第30話
大輝くんはドーゼムに対峙する様に剣を構えるが、対峙しているドーゼムはイラついているのか、大輝くんの事を睨んでいる。
「ザコが! そこを退け!」
「退くわけにはいかない!」
「そうよ、誰が退くものですか!」
「リベンジマッチする!」
追いついて来た美羽さん達も、それぞれの武器を構える。
「じゃあ私は、こっちの方と戦わせて貰うよ」
そう、ヤハンと言う子供。と言うよりもサイコパス野郎の前に立つ。
「クゥ〜・・・・・・まぁ良いでしょう。キミ達を殺すのも我々の任務ですからね」
ドーゼムはそう言うと影を身に纏い、鎧を作る。
最初っから本気で戦うつもりらしいな。
「さて、くだらない戦いを早く終わらせましょうか」
「くるぞ、構えろ!」
その言葉の後に戦いが始まったのか、金属音が部屋の中に鳴り響く。それと同時に俺の方もUZI PRO を構えてヤハンに向かって撃つが、やはり身体の操られているボスが盾になった。
「グッ! ギャアアアアアアッ!!?」
「チッ!?」
ホントに邪魔だ。
「あ〜あ、正義の味方が人を傷つけるの?」
「私は正義の味方じゃないし、なによりもその人は悪人なのだから、救うつもりは全くないよ」
「そ、そんなぁ〜!」
いや、お前は俺の命を狙ったんだから、当然の結果だろう?
「アハハッ!? 見捨てられるとは悲しいねぇ!」
サイコパスがなにを言っているんだよ。
そう思いながら、再び狙いを定めて UZI PRO のフルオートを叩き込むが、予想通りボスが体を張ってヤハンの身を守る。そう、予想通り。
「そんな事しても無駄って気づかないの?」
「・・・・・・それはどうかな?」
リロードを挟んでから再び撃ち込もうと構えるが、すぐに銃口を下に向けて撃った。
「ウギャッ!?」
ヤハンはそう叫びながら床へと寝転がった。そう、俺はヤツの身体を撃つと見せかけて、ボスの股の間に弾丸を通してヤハンの脚を撃ち抜いたのだ。
「油断し過ぎだっての」
そう言った後に、ヤハンの身体に有りったけの弾丸を撃ち込んで倒した。
「フゥ・・・・・・後はコイツをなんとかするだけだね」
リロードをしてから埋め込まれたと思われる個所に狙いを定めたが、操られているボスの身体が震え出した。
「ん?」
なんだ? なにかやろうとしているのか?
そう思っているとボスがヤハンの身体の上に覆い被さったら、赤く点滅をし出した。
「マズいかもしれない」
そう思った俺は、すぐ様ボスの身体に向かってフルオートを撃ち込んでいく。
「・・・・・・痛いなぁ」
俺はギョッとしていた。なぜならヤハンはグッタリしているボスの身体を退かして立ち上がったのだから。
「フゥ〜。保険を掛けておいてよかったよぉ」
「保険?」
「そう。ボクになにかあった場合は、肩代わりしてくれる様にしたんだよ。ホラ、あの人は死んでるだろう?」
確かに横たわっているボスは全く動いていない。
つまりコイツはボスの命を犠牲にして、自分の命を繋いだって事か。
「ゲスみたいな事を・・・・・・」
「ボクにとってはモルモットなんだから、生きていようが死んでいようがなんとも思わないよ」
だけど、これで命のストックがなくなったっていう事になる。なので即座に UZI PRO を構えてヤハンの身体を狙い撃ちしたのだが、向こうもそれを想定していたのか避けられ壁の裏に隠れられてしまった。
「チッ!?」
流石に気づかれてもおかしくないか。
そう思った後に腰からMK3A1グレネードを取り出し、壁の裏目掛けて投げた。
「その手は通用・・・・・・」
バァンッ!? と言った激しい爆発音にヤハンの言葉がかき消された。
言葉の途中でかき消されたけど、何かきになる事を言っていたな。
警戒をしながらヤハンがいる壁の裏側へと行くと、なんとヤハンがあられもない姿になって横たわっていたのだった。
「クソォッ!? 激しい光で視覚と聴覚を奪う爆弾じゃなかったのかぁ?」
「残念だけど、それはM84フラッシュバンの事ね。種類を間違えているよ」
コイツ、もしかしたら魔人の中で一番弱いんじゃないか? と思ってしまうところがあるが、もしかしたら油断を誘っている可能性も否定出来ない。なので距離を取って話をする。
「こんな事ならぁ・・・・・・実験室で大人しくしていれば・・・・・・」
息も切れている姿に、なにも言えなくなってしまうエルライナだったが、ヤハンの身体から煙が噴き出したのに驚きつつ距離を取った。
「まさか、毒霧?」
エルライナが煙に隠れたヤハンを探している一方で、大輝くん達の方はドーゼムと攻防戦を繰り広げていた。
「ハァッ!」
「クッ!?」
「ホーリーアロー!」
「グハッ!?」
伊織が放った光の矢はドーゼムの右肩に突き深く刺さった。
「クソがッ!?」
ドーゼムは肩に右肩に突き刺さった矢を抜くと、膝を着いてしまった。
「コイツら、強くなっている」
そう、最初の方は余裕そうな顔をしていたドーゼムだったが、少しづつ劣勢になって行き、今では傷だらけの姿になってしまった。
「最初に言ったはずだ! あの時に借りを返すって!」
「ん・・・・・・私達、その為に強くなって来た」
「それにアナタの攻撃を対処出来る様に訓練もして来たわ!」
「私の見込みが甘かったって事ですね」
ドーゼムはそう言うと、立ち上がって影の分身を3体作る。
「行きなさいアナタ達!」
ドーゼムがそう言って影を勇者達に向かわせるが、勇者達は一撃で倒してしまう。
「なぁっ!?」
ドーゼムも流石にこの状況を信じられない様子で見ていた。
「てりゃっ!」
大輝がドーゼムに突っ込み剣を振りかざし、その姿を目の当たりにしたドーゼムは、自分の左腕をかざして防御体制を取ったが、剣が籠手に当たった瞬間に籠手が弾け飛ぶ様にして壊れてしまったのだった。
「ウグッ!?」
腕を切断されずに済んだのは良いが、ダメージを負ってしまったドーゼムは一歩、二歩と後ろに下がった。
「人間めぇ〜! どこまで私をコケにすれば気が済むんだ!」
壊れてしまった籠手を直そうとするが、魔力が足りないせいか中途半端に穴が空いたものが出来た。
「もう、アイツ・・・・・・魔力がない」
「このまま一気に決めるぞ!」
「OK!」
突っ込んでくる三人に対してドーゼムは影の壁を作り行く手を阻んだ。
「壁を作られた!」
「横から行ける?」
「ダメ。壊さないと進めない」
彼らが壁に苦戦をしている中、ドーゼムはフラついた足取りで歩き出したがツラそうな顔をしている。
「グ、ウウウゥゥゥッ!?」
そしてその呻き声と共に、身に纏っていた鎧が霧散していったのだ。そう、ドーゼムは残り少ない魔力を壁を作る為に注ぎ込んだ。なのでもう魔力が空っぽなのだ。
「このままでは、終われない!」
そうドーゼム自身は一度任務を失敗してしまっている。その時の失敗を許して貰えたのだが、二度目はないと断言されているのだ。
このままオメオメと帰ったらと考えると、ゾッとする結果しかない。
「早く、ヤハンのところに行かねが・・・・・・」
ヤハンは頭がおかしいが優秀なのは仲間内では誰もが知っている。だから、最後の悪足掻きをしようとしているのだ。
バキンッ!?
「ッ!?」
遂に影で作った壁が破られてしまった。
「マズい! マズいマズいマズいっ!!」
早くヤハンのところへ向かわなければ。と思いつつ廊下を進んでいると、進んでいる方向から人が向かってくるのが見えた。
「あれは・・・・・・ヤハン!?」
「ドー、ゼム?」
そうヤハンも自分と同様にボロボロの姿になっていたのだ。
「その格好。まさかキミもやられたの?」
「・・・・・・クッ!」
ドーゼムはヤハンの姿を見てこう思った。 自分がエルライナの相手をしていれば、こんな事になっていなかったんじゃないか。 と。
「まさかあんな手を残していたとは思ってもみなかったよ」
「「ッ!?」」
二人して声の聞こえて来た方向に顔を向けると、宿敵のエルライナがこっちに向かって歩み寄って来ていたのだった。
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