ったから全員帰ったのか?いやいや教師はいつも残ってるもんだろ」
教師がいないこと、それに学校全体がやけに静まっているような気がした。
夏休みだから帰宅した?部活はあったはずだし、登校からそんなに時間は経ってない。
「…は?」
人がいない現状に頭を悩ませていて気づかなかった。窓から校庭を覗くと、部活動をしている生徒は誰一人いなかった。
「嘘だ…さっき、睨まれたよな。人居たんだよな。何で…」
ついていけない…俺は落胆して、床を見つめていた。よろよろと窓に寄りかかり、腰をおろした。
「ここに人が居ないなら、何で、俺はいるんだ」
不思議だ。誰もが居ないのに、俺はいる。
いや、学校の中には誰かいるかもしれない。
理樹とか奈帆とか、イサ公も学校の中のはずだ。
「一か八か、探しにいってみるか」
重い腰を上げて階段を登り、しらみつぶしで人探しを始めた。
「ん?なんだ、人いるじゃねぇか」
階段の踊り場から俺を見下ろす女がいた。だが制服じゃなく、しかも見たこともないやつだった。
「お前、ここの生徒じゃないのか」
「…!」
女はハッとした顔を見せ後ろを振り向いた。なにやらブツブツと声を漏らし、再びこちらに顔を向けた。
「あのーお前、どっから来たんだ」
「未来からよ」
「は?」
言葉に詰まった挙句、こいつなにいってるんだ?と一言でまとめた言葉を発した。
女は取り乱し、顔を真っ赤にしてまた後ろを振り向いた。さらにしゃがみこんで頭を抱えている。
俺は心の中で、痛い子ってこういうことか、と納得していた。生まれて18年、カッコつけ、イキり、嘘、妄言。その他類いの人間は高校生になると同時にその性格を卒業し、立派な大人になるものだと思っていた。
しかしこの高校でも、外でも度が過ぎた変わり者には会わなかった。いつのまにか一歩大人に近づいて、皆、心のリフレッシュ、邪心の卒業をしているものだと思っていた。
目の前の子は年もそう違わないのに、「ときかけ」ばりの発言をしてしまっている。
「…人間、道に迷うことあるよな」
俺は階段を上って肩に手を置いた。
「やめて…その慰めは辛い」
女は肩に乗せた手をはたいた。冷静さを取り戻して立ち上がると、俺をまっすぐな目で見つめていた。
「私は桃。さっきのことは忘れて」
「あー、竜真だ。さっきのは…聞かなかったことにする」
「貴方は無事のようね」
「は?なにが…あ!」
そこまで言われて本題を思い出した。
「なあ!ほかのやつ見てねぇか!生徒も教師もいねぇんだ!正確には友達とイサ公がいるかもしれないんだけど」
「え。まだいるの?」
「ということは、なにか知ってるんだな?!教えてくれ!どうなってんだ!」
「詳しくは、私も話せない。あなたの通う学校だし、人が居なくなっているのも事実」
「お前が何かしたのか!」
「何か出来れば良かったけど…」
「は?!どういう意味だ!」
だんだん頭に血が上ってるのがわかった。だが話をそらす女、桃がなぜか許せなかった。
『うわあああ!!』
聞き覚えのある声が叫んでいるのがわかった。理樹の声。何かあったに違いない。
「くそ、なんなんだ今日は。桃、お前も来い!後でちゃんと教えてもらうからな!」
「ええ…きっと、私が戦う羽目になるのだけど」
なにか発言した気がするが、俺は走っていて気づかなかった。ともかく行かないと。
「理樹、奈帆…無事でいてくれ!」
一心不乱に走っていると隣でロボットが並走していたのが見えた。
「お、おーーー!!」
俺は足を止めたが勢い余って頭からスライディングした。
「あいつは!」
桃は拳を構えロボットを睨んでいたが、俺は嬉々として顔を向けていた。
「ぐ、赤グラジエータウロス!」
「ゲネミーを知っているの?」
怪訝そうにこちらを見ていたが、それどころではなかった俺は言葉を続けた。
「ばかこの!『グラジエータウロス』に出てくるメイン敵キャラ、グラジエータウロスだ!こいつは基本群れで行動するけど、全部倒すと自機の強化アイテムを落としてくれる。ただ稀に群れで行動しないグラジエータウロスがいて、それがこの赤いタイプだ!一体倒すだけで強化アイテムを落としてくれる敵ながらにしてサポート要員的な立ち位置にいるキャラだ!」
「ば…すごい語るのね」
「なにちょっと引いてんだよ!」
明らかに避けられてる感じがした。こいつグラジエータウロスしたことないのか。グラシエらないのか。
「それにしても精巧な見た目。ロボットなのにケンタウロスと掛けてるところが乙なんだよな。あ、これ俺の好きなヴァーサスって機種にはリメイクで出てんだけど、今度桃にはエクキン貸してやるからな。知ってるかエクキン、エクスペリエンスオブキングっていう機種」
「…そんなことよりグラジエータウロス、なんか照れてるわね」
「また話逸らしやがって…ほんとだ」
グラジエータウロスは嬉しそうな仕草を見せた後、その場を去った。
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