第8話

その次の日の早朝。


遂にこの時が来たか!


「起きろ新兵ルーキー! 朝が来たぞっ!!」


そう言って襖をタックルで壊しながら、将軍の部屋に突入した! もちろん壊した襖は後で弁償するつもりだ。


「ひいいいいいいいぃぃぃっ!? な、何じゃ! 敵襲かぁぁぁっ!!?」


スッポンポンのまま上体を起こしてこっちを向いてくる将軍に近づき、上から目線で話しかける。


「そのだらしない姿を晒してないで、これに着替えてこい!」


そう言って、タンクトップとズボンを将軍に投げつける。


「き、キサマァッ! いくら女子おなごとは言え、無礼が過ぎるぞ!」


「おいルーキー、私は口答えして良いと言ったか?」


俺がそう言った瞬間、将軍は ヒィッ!? と言って身体を縮み込ませてしまった。


「説明は後でするから、先ずはその服に着替えるんだ! さっさとなっ!!」


「は、はい!」


将軍はそう言うと、その場で立ち上がり手渡した服を着た。


「着替えたな。じゃあ私について来い」


「は、はい」


将軍は逆らえないと思ったのか、素直に俺の後に外までついて来た。


「さて、私がどうしてこんな事をしているのか掻い摘んで説明したいところだが、先ずはそのだらしない姿勢を正せ、気をつけ!」


「は、はいっ!」


将軍はそう返事をすると、背筋をピンと伸ばして手を身体の横につけた。


「よろしい、では説明をしよう。お妃様に今日一日アナタを鍛える様に言われた」


「なぬっ!? 嫁が!?」


「口答えして良いと誰が言った!」


「ゴメンなさい!」


将軍は目に涙を溜めながら、そう言う。


「だからこれからお前を鍛えてやるから覚悟しておけ。それと今日一日私の下に就くのだから、将軍という地位は効かないと思った方がいい」


「そ、そんな」


「それと、返事をする時は イエス・マム! だ。分かったか? 分かったのなら、返事をしろ!」


「い、いえすまむ」


そのやる気のない声を聞いた瞬間、ギロリと将軍の顔を見つめた。


「ハッキリと声を出せ! 産まれたてのガキの方がいい声出すぞ!」


「イエス・マム!」


「声が小さい! もっとハッキリと言え!」


「イエス・マムッ!!」


声が裏返っている気もするが、必死だから良しとしよう。


「いい返事だルーキー! 先ずはストレッチを軽く済ませよう。その後ランニングをするぞ」


「すとれっち? らんにんぐ?」


「口答えをして良いと言ったか?」


「申しわけありません!!」


今度は泣きながら謝って来た。俺の事が相当恐いみたいだ。


「よろしい。言われた通りにやるんだルーキー!」


「イエス・マムッ!」


俺の指示通りに準備体操を終えると、不安そうな顔で俺を見つめて来た。


「よし、準備体操を終えたな」


「イエス・マム!」


「それじゃあランニングに行くぞ! 私に続いて走れ!」


「イエス・マム!」


そう言って走り出した。


おや、意外と素直についてくるな。でも、走り始めでこれじゃあなぁ〜・・・・・・。


「ヒィッ、ヒィッ!? ハヒッ!? フウゥッ!?」


ジョギングぐらいのペースで走り始めてすぐに、汗を垂らしている上に息を切らせていたのでビックリしてしまう。


ホント、運動不足なんだなこの人! でも容赦なくやらして貰う!


「遅いぞルーキー! 姿勢を正して早く走れ!」


「も・・・・・・もう無理!」


「あぁ? 誰が足を止めていいと言った?」


「イエス・マム!!」


彼は姿勢を正して走り出したのだが、また新たな問題が起きた。


「ハヒッ! フ、フヘッ・・・・・・アヘ・・・・・・・・・・・・」


速攻で地面に四つん這いになってしまった。城壁の周りを一周するつもりで、まだ1/3も走っていない。もっと言えば振り返ればスタート地点が見えているぐらい走ってない。


「どうしたルーキー。こんなところでへばってないで立て!」


「ハフッ、ヒフッ・・・・・・もう、無理でふ」


「ほう? 汚ねぇケツを振りながら ブヒィ〜! 僕は情けないダメなブタです!! と大声で叫んでギブアップするか?」


俺がそう言った瞬間、将軍は顔を上げて俺を睨んで来た。そう、そんな事をするなら走り切る! と言わせる為の口述なのだ。


「ブヒィ〜! 僕は情けないダメなブタです!! どうか妾を許してくださぁ〜いっ!!」


マジでやったよこの人。おい、兵士達が見てんだぞ、お前にはプライドの欠片もねぇのかっ!?


これで解放してくれるんだよね? と言いたそうな顔で見つめる将軍の姿を見た俺は、ヒドいを通り越して頭が痛くなって来たのを感じた。

しかも周りにいる兵士は、俺に同情の視線を送ってくれる始末。


「・・・・・・仕方ありませんね」


「許してくれるのか?」


「いいえ、許さんっ!!」


「えっ!?」


四つん這いになって固まっている将軍の後ろに回り込み、ストレージからとある物を出し、それでお尻をぶっ叩いたら、スパァンッ!? という様な音が鳴り響いていた。


「ヒギィィィイイイイイイッ!!?」


将軍は自分のケツを抑えながら、のたうち回った。


「アナタの場合、肉体的な面で鍛えるのではなく、精神的な面から鍛え直した方が良さそうですね」


取り出したムチで自分の肩をトントン叩きながら語ると、将軍は真っ青な顔をさせながら俺から這いずって離れようとする。

しかし、逃さぬ様にその後を追って壁へと追い詰める。


「さて、ランニングの続きをしましょうか。子豚ちゃん」


顔をニッコリさせてそう言うと、将軍は ヒ、ヒィィィッ!? と言いながら、四つん這いで走り始めた! なので素早く追いつき、そのお尻にスパァンッ!? とムチを入れた。


「ブヒィィィイイイイイイッ!?」


お尻を抑えてのたうち回る将軍に対して、今度は肩にムチを乗せて語る。


「早く城壁を一周しないと、その汚いお尻を叩いちゃいますよ。こんな風に!」


スパァンッ!? という音と共に、 ブヒィィィイイイイイイ!? と言う叫び声が響く。


「そのお尻が柔らかいステーキの様になりたくなかったのなら、私より早く走りなさい。でないとこんなふうに叩かれるから!」


またスパァンッ!? という音を立てると、今度は ヒギィィィイイイイイイッ!? と叫んで走り出した。


よし、上手くいった! と思いながら将軍を追いかけ回してランニングをさせるが、ここで止めていれば良かったかも。と思う事態になるとは・・・・・・。


「良くできました。ランニングが出来るなんて、大したブタね」


「ぶっ、ブヒィ!」


「じゃあ次はその脂ぎった身体を鍛えてましょうか。先ずは肩幅に足を開きなさい」


「ブヒッ!!」


ん? なんか様子がおかしいぞ。なんで嬉しそうな顔をさせているんだ? ま、まぁいっか。


「そして両手を頭の後ろで組んで、中腰になってちょうだい」


「ブヒッ!!」


俺の言う通りの姿勢になった途端、膝がプルプルと震え出した。早くねぇ!?


「その状態を一分キープしなさい。でないと、これで叩く上に最初っからやり直し」


そう言ってからムチで地面を叩くと、将軍は身体をビクッとさせた後に物欲しそうな顔で俺を見つめて来た。


「一回で終わらせてくれれば、私としては有り難いんだけどねぇ〜」


「ブヒィィィイイイイイイッ!! ご主人様の為にも頑張りますぅぅぅっ!?」


ご主人? どういう事?


「おお〜っ!? 我の旦那が逃げずに訓練を受けとるとは、さすがエルライナ殿じゃぁ〜!」


疑問に思っていたら、お妃様が感心した顔で俺に近づいて来た。


「ありがとうございます」


てか、この人訓練逃げていたのかよ!


「日頃から女子おなごを追いかけ回す事しか考えておらん、馬鹿旦那じゃったから、この姿を見れるとは・・・・・・ウゥッ!? 涙で前が見えぬ」


泣くほどの事なのっ!?


「お妃様、そのお気持ちは分かります。あの旦那がこうやって訓練する姿を久々に・・・・・・グスッ!」


ついて来た影のお姉さんも泣くほどかよ!


「ま、まだですか、ご主人様ぁ〜!」


「え、あっ!」


そういえば、時間を測ってなかったな。


「ゴメンなさい。時間を測るの忘れてた! もう良いよ」


「・・・・・・違う」


「「「え?」」」


何が違うんだ?


「もっと妾を蔑んだ目で、命令して欲しいんじゃっ!! そのダメであったのならそのムチで叩いて欲しいのじゃ!

早く妾に命令するのじゃああああああっっっ!!?」


そう言って地べたに寝転がり駄々をこね始めた。


「えっ? えぇ〜・・・・・・」


「お、お止めください! 将軍様!」


戸惑っているお妃様と、止めようとしている影のお姉さんを後目に、俺はある結論に至る。


「将軍様はもしかして、どM?」


俺がそう言った瞬間、二人は頭から液体窒素を頭からぶっかけられたかの様に動きを止めた。


「今、なんと申した?」


「将軍様はどMです」


「そうじゃ、妾はどMじゃぁぁぁああああああっ!!?」


いや、宣言するなよ恥ずかしいっ!!


お妃様と影のお姉さんは心当たりがあったらしく、二人共頭を抱えていた。その後、調教方式で将軍を鍛えたおかげで、お腹周りがスッキリしたそうだ。後、もうこの人と関わりたくないっ!!

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