第10話
さて、 UH-60 Black Hawk の燃料を補給する為に地上に降りた。ネネちゃんがヘリの周囲をキョロキョロしている。
「どうしたの、ネネちゃん?」
「お姉様をお守りする為に周囲を警戒しているのです」
「あら、ご苦労様」
レーダー上では敵は映ってないから大丈夫なんだけど、まぁ好きにやらせておこうか。
『マスター、燃料の補給を終えました』
「ん、じゃあ行こうか。ネネちゃん! 出発するよぉ!」
「ハァ〜イッ!」
彼女はそう返事をするとヘリに乗り込み、自分でシートベルトを閉めてからヘッドセットを頭につけた。
「準備出来ました、お姉様!」
「あ、うん。使い方覚えたんだね。偉いね」
「はい! 使い方がシンプルだったので、すぐに覚えられました!」
その向かい側に座り、ネネちゃんと同じようにシートベルトを閉めるが、ヘッドセットは自前のヤツをつける。
「出発させて!」
『了解しました!』
ヒューマノイドはそう返事をすると、エンジンを始動させてヘリを空へと飛ばした。
「お姉様見えますか? 海を挟んだ向こう側が別大陸です」
「別大陸?」
彼女が指をさす方向を見るが、どう見ても海じゃなく大河と言えるような川が流れていた。
「川にしか思えてないんだけど」
「そう見えますが、あそこに流れているのは海水で両側どっちを辿っても海にたどり着くのでれっきとした海です」
「えっ!? ウソッ! あの部分を人工的に掘って作ったんじゃないの?」
「そんな事をしておりません。自然が作り出した運河なのです」
へぇ〜、だから一番距離が短いところにあるのか。
「それとここは貿易拠点でもあり、お互い大陸の防衛線でもあるんです」
「防衛線?」
「はい。互いの大陸が近いので、攻め込もうとしたらすぐに出来ちゃうんですよ」
ああ〜、そうだよな。見た感じだけど運河の幅は200mあるかないかだから、下手したら船を撃沈させる前に上陸されてしまうだろうな。
「だから、お互いに貿易をしつつ警戒をしあっているんですよ!」
まぁ国を守る為なのだから、警戒しあうのは仕方ないだろうな。
天然運河を抜けると小さな集落と馬車がチラホラ見えたが、話題にもならなかったので、またネネちゃんと会話を楽しんでいたら、今度はヒューマノイドから通信が来た。
『マスター。11時方向に見える村から煙り上がっているのが見えますが、どうしますか?』
「煙り? ちょっと待って確認する!」
ヒューマノイドに言っていた方向に見てみると、煙りが上がっているどころか民家が燃えていた。
「火事?」
「いいえお姉様。あそこで人が襲われています!」
ネネちゃんが指し示す方向に顔を向けると、なんと村人らしき人達がゴブリンとオーク達に屋敷の手前まで追い詰められているではないか。
「これはヤバイ状況だね」
「助けに行きましょう!」
「そうだね」
とは言ったもののどうしようか? 今から降りて戦うとなると時間のロスになるし、更に言えばゴブリンとオーク合わせて30匹ぐらいいるぞ。
正面から行ったら囲まれるに決まっている。
「このヘリの武装は25mmチェーンガンしか積んでなかったっけ?」
『はい。いいえマスター。このヘリは武装しておりません』
クソォ・・・・・・せめてGAU-19Bを積んでおくんだった。
「仕方ない。先ずはこれで牽制しようか」
そう言って武器庫からELCANを乗せた ネゲヴ NG7SF を取り出し、ベルトリンクに繋がった弾を込めてから、コッキングする。
「ん? このエルカンもしかして、倍率変えられるのかな?」
そう思って側面のハンドルを回してみたら変わったので、三倍に合わせておく。
「ネネちゃん。安全の為にベルトつけておいて。絶対に取っちゃダメだよ。ヘリをさっきのところに戻して頂戴」
『了解』
ヘリがUターンしている間に、腰のベルトにハーネス通してフックを使ってヘリの手摺りと繋げてから、足を外に出す感じで床へ座る。
「作戦は、モンスターを真上から撃ち下ろしてある程度数を減らしたら、地上に降りて残ったモンスター達殲滅させる。私は左翼方面から狙っているから。把握しておいて」
『了解ですマスター』
「ネネちゃんは、降りた時に頼るからね!」
「了解です! 任せてください!」
村人達に当てない様に気をつけないと。
『そろそろ到着します』
「了解! 位置取りはそっちに任せる」
『了解です』
通り過ぎた屋敷に戻ってくると、先ほどとは違ってオークやゴブリンが武器を使って屋敷のバリケードを壊そうとしていた。
そうはさせないよ。
ネゲヴ NG7SF を構えるとモンスター達に向かってフルオートで撃ち下ろしていくのと同時に、カラカラカラカラッ!? といった音を立てながら薬莢がヘリの床に落ちる音が聴こえてくる。
「お姉様スゴイ!」
ネネちゃんがそう思うのも無理はない。俺が次々とモンスターを撃ち倒して行っているのだから。その中の数匹がヘリに気づいて持っている剣や槍を投げつけて来たが、届くわけもなく地面へと落ちてしまう。
屋敷の周りに高い建物がないから狙うの楽だなぁ。それに相手が建物の裏に回ってもすぐに回り込めるから、改めて航空支援の有り難さが今分かった気がする。
そう思いながらドンドン倒していくと、残った数匹のゴブリンとオーク達は勝てないと悟ったのか、逃げ出し始めた。
「賢明な判断だけど、残念遅かったね」
俺はその逃げるゴブリンとオーク達に照準を合わせて次々に蜂の巣にしていく。
「見える敵はこれぐらいかな? そろそろ降りよう」
『了解。村の入り口にヘリを停めます』
ヘリが降下していく中、 ネゲヴ NG7SF をリロードする。
『・・・・・・ヘリを下ろしました』
「よし! 周囲を警戒しつつ屋敷へ行こう」
「了解です、お姉様!」
俺とネネちゃんはヘリを降りると、周囲に警戒しつつ村の中へ入って行く。そしたら1匹のオークが 死んだ仲間の仇だっ! と言わんばかりに俺達に向かってくるので、 ネゲヴ NG7SF で撃ち殺す。
「グギャッ!?」
ネネちゃんはネネちゃんで投げナイフでこちらに近づいて来るゴブリンを仕留めた。まぁ俺もレーダーで気づいていたんだけどね。
「これだけですか?」
「気配がしないって事はこれだけかもしれない。でも念の為に警戒しつつお屋敷へ向かおう」
「はい、お姉様!」
俺とネネちゃんは警戒しつつ屋敷へ向かうと、誰かがこっちに向かって走って来たので ネゲヴ NG7SF をその人に向かって構える。
「わわわっ!? 待って待って! 俺がモンスターじゃないの分かるだろ?」
「その区別はつくけど、敵か味方か区別がつかないよ」
村人を装った盗賊の可能性がある。と言いたいんだけど、レーダーで分かるからこんな事しなくても良いんだよなぁ。
「あ〜、一応言っておきますけど、私は総合ギルドの冒険科に所属しているエルライナです。こっちの子が私の付き添い人です。アナタが盗賊であれば、捕縛して・・・・・・」
「お、俺は盗賊じゃない! この村の住人だっ!!」
顔を青くして両手を上げて降参ポーズをしている。
「お姉様、ウソは吐いている様子はありません」
「なら、武器を下ろして良さそうだね。ゴメンなさい、恐い思いさせてしまって」
武器を下ろした瞬間、目の前の村人はホッとした様子を見せた。
「ああ良いんだ。アンタらが言ってた事も一理あるからな」
「一応ゴブリンとオーク達は倒しておいたから、安心して良いよ」
「ああ、礼を言うよ。アナタ達がいなかったら俺達は死んでいた。本当に感謝しきれないよ」
そう言うと目に涙を溜めながら俺の手を握っていた姿を、ネネちゃんはムスッとした顔で見ていた。
「それで、気分が害されると思いますが、どうしてモンスターに襲われていたのですか?」
俺がそう聞くと、村人は表情を一変させて怒声にも似た声で説明を始めた。
「聞いてくださいよ! ゴブリンとオークどもが、なんの前ぶれもなく村を襲って来たんです!」
「うんうん。それで?」
「この村を守る為に来たはずの兵士達と領主が一緒になって逃げてしまったんです!」
「・・・・・・はい?」
兵士達と領主が逃げたぁ? それってつまり・・・・・・。
「村人達を見捨てたって事?」
「その通りですぅぅぅ〜〜〜〜〜〜・・・・・・」
彼はそう言いながら泣き崩れてしまったので、その背中を優しくさすってあげたのだった。
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