ハイテンションじゃいられない!(仮)

だいきち

六龍の伝説

丘のてっぺんに木の十字架が突き刺さっていた。


「兄貴~!カン将軍だ!」


十字架には、大男が磔になっていた。

着ている粗末な服から血がにじみ出している。

明らかに拷問を受けたあとだと言うのがわかる。

「ひで~。まだ生きてるんか」

涙目になりながら、男は丘をよじ登っていく。


「ライ、気を付けろよ。」


男の下から声がする。

ライと呼ばれた男が一足先に大男の様子見に登っているらしい。


「ちくしょう。シン国のやつらひでーことしやがる。


しかし、組合の情報網っちゃすげえな。

ほんとにカンの兄貴の居所見つけちまいやがった。」


汗をぬぐいながら、丘を昇るライ。


「ふう。カンの兄貴~ぶじてすかい?」


丘を登りきって、血まみれの男に手を伸ばす。



「に・・・げ・・・ろ」



言葉を絞り出すと大男は息絶えた。


「カンの兄貴~!」


ライは、十字架から下ろそうと大男に近づく。


バシャシャシャシャ----!


大量の矢が、ライに向かってくる。

十字架の先の丘の下を見渡すと、ライは愕然とした。


5万のシン兵が陣をかまえていた。


「あにい~!罠だ~!逃げてくれ~!」


ライは、カンの影に隠れ矢を避けている。


カンの亡骸は、針ネズミのようになっている。


死して尚、可愛い弟を守るかのように。



「アトラクション!!」



丘の下の男が叫ぶ。


男の廻りに水蒸気がたち、男を覆う。


「風龍解放!」


緑色の蒸気が龍の形となり、男に巻き付く。


龍は、一瞬で丘を這い上がる。


「あとは、任せろ!

 カンの亡骸を持って逃げろ!」


男は龍を身体に巻き付け十字架の上に浮かんでいた。


ジャジャシャジャ~!


大量の矢が飛んでくる。


ストトトトスト!


風の龍に遮られ、矢は地面に落ちる。


「やっぱ、兄貴はすげえぜ!」


ライは急いで両手で陰を結ぶ。


魔空羽マクウバ!」


ライの手から、半透明の手のひらだいの羽が6枚、ヒラヒラとカンの身体に貼り付く。


「よし。これで持ってけるぜ。」


右手の人差し指を丘の下へ向けると、指差した方へカンの身体が向かっていく。


人差し指で誘導しながら、ライは走り去っていく。


「兄貴~!ほどほどにしといて戻ってきなよ~!」


「分かっている。カンを殺した罪の重さを分からせてやるだけだ。

 」


(あらら、やっぱそうなるかい。

 まっ、兄貴なら大丈夫だろうけどな。

もうちょっと離れたところにカン兄貴仮埋葬して様子みにいってやんなきゃな。)



「六龍開放!!」



男の体内から、5色の半透明の龍が飛び立つ。


男の上で漂う龍達。



「六龍咆哮!!」


ガグオオオオオーーーーン!



六色の龍が、5万のシン兵に襲いかかる。


一瞬にして、5千の兵が倒れる。


「ウワー!」

「助けてくれ~」


逃げ惑うシン兵を喰らい尽くすように龍が暴れまわる。



「リョフ様、先鋒隊総崩れです!」



伝令が、陣の後方に位置する指揮官に伝える。



「慌てるでない。


 そろそろであろう。」


静かに答えた男の口許から笑みがこぼれる。



「まだまだ~!

 カンの痛みはこんなもんじゃおさまんないぜ~!」


「アトラクション!」


空気中の魔気が男に集まり、再び水蒸気のような湯気を発している。



「六龍かいほ~・・・うぐっ」


木の十字架の上に落ち、口から血をはく。


(やられた・・・な。・・・組合め裏切りやがった。)



ズシャシャシャシャ!



男の身体中に矢が刺ささりる。


「兄貴~~~!!!」


崖の下で様子みしていた、ライの方へ男の身体が飛ばされてくる。


駆け寄るライ。


「さ、さ・・・いごの命令だ。

い・・・いきて戻れ。 

レ・・・、つ・・・まを た・・・の・・・」


男は、言い終わる前に力尽きた。


「分かったよ。兄貴の命令は絶対だ!

これからは、オレの命、兄貴の嫁さんの為につかわせてもらうよ。兄貴の分まで、オレがぜってえ守ってやるからな~」



ライは、涙を拭い男にお辞儀をする。



ザッザッザッザッザッ!


シン兵の足音が聞こえる。


「魔空羽!」


(兄貴、とりあえずカン兄貴のとこに一緒に埋めさして貰うよ。)





「ふう。

 なんとか、埋葬出来たな。」


(兄貴たち、こんなとこに埋めちまって、もうしわけなえ。

必ず戻ってくるから、待っててくれよ。)



「魔走羽!」


半透明の羽が、ヒラヒラとライの靴に貼りつく。

飛ぶように、そこから離れていった。







7年の月日が流れた。




そして、男は「亡国の六龍」と呼ばれる伝説になった。

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