第39話

ギルド長と向かい合う様にしてイスに座ると、ギルド職員が紅茶をテーブルに置いてくれた。


「ありがとうございます」


ギルド職員にそうお礼を言ってから、ギルド長に顔を向けて話し始める。


「ここへ来た理由はもう分かっていますね?」


「ああ、魔人の情報を掴んでいないのか聞きに来たんだろう?」


「その通りです」


「我々も魔人の情報を探しましたが、手がかりを掴めていません」


まぁそうだろうね。一日じゃ見つけられる訳がない。


「私もダメ元で聞いたので、申し訳なさそうな顔をしないでください」


「そうか。すまない」


やっぱりギルド長は不甲斐ないと思っているのか、顔を伏せてしまった。


「ここ数日でなにか変わったりした事がありますか? 例えばぁ〜・・・・・・私が来てから品薄になっている商品があるとか些細な変化あったのなら、どうか教えてください」


「些細な変化。どうしてその様な事を聞くんだ?」


「物資の流通が手掛かりになる可能性があるから、聞いているのですよ」


「あ! それでしたら、いくつかありますよ!」


ギルド長ではなく、横にいた秘書らしき人がそう言って帳簿を取り出して開いた。


「小麦、干物などの保存食とワインなどの商品の買取が昨日午前中まで多かったのですが、午後になってから急に不思議なぐらい激減しました」


「もしかして、その激減した数値は例年と照らし合わせたら、例年より多いですか? それとも少ないですか?」


「えっとぉ〜・・・・・・例年に比べて高いぐらいです」


なるほどね。例年より売り上げが高いとなるとぉ・・・・・・。


「反政府軍が今は革命をしている場合じゃないと気が付いたのかもしれないね」


「ああ〜なるほど。その踏まえて考えると、こちらの方が妙に感じますね」


そう言ってペラペラとページをめくり、こちらに見せて来た。


「これは?」


「武器などの売買が書かれたページです。こちらの方も落ち込みましたが、魔石の売買だけが変わりません」


「魔石の売買だけ変わらない? すみませんが例年と比べたら?」


「需要が高いままですね」


色んな品がダウンを見せているのに、これだけが高いのはおかしいとしか思えない。


「お姉様、魔石の流通を調べるつもりですか?」


「うん、そこが糸口になるかもしれないからね。調べてみようと思っているよ」


「う〜ん。本来は個人情報なのですが、今回は特別にお教えしてもよろしいでしょうか?」


「こんな事態だから、仕方ないだろう。彼女達に情報の提示をしてくれ」


ギルド職員は かしこまりました。 と言うと、棚から本を取り出して俺達に見せて来た。


「ここに記載してある通り、ここの商会が無属性の魔石を買い占めているのです」


「無属性の魔石を買い占めている? 属性つきの魔石じゃなくて?」


「はい。我々も最初は自分達で加工出来るから無属性だけを買い占めているのかな? と思っていましたが、その商会が買った量に対して販売をしている魔石の量が少なかったので、私自身も妙に感じていました」


「確か、魔石を掛け合せれば大きくなるので、その分販売量が少なくなったのでは?」


「調べに行った職員も、買い占めている割には小ぶりの魔石ばっか扱っていると言っていました」


う〜ん、そうなると妙に感じるよなぁ。


「そうなると、横領している可能性を感じるけど、無属性の魔石を横領する意味はないよね?」


「はい、ダンジョンで取れた魔石の密輸と横領はたまにある事なのですが、全部属性つきの魔石でした」


「無属性の魔石を持って行ったら、ふざけてるのか? って言われるのが関の山だからな」


そんなに価値がないのか、無属性の魔石。まぁとにかくだ!


「とりあえずその商会に行って、調べてみた方が良さそうですね」


「そうだなぁ。我々は我々で独自に調べるので、アナタはアナタで調べて貰えないか?」


「そうですね。その商会の場所は?」


「王都北側にある魔石商ラモーレと言う小さい商会です」


王都北側にある魔石商ラモーレ。ナビで検索してみると、ちょっと遠いところにあった。


「分かりました。なにか分かったら総合ギルドに来て情報を伝えますね」


「よろしくお願いします」


俺は それでは。 と言ってから、ギルド長室をネネちゃんと共に出て行くのであった。


「さてと、ここからだとちょっと遠いけど、行きますか」


「はい、お姉様!」


二人でそう会話をした後に総合ギルドから出ようとしたのだが、また猪瀬の耳障りな声が聞こえて来たのでそちらの方に顔を向けて見ると、見るに耐えない姿を晒していた。


「ですから、我々の方では情報提供をする事が出来ませんよ」


「なぜ勇者に協力をしないのですかっ!!」


「勇者がどうのこうのと言う話ではなく、アナタは総合ギルドの者ではないので教えられません! これで何回目の説明をさせるのですが」


担当している職員も コイツ、馬鹿なのか? 目で見つめているが猪瀬は気づいているのかどうか分からないが、怒りに身を任せてカウンターを叩く。


「もう一度言います。私達に魔人の情報を教えなさい!」


「規則上お教え出来ません」


「〜〜〜ッ!? この分からず屋ぁっ!!」


「お好きに言ってください」


うわぁ〜、下手なクレーマーよりも厄介な人物な気がする。それに、対応しているあの人も可哀想に思えて来た。仕方ない、助け舟を出そうじゃないか。


「もういい加減諦めたら?」


「アナタはっ!?」


そう言いながらズンズンと俺の目の前までやって来たのと同時に、ネネちゃんは俺の隣で汚物を見る様な目で猪瀬を見つめていた。


「アナタ、魔人についてなにか情報を持ってないのかしら?」


「はぁ? なにを言っているのですか、アナタは? 図々しいにもほどがありますよ」


「なんですってぇ!!」


猪瀬とネネちゃんは睨み合ったので、俺が間に入って止める。主にネネちゃんの為に。


「まぁまぁネネちゃん。落ち着いて落ち着いて、無能にムキになったところで虚しいだけだよ」


「私が無能ですって!?」


「ええ、ギルドでは情報を提示出来ないと言われているのに執拗に聞くのですから、無能以外なんと例えろと?」


「〜〜〜ッ!?」


言い返せなくなると地団駄を踏むところは転生前から変わらねぇな。


「まぁ魔人についての情報が欲しいのでしたら、話しても良いですけど」


「話してくださるのですかぁ!?」


「ええ、有料ですけど」


そう言うと猪瀬に向かって手を差し伸べた。


「お、お金を取るのですか?」


「ええ、銀貨八枚で手を打ちましょう」


「この恥知らずっ!!」


「恥知らず? 恥知らずはアナタの方でしょう」


「私が? 恥知らず?」


そう言いながら俺を睨むので、俺も猪瀬の顔を睨む。


「私はね、取り引きを持ちかけているんですよ。なのにアナタはやれタダで話せだの、勇者がどうのこうのだの言って、無理やり情報を引き出そうとしているのですよ。はたから見れば最低な人間としか思えませんよ」


「わ、分かったわよ! 払えば良いんでしょう! 払えば!!」


彼女はそう言うと、ポケットから財布を取り出して銀貨八枚を俺に渡して来た。


「毎度あり」


「それで、魔人の情報を教えてくれるのよね?」


「ええ、魔人が一昨日私に会いに来て勧誘して来のを断ったら、どこかへと消えて行きました」


「・・・・・・その他には?」


「現在情報収集をしているので、全く情報がありません」


俺がそう言ったら、ポカーンとした顔で俺を見つめている。


「それだけかしら?」


「それだけです」


「どうしてそれだけしかないのですかぁっ!?」


「えっ!? 逆ギレですかぁ!」


ネネちゃんがビックリしてそう言う中、俺は淡々と猪瀬に説明をする。


「いや、だってねぇ。みんな魔人が来た事を知ったのは一昨日だったから、そんなに情報が集まっている訳がないと思いますよ」


昨日の今日で情報を掴めるのは、刑事ドラマしか俺は知らないよ。


「詐欺よ! 渡したお金を返しなさいっ!!」


「詐欺ではありませんよ。私はちゃんと魔人の情報をアナタに話しましたからね。まぁこの経験を教訓として、今後は考えて生きていきなさい」


悔しそうにしている猪瀬を余所に、ネネちゃんを引き連れて総合ギルドを出て行くのであった。

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