ヒモがヒモとして生きるために
一度も後ろを振り返らずに駆け続けて――追手の気配を感じないことに気づき、俺は足を止めた。
「アキラくん!!」
聞き覚えのある声だなと思ってたが、やっぱり
「ゆい、助けてくれてありがとうございます。囚われの身だった俺は、不安で何も喉が通らなかったくらいですが、ようやく落ち着くことが出来ました。
アハハ、大好きな人の顔を見たからかな」
「……カニ缶、食べたよね? なんで、嘘つくの?」
やだぁ~! この子、人の口臭、嗅いでる~! マナー違反じゃないのぉ~!?
「なんで、嘘ついたの? どうして、やましいことするの? ゆい、アキラくんが心細かったんだって、早く助けられなくてごめんねって、心の中で一億回は謝ってたんだよ? どうして、そういう嘘つくの? ねぇ? なんで?」
なんか、この人、心の速度が俺の一億倍速い。
「やだな、ゲーム開始前に食べたんですよ。俺がゆいに嘘つくと思うんですか? 疑われるなんてショックですよ。
愛し合う二人の間に、隠し事が存在するとでも?」
「う、疑うつもりじゃないよ。た、ただ、そういう匂いがしたから……あっ……」
ガジュマル
「いいから、俺だけ見てろよ(イケボ)」
「ひゃっ……は、はい……」
深夜にイケボの練習しててよかったわ! 努力は人を裏切らないんだね! 追い詰められた時は、樹ドンからのイケボに限るね!
「でもねアキラくん訂正しておくけどねゆいはずっとアキラくんを視てるよ視てない時なんてないよだってアキラくんすこしでも目を離すと他の女のところに行くんだもん知ってるよゆい知ってるよフィーネのことを見つめた回数数えてるよフィーネどころか全員分数えてるよ目玉で記憶してるのゆいねアキラくんを見つめると目玉でも記憶できるのううん全身がね記憶媒体化しちゃうのだってねそうでしょゆいのことを見つめるアキラくんの視線がゆいの全身に愛を刻み込むんだもんそうなったらね心臓だろうと胃だろうと白血球だってアキラくんの愛を記憶しちゃうんだよだからゆいはアキラくんの愛に包まれてることを実感できるのそれにね」
やめやめー!! この手は封印でーす!! 好感度上がりすぎて、ヤンデレの暴走を招きまーす!! 樹ドンもイケボもよぉ!! 使えねーな、ホントによぉ!!
「ゆい。その話は、後でゆっくり……今は、フィーネの話を」
「わたしじゃなくて、フィーネを優先するの!?」
状況理解してるのかな~、この
「現況の話ですよ。このまま、フィーネが追いかけて来ないなんて有り得ない。アイツをどうにかしないと、俺たちは第一、第二島民として暮らすことになる」
「……たぶん、フィーネは、“わざと”わたしたちを逃したんだと思う」
答えを出してもらおうと眉根をひそめると、水無月さんは腕を組んだまま、震える両手を押さえつけてささやく。
「
「要するに、足手まとい……じゃない、人質ですね」
「アキラくんの行動を“心理的”に縛るつもりだろうね。二人が自分の手の内にいれば、アキラくんがこの島から出ていくのを拒むことができる。
わたしもアキラくんを置いて行けないから、自動的にフィーネに楔を打ち込まれる形になった」
さすがの俺でも、淑蓮を見捨てる気にはならない。比較的まともな寄生候補だし、なによりも健気に育成失敗した一人の妹だ。アイツの作る料理は美味いし、こんなところに廃棄したら地方自治体(ハワイ)に怒られる。
由羅についても、真理亜の願いがかかっているし、ココに放逐して野良ヤンデレ化させるわけにもいかない。ヤンデレ愛護法に引っかかって、環境省(ハワイ)に罰金刑喰らいそうだ。
「俺はわかりますが、水無月さんに行動制限を付与する意味はなんですか?」
「この島の“存在意義”を考えれば、単純な副次的要素じゃないと思う。たぶん、シンプルに“わたし”の存在を消し去りたいんだよ。
明確な敵対行為を働いた裏切り者のわたしは、もう第二夫人としての肩書を失ったし、容赦する気なんてさらさらないんだろうね」
女性が一人もおらず、女性に関する情報すらも規制されている……この島が明示しているのは、“女は誰も逃さない”というシンプルな脅し。
フィーネ・アルムホルトは、ココで俺以外を“消す”つもりだ。
「むしろ、フィーネの真意はソレかもしれない。
ゲーム化したアキラくんだよ! リセットボタンを押したら、女性関係が白紙に戻るよ! ワンプレイ料金は、島一個買えるくらいだよ!
「正直言って、勝ち目はない。でも、ひとつだけ、道はある」
水無月さんは――顔を上げた。
「淑蓮ちゃんも衣笠さんも雲谷先生も……全員、見捨てて」
真剣な顔で真摯な思いが少しでも伝わるようにと必死で、水無月さんは俺によろよろと歩み寄りながら言った。
「お願い……アキラくん、わたしを選んで……コレしか……コレしか方法がない……フィーネの不意をつけるのは……フィーネから逃れられる方法はコレしか……アキラくんがわたしを選べば……どうにかして、この島から脱出を……」
「なるほどな」
なるほどな、としか言えない。
水無月さんと俺を二人きりにして、ゲームを捨てたのかと思っていた。でも、違う。フィーネは“正々堂々”、ゲームに勝つつもりでいる。この状況下で、俺が水無月さんを選べないことを知っている。
自分を選ばされざるを得ない状態に追い込んで、“
この
「笑わせんな」
「え?」
「なんのために、今まで、ヤンデレ共を管理してきたと思ってやがる。
理想の
お前如きに――
困惑するかのように見上げる
「水無月さん」
「……なに?」
「全員、助け出して――」
俺は、笑った。
「アイツ、ぶちのめしましょう」
その喧嘩、0円で買ってやるよ。
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