第37話

大野の治療をした俺と伊織ちゃんは、縛るのを大輝くん達に任せて一休みをした。

敵を目の前にして休憩を取るのは良くないと思っているのだが、戦闘した上に治療までやったんだから休憩しても良いと思う。だって目の前にいる大野は気絶しているし、もう抵抗出来そうにないしね。


「事情聴取をしたいから、意識戻ってくれれば良いんだけどなぁ〜・・・・・・」


「ん・・・・・・同感」


「ん? エルライナさん、彼が起きそうです!」


「わかった。そっちの行く」


美羽さんにそう返事をしてから、ホルスターに入れている JERICHO941 PSL を引き抜きながら大野に近く。


「うぅ〜・・・・・・あ、あぁぁぁああああああ・・・・・・」


身体をよじらせながら唸っている姿を見て、 頼むから起きてくれ。 と願いつつ見守る。


「あ・・・・・・ここは?」


身体のダメージが大きのか、声が擦れている。


「私達と戦った事を覚えてないの?」


俺がそう言った瞬間、大野は思い出したのか目を見開き俺を見つめて来た。


「そう、だ。俺は!」


彼は唸り声を上げながら暴れ出したが、身体のダメージ大きいのと拘束されているせいで、もがくような動きしか出来ていない。


「クソッ!? クソッ!? なんで動けねぇんだよ! ゲホッ!? ゴホッ! ゴホッ!」


コイツが感情的になる姿を初めて見た。そんな事よりも事情聴取をしないと。


「悪いけどさ、私達を殺したところで、なんの意味もないと思うよ」


「あぁっ?」


俺を睨んでくるが恐いとは思わない。だって、コイツはもうなにも出来ないってのが分かっているし。


「だってもうアナタは魔人達にとって用済みだから、私達を殺したところでねぇ〜」


ヤツらをって来たぞ! と言う大野に対して、 ふ〜ん、そうなんだぁ。ご苦労。 そして殺されるってオチが見え見えだ。


「うるせぇっ!! 殺してやる! テメェらをぜってぇに殺してやるぅっ!!」


大野ってここまで馬鹿だったのか?


「これじゃあ、聞きたい事も聞けそうにないね。一旦頭を冷やして貰ってから改めて話を聞く形にしようか?」


そっちの方が聞き出しやすいと思う。


「〜〜〜ッ!? どうしてこうなっちまったんだよ・・・・・・ゴホッ!? ゴホッ!? 俺は戦う事なんて、やりたくねぇのによぉ。アイツら勇者とか・・・・・・言って、戦闘訓練をさせやがって」


この人、ブツクサなにか言い始めたよ。


「やりたくないなら、勇者をやりません。って言えば良かったんじゃないの?」


「えっ!? 大輝くん、勇者辞める事出来るの?」


「出来ますよ」


それは驚きだ。ん? ちょっと待てよ。俺はこっちの世界に来る時に、そんな事を言われなかったぞ。もしかして、俺の時は死亡判定だったから断れなかったのか?


「この世界に来る前に、呼んだ本人に断れば元の世界に帰る事が出来ます。もちろん帰る際は、女神様から貰った能力を返してからですけど」


へぇ〜、そうなんだぁ。って関している場合じゃない!


「それを踏まえて聞くけど、どうして断らなかったの?」


「俺だって! この世界で勇者って地位を貰えるなら、人生の勝ち組だと思ったからだっ!」


「・・・・・・はぁ?」


なにを言ってのこの人は? 意味が分からないんだけどぉ・・・・・・。


俺は この人が、なにを言ってるのか分かる? と言いたそうな顔で大輝くん達やオウカさん、それにユウゼンさんの顔を見るが、みんなも同じ顔をして俺を見つめていた。


「ゴメンなさい。私を含めたここにいる人達はアナタが一体なにを言ってるのか、さっぱり分からないんだ。

だから教えてくれない?」


「勇者になれば、いろんなヤツから・・・・・・チヤホヤされて、楽しく生きられるだろうと思った。だけど現実は、違った。毎日訓練と・・・・・・実戦ばかりさせられた」


魔人と戦うんだから、毎日訓練とかやるのは当たり前だろうが! 言いたくなる気持ちをグッと堪えた。


「楽しみと言えば、週一の休みの日ぐらいだった」


「一日休みあるなら充分じゃない?」


うん、オウカさんはブラック企業で働いていたもんね。


「それに訓練は陽が登っている時だけだから、夜はたっぷり自由時間があったはずですよ?」


「そうなんですか?」


ユウゼンさんにそう言ったら、コクリッと首を縦に振った。


「それが普通ですよ」


どうやらこの世界では、夜間訓練がないみたいだ。羨ましい、俺なんて師匠に・・・・・・いや、思い出したくない。


「結局、自分が想像していたよりもチヤホヤされなかったら、勇者を辞めて敵に寝返ったって事?」


「それだけじゃねぇよっ!!」


「それだけじゃない?」


いきなり声を上げたから、ビックリした。


「なにか問題があれば俺のところに来て、ゲホッ!? なんとかしてください。だの・・・・・・どう言う教育をしてるんですか? 言いやがって! ・・・・・・俺じゃなく本人達に伝えやがれってんだ」


「なにかあれば? もしかして、アナタの教え子がなにかやってたんですか?」


俺がそう聞くが、クックックッ・・・・・・。と笑うばかりで、なにも言ってくれない。


「俺も、アイツのようになりたかった」


「アイツ?」


「ああ、行方不明になった倉本にな」


ここで俺の名前が出てくるとは思っても見なかったので、ビクッと反応してしまった。


「アイツはどこに行ったのか分からないが・・・・・・アイツのようにバカ共から離れたかったぁ。あ、あぁ・・・・・・」


彼はそう言い切ると、瞳を閉じて力なく畳に寝そべってしまう。


死んだのか? そう思いながら首筋に指を二本当てて確認する。


「・・・・・・エルライナ」


「・・・・・・大丈夫だよ伊織ちゃん。気を失っただけみたい。オウカさん、後は頼みます」


「分かったわ」


オウカさんは手を影の人達を呼ぶ為に叩いた。


「呼びましたか、オウカ様」


「この者を牢に運んで、後治療の方もしなさい。敵だけど重要参考人よ。警備も厳重にね」


「御意!」


その後に他の影の人達も来て、彼を運び出した。


「さて、トウガさん達の方を手伝いに・・・・・・」


「心配には及びません」


「うわぁっ!?」


影の人が後ろから話し掛けて来たから、思わずビックリしてしまった。


「トウガ様率いる兵士達が、先ほど魔物達を倒したと報告されました」


「あ、そうなんですか」


良かった、良かった。


「それにトウガ様もこちらに向かって来ておりますので、ここで待たれた方が良いかと思われます」


「そう仰るのでしたら、そうします」


「では、仕事に戻ります」


礼をした後にフッと消えた。


「忍者だぁぁぁああああああっ!? 本物の忍者だぁぁぁああああああああああああっっっ!!?」


「大輝・・・・・・うるさい」


そんなに力があり余っているのなら、兵士達のところに行って後片づけを手伝に行って。って言おうかな?


「・・・・・・カッコイイ」


美羽さんは美羽さんで、目を輝かせていた。もしかして、あの有名な忍者アニメのファンなのか?


そんな事を思っていたら、オウカさんが俺の肩に手を置いた。


「それはそうと、みんなお疲れ様。アナタ方のおかげで城が守られました。感謝いたします」


「いえ、私達は勇者として当然の事をしたまでです」


美羽さんは誇らしげに言うが伊織ちゃんがドヤ顔をしていて、大輝くんに至っては頭の後ろを手で掻いて照れている。


「それと、エルライナさんもありがとうね」


「乗り掛かった船で・・・・・・」


「あ、言い間違えたわ。ありがとう、 “ハルト・クラモト くん”」


「・・・・・・え?」


なんでその名前が出るんだ? いや、まさかな。


「なにを言っているんですか、オウカさん。私はそのぉ、ハルトくんって名前じゃないですよ」


「そうですよ! そのハルトって人はたしか男でしたよね? エルライナさんは女性ですよ!」


大輝くんがそう言うが、美羽さんと伊織ちゃんが俺の事をじっと見つめていた。


「そうかしら? その子の特徴はね、軍用格闘技とムエタイが得意で、ミリタリーものが大好きな子だったらしいの。

その特徴が彼女に当てはまらない?」


オウカさんがそう語ると、自然と背中から冷や汗が出て来た。


「でも、エルライナさんは・・・・・・」


「それに昨日の会話がヒントの一つよ」


「昨日の会話?」


どっかに身バレするような事を言ったか?


「ええ、モトヒサさんの情報を語った時に、エルライナさんは最初名前を気にしてなかったでしょう。

私が彼女の立場だったら、最初か早い段階で行方不明になった人の名前を聞くわ」


「あっ!?」


彼は気づいたような顔をして美羽さん達を見つめる。


「ゴメンね大輝、 オウカさんに最初に名前を出さないから、気にしないでって 言われていたの」


「ん・・・・・・大輝は演技下手だから」


大輝くんは傷ついたのか、部屋の角で体育座りして落ち込んでいた。その背中をユウゼンさんが手で摩りながら慰めている。


「それにアナタは、モトヒサさんがハルトさんの名前を出した時に無意識に反応していたわよね。無関係なら反応するわけないでしょ?

それに前世では男だった。って言ってたじゃない。他にも証拠があるわよ」


サスペンスドラマで言うところの、犯人を追い込んだ感じの目で見つめられてる状態になってしまった。


「・・・・・・ハァ〜。誤魔化せないかぁ」


俺は将棋で言うところの詰みを、オウカさんから言われているのを悟った。


「降参ですオウカさん。私、いや・・・・・・俺が倉本 春人です」


俺はみんなに正直に伝えた。でも、なにか分からないけどスッキリした気分もしていた。

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