序章 2.はじまりのとちゅう
「いや~あいつ1体倒すだけで33333円も貰えるんだから下手な雑魚一掃するより楽やね~。」
と言って、扇ぐためにわざわざ札を全て千円札にしてもらってパタパタする
「お前なんもしてないだろ……。
「二人とも喧嘩しちゃだめ!報酬10万円だから3等分して余った1円を私が多く貰った。これでいいじゃん。」
ギルドからの帰り道、3人は仲良く(?)話していた。共通言語が日本語になったのと同じように通貨や税金、政治の在り方なども日本にかなり寄せている。中には違うものもあるが。
いやしかしほんと笑うの好きだな彩芽さん。
「あ、それと
「け、敬意の表れだよ。」
目をあさっての方向に向けつつ答えたが、実際その通りである。強すぎる。いくらうちの学校が地底一頭良くても。頭いい人って大抵運動できても。その
「じゃあ……友情を示すために呼び捨てにしなさい。」
頬を少し赤く染め、俯きながら上目遣いで言ってくる彩芽。
可愛く命令されてMに目覚めそうになる。女子にからかわれたくておどける男子って、かなりキモイから前にMは封印したのに。復活のM!
「あ、彩芽……?」
別段友達が多いわけでもないので普段人のことを呼ばない。さらに和希以外のことは呼び捨てしないのでかなり戸惑った。
「そうねそれがいいわ。あ、そういえば一学期始まった当初は『学級委員長』って呼んでたでしょ!距離とりすぎ!」
呼び方に拘りでもあるんですかね……。
え~だって接点ない人のことは役職で呼ぶしかないじゃん。学期変わったから今は名前で呼んでるけども。苗字じゃないだけ許して!
「よく呼び方なんて覚えてるね。俺、彩芽さ……彩芽と話したのたぶん今日が4度目だよ。」
「そ、それは!裕真くんのコト……。」
最後の方は声が小さくてよく聞こえなかったが、きっと「自己紹介でキョドってて覚えてる」とか罵倒されてたんだろうな。うわーんママー!
「逆に、話した回数覚えてるなんて裕真も凄いデスネェ。うふふふ?」
「な!?コミュ障はそもそも話す機会が少ないから覚えてるだげボケ!」
和希が痛いところを突いてきたので思わず早口でまくしたててしまった。だって。可愛い子って意識しちゃうよね?ちなみにぼくは2年前可愛い子とライン交換して夜通し返信待っていたらこんな返事が来ました。
「ごめん。寝てた。またあとで学校で話そ!」
1週間も寝てるなんて健康的な子だね!以来俺のラインはニュースアプリと化しました。
※※※
その週の土曜日、俺たち3人はギルドへ集まった。
4人テーブルに俺と和希が隣合って腰掛け、反対側、俺の正面に彩芽が座っている。
「まずは2人の強さをもっと上げないと♡」
人差し指をたててくるっと回しながら言う。何その仕草可愛いシューイチくらいで見たい!
彩芽がルンルン気分でスキップしながら受け付けへ持ってくクエストには、《幻竜クルシオン》討伐と書いてある。
「いや待て待て!幻竜とかどう考えても実力にそぐわないって。武装も雑魚だし……」
必死で説得を試みるも、彩芽の新たな一面を知るだけに終わった。
「あら、大丈夫よ。うちのお父さん、《神杖》造ってる会社の社長だから。欲しいのあれば言って。」
「ち、ちなみに会社名を伺っても?」
和希が恐る恐る訊く。
「株式会社SHINJOUよ。アルファベット使ってね。」
「ああー!薄々そんな気はしたんだよな!まさか本当にSHINJOUだなんて。」
和希が驚くとは珍しい。いやそうでも無いか。ウェイっていちいち大袈裟だもんな。
「そんなに有名なのか?」
「有名なんてもんじゃないよ!裕真はエンジョイ勢だから装備の会社詳しくないかもしれないけど、SHINJOUって言ったら《神杖》の名門店だよ。『株式会社神杖』なんて呼ばれ方もするんだ。ちなみにアルファベット表記の会社はKADOWAKI系列なんだよ。」
「そりゃすげぇや。」
俺の脳内で再び「神杖彩芽」の文字列が並んだ。
※※※
「これなんてどうかしら、《アルマラン》の角が元になっているのよ。」
俺達はSHINJOU本店の3階で、ガラスケースを覗きながら話をしていた。
店内は天井から壁、床まで大理石で、天井からはシャンデリアがつられていた。店員さんも紳士的な人ばかりで思わず爆ぜろと念を唱えてしまう。
この建物は12階建てで、1、2、3階がSHINJOU、その他の階がそれぞれ3階ずつKADOWAKI系列の会社となっている。
「《アルマラン》って言うとあの
「あれ結構美味いよな。」
「「そうだけど!!」」
どうやら俺だけ感想が場違いだったらしく、2人から息のあったツッコミが入ってしまった。ふぇ~んママー!
時間が経てば経つほど言いにくくなることもある。今回がそれなので俺は神杖が飾られているショーケースを眺めながらぼそっと呟いた。
「でも、正直なこというと俺剣士なんだよね。」
「あ、俺も……」
申し訳なさそうに、すかさず和希も同意する。
「それを速く言ってよ~。SHINJOUは剣も取り扱ってるんだから。」
そう言って彩芽は店の奥へ案内してくれた。
奥の部屋は先程とは打って変わって木造だった。恐らく樹齢何百年とかというかなり良い木を使っているのだろう。匂いや手触りが安物のそれとは違っていた。
「これはさっき行こうとしてた《幻竜クルシオン》と並んで四大幻竜のうちの1匹、《リザール》の剣よ。背骨がとても固く鋭いから丈夫で人気なの。手に入れるなら今ね。」
そう言って一際目立つ剣を指した。
最後にさらっとセールスマンのセリフ入れるのやめろ、欲しくなっちゃう!
「幻竜『匹』で数えるなよ……うさぎかよ……」
「うさぎは『羽』よ。」
彩芽がすぐ正した。が、俺をあまく見ちゃ困る。
「ざんねーん!どっちでもいいんですよ!」
このためだけにありとあらゆる古代動物の数え方調べたんだからな。へっ!あれ目が濡れて視界が歪む……。
「お取り込み中失礼!」
和希が目の前の剣を取ってレジへ向かった。
あのニコニコ笑顔、まじ腹立つみ。
「あっ……。」
俺、幻竜の中で1番《リザール》が好きだったんだよな。油断した
「急いでこっちきて!」
と彩芽に手を引かれ、さらに店の奥へと進む。
今度の部屋は金属製だろうか。銀色系統の金属でできている部屋は、薄暗いのもあるのか、青い照明の光を綺麗に反射していた。
どんだけ金かけてんだこの店。
ふと一望すると、部屋の中央に一際目立つ剣があった。
「な、なんだこれは。」
目の前にあるは、光り輝く剣。略してかがやけん。輝けないのかよ。
「《ストマ鉱山》でとれるクリスタルで出来た剣よ。本来なら上級剣士しか買えないんだけど、特別にあげる!未来への投資ってことで。」
未来への投資か。俺の株下落するオチしか見えない。やめて!既に最底辺だからこれ以上落ちないとか言わないで!安すぎる株を彩芽に全部買われて株主総会で命令されたい。あっ想像するだけで///。
「あ、ありがとう。重っ!」
輝きも凄いが、実際の重量感が、というか重量が並じゃない。これ使えるやつハンパないって。後ろ向きのボールもめっちゃトラップ出来そう。
あ、ここで一句。剣やばい/ああ剣やばい/剣やばい。芭蕉さんも似たような事言ってたし、もしかしたら俺ってば俳諧大成できるかも!まあ作者違う説あるんですけどね。
「良かった~和希くんが見事にノってくれて。計算通りすぎて楽しいな。」
彩芽が少し笑いを堪えながら言う。
ん?ノった?昨夜の話かな?なんだよお盛んだな。だが独り言は反応しないが得策。でも気になるし、うーん。
そんな俺の曖昧な表情をどう読みとったのか、詳しく教えてくれた。
「先にすごい剣見せとけば和希くん貰ってくれるかなって。ほらせっかちだし。」
教えてくれたのはぼくの心の汚さでした。
「えへへ、君には何か秘めたるものがあると思って。とっておいたんだよ、この剣。」
そうやって照れながらも笑う顔は最高に可愛いので思わず告ってフラれそうだった。ナンデフラレンダヨ。
「あ、そろそろ和希くんの会計終わると思う。急ご!」
そう言ってまたいつもの調子に戻る。
時折こういうことをさらっとしてくるあたり、男子の扱いうまいなぁとか思いながら彩芽の後ろをついて行った。
※※※
「さて。昨日は各々剣やらアーマーやらと装備を決めました。」
あのあと彩芽の顔パスで店をたくさん回った。こいつバケモンかよ……。
「では、本日こそ討伐に……。」
「「はやーい!」」
俺と和希口を揃えて拒否った。
翌日、朝6時に公園に集められたと思ったら早速クエストとか言い出したので
「俺はガチ勢だから頑張って
「そもそも楽しむためのゲームだ!嫌だ!スライムがいい!」
足並みは揃ってませんでした。
※※※
前日、散々練習させられまくったおかげで全身筋肉痛の裕真くんが、本日の昼休みのお話の内容をお伝えします。
「やっぱりさぁ、3人じゃ無理だって。人数増やそ。」
クエスト選択がガチすぎるので、俺はそもそも行かないという選択肢を提案した。
「だね!だね!」
ハッ!今野生のフシギダネが居たような……。なんだ和希か。ボケモンGOのやりすぎでボケちゃったかな。和希も戦力に限界を感じたのか、同意してくる。
「そんなこと言ったって当てはないもん。」
彩芽が困ったように言う。
「学級委員長なら顔広いだろ、それにもうこの学校も3年いるんだし1人くらいは……。」
「それがね、私あんまり女子に好かれてないんだ。『張り切りすぎ。絶対男子ウケ狙ってるじゃん。』とか言われてさ。」
自嘲気味に笑いながら言う。初めて見た表情だった。
キーンコーンカーンコーン。ナイス鐘!この話は長引かせてはいけない。
「ん、今鐘鳴ったし席つくか。じゃあな和希。」
和希は俺たちとはクラスが違う。
「お、おう……。」
曖昧な返事をして和希が教室前方のドアへ向かう。
そのモテない男子がラインでよくやる返しやめろ。俺の黒歴史があああああああ!
まぁ急にあんなこと言われちゃ動揺するのもわかるけどね。
※※※
放課後、3人で近場のカフェに行き、真剣にメンバーの話をしていた。
内装はごく普通の個人経営のカフェといった感じ。ジャズミュージックが流れていて心が安らぐが、著作権が心配になりました。
店内はオシャレな人でいっぱいだった。
が、中にはスーツ姿にパソコン作業という自惚れてる人もいた。スタバにいけ。
座り方はやはり前と同じ。
「最前線で戦うところだともはや軍レベルの人数がいるしな。そっちに3人で加わった方が早いかもしれない。《ブルーリボン軍》とかな。」
俺が無表情で言うと
「だめだよ!それじゃ……それじゃダメだよ……。」
(元)委員長らしくない無根拠な反論をしてきた。途端。
カランカラン。
「いらっしゃいませー。」
新しい客が来たみたいだ。
店員さんの声が、黙った3人には大きく聞こえる。
「はい?
7番っつったら俺らだな。新城って言ってたし彩芽の知り合いか?
「あ!お姉ちゃん!」
そう呼ばれるや否や、彩芽が声のする方をさっと向く。
「
かなり驚いている。てか妹さんも可愛いな。
俺よりも少し小さめだから身長は150センチ半ばぐらいだろうか。2つにまとめた髪は茶色に染まり、ぱっちりとした目は生きる希望を写している。俺も希望が欲しい!
「だって今日は久しぶりにお姉ちゃんと一緒にクエスト行く予定だったのに、なかなか帰ってこないから。」
はっとしたように彩芽が目を開く。直後、姉らしいキツイ目で
「な、なんの話?とりあえず今は帰って。」
と告げた。
「いやだよ!昨日折角新しいガン買ったんだよ?今日のために……。」
凛が、人差し指を合わせて俯きがちに言う。
彩芽は困ったように俺たちと妹を交互に見ている。
「妹さんもクエストやってたんだ、しかもガンナーなら前衛後衛2人ずつで丁度いいんじゃないか?みんなで組もうよ!」
和希がそう言った。
「み、みんながいいなら良いけど……。」
彩芽が申し訳なさそうに言う。
「それは名案だな。人数が増えれば俺の役割が減る。」
「え!?凛もお姉ちゃんたちと一緒にやっていいんですか?わーい!」
「2人の差が酷すぎる……。」
彩芽は俺を蔑視してきた。平和に行こう?
※※※
4人。これはクラン設立の最低人数である。
クランとは、クエストを共に戦う仲間同士で結成されたチームのことだ。早速ギルドへ行って申請をしてきた。
「そういえば彩芽、クラン名は何にしたの?」
1人で申請を済ませてきた彩芽に和希が問う。
「ふふーん。なーいしょ♡」
可愛すぎてプロポーズした後結婚詐欺に遭うところだったぜ。詐欺かよ。
※※※
「それではクラン名《あかずきん》様、クエスト出発でございます。」
ギルドの職員がそう言うと地上へのゲートが開く。
ゲートと言っても地下と地上をつなげるもので単なる洞窟の扉である。別段特別な超科学が施されているわけではない。
ゲートを通るまではなんとか堪えたがもう無理だった。
「「「はあああああ!」?」」
俺と和希は疑問を声に出し、凛はひとり感嘆していた。
すると彩芽が得意気な顔で
「3人の名前から取ったのよ。『あやめ』の『あ』に『かずき』はそのまま全部使って最後に『りん』の『ん』」よ。」
続けざまに
「狼という獣を狩る幼き子的な意味で私たちにピッタリだと思うの!」
と言ってきた。
「そうか!3人で頑張れよ!」
清々しい笑顔で俺はそう言い放ち、地底へと続くゲートへ向かった。あ、その後連れ戻されて泣く泣く前衛やりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます