第17話

「お・・・・・・おぉっ!?」


俺は今、目の前の光景に驚いている。なぜなの? って。それはミュリーナさんの髪と身体を洗ってあげたついでにスキンケアもしてあげたら、見違えるほど変わっていたからだ!


「これが・・・・・・私なの?」


ミュリーナが鏡に映る自分の姿を見て、信じられない様な顔でそう言う。


自分ツルツルプルプルの肌に、手ぐしをしても全く突っかからない滑らかな髪。まさに女性の理想像がここにある!!


「って、どれだけ肌の手入れをしてなかったんですかミュリーナさん!!」


「ちゃっ、ちゃんと手入れしていたわっ!! 絶対にエルエルの使ってる洗剤の効力がスゴいのよ!!」


「ホントにぃ〜?」


「石鹸と洗剤の木の実なら知っているし使った事があるけれど、液体の洗剤なんて初めて見たわよ」


日用雑貨品を買いに行くのがめんどくさいので、全部ストアの方で済ませている。それにヤバい! また地雷踏んだかも!


「わ、私のいたところでは、液体状の洗剤が普通に売ってからぁ〜・・・・・・そ、そっかぁ〜。ここでは売ってないのかぁ〜・・・・・・うん」


「フ〜ン、そうなの。でもなんか怪しいわねぇ」


わ、わざとらしい反応だったかな?


「まぁいいわ。あまりエイミー達を待たせると心配してこっちに来ちゃうから、お風呂から出ましょうか」


「 そっ、そうですね!」


良かった。これ以上話したらボロが出ていたかもしれない。


シャワーを浴びたのが無駄と思えるぐらいに汗をかいてしまったのを少し気にしながら、ミュリーナさんの後ろをついて行く様にして脱衣所から出る。

リビングに着くとイスに座ってお喋りしていたリズリナさんとエイミーさんが俺達の足音に気づいたのか、こっちに顔を向けてくる。


「おかえり! お二人共遅かったね」


「ええ、盛り上がっちゃってついね。それよりも見てこの髪と肌を!」


ミュリーナさんはそう言って二人に近づいて行くと、見せつける様にスタイリストさんがよく撮るポーズをする。


「えっ!? なにこれ? 髪にツヤがあってサラサラしているわっ!!」


「それにお肌がツヤツヤプルプルです! ミュリーナさん、その羨ましい髪と肌を一体どうやって手に入れたんですか?」


「そうよ! さっきまでこんなにキレイじゃなかったのに!」


「ウッフッフッフッフッフッ・・・・・・」


口に手を当てて笑っているミュリーナさんの姿を見た瞬間に、 あ、なんだろう。なんかやな予感がして来た。 と思ってしまう。


「この髪と肌を手に入れられたおかげなのはそう! エルエルのおかげ!」


「エルちゃんのっ!?」


「エルライナちゃんのっ!?」


エイミーさんとリズリナさんの二人はこっちに顔を向ける。しかもその顔が恐かったので、身体がビクッと反応してしまった。


「エルエルが持ってきた洗剤のおかげで、私はこんなに美しくなれましたぁ〜! ねぇどう? 私の髪と肌羨ましいぐらいに美しいでしょ?」


ミュリーナさんはそう言うと、その場でクルクルと回り出す。その様子を見ていたエイミーさんとリズリナさんはムカついたのか、力いっぱい拳を握りしめていた。


ミュリーナさん、もう見せつけるのは止めて! 二人の怒りがそのまま俺にくるからぁぁぁああああああああああああっっっ!!!?


「・・・・・・ねぇエルライナちゃん」


「は、はいっ!?」


「その洗剤ってあるの?」


「は、はい! ありますよ!」


こ、恐い! エイミーさんの顔がメチャクチャ恐いよぉ〜・・・・・・。


「どこにあるの! エルちゃんっ!!」


今度はリズリナさんが俺の両肩をガシッと掴むと、鼻先が当たりそうになるぐらいに顔を近づけてくる。



「お、お風呂場に、置いてあります・・・・・・・・・・・・よ」


なぜだ? なぜ女性はこんなにも美意識が高いのだ? 俺が美意識が低いだけなのかもしれない・・・・・・いや、やっぱ違うかも!


「使って良い?」


「良いですよっ!!」


ここで拒否したりすると、なにが起こるか分かったもんじゃない。なので、俺が愛用している洗剤を使って貰った上で納得して貰おう。


「ありがとう! 私の親友エルちゃん!」


いつのまにか、友達から親友に昇格している。


「一応言っておきますが、洗剤は頭にかけてはダメですよ。最初は洗剤を手のひらに落としてから、手で揉んで・・・・・・あ! その前に容器の使い方をおs」


「分からないから一緒に来てちょうだいっ!!」


エイミーさんはそう言うと、俺の腕を掴んでお風呂場へ引きずって行く。


「えっ!? ちょっ! 待って待って! エイミーさん? 私さっきお風呂から出て来たばかりですよっ!!

エイミーさん?」


「私ここで待っているからね。行ってらっしゃぁ〜い」


いつのまにかイスに腰掛けていたミュリーナさんが、軽く手を振って見送っていた。


おいっ!? こうなった元凶がなにを言ってるんだよぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!?


その後、洗剤の使い方と髪の正しい洗い方をエイミーさん達に教えた。その掛かった時間は一時間ぐらい。


「ハァ〜・・・・・・疲れた」


あまり疲れのせいなのか、リビングに戻ってくると机に突っ伏してしまった。それもその筈、リズリナさんは洗剤の泡立ちの良さに、その作った泡で子供のように遊び始めて、エイミーさんに至ってはミュリーナさんの様になりたい思いからか、シャンプーの液をドバドバ出していた。

二人に怒って止めさせたよ。洗剤も買わなきゃいけない日用雑貨だからさ。


「ミュリーナ、見て見てぇ〜!!」


「私達もステキな髪と肌になりましたよぉ〜!!」


「おお〜っ!! 二人とも見違えるぐらいにキレイになったねぇ〜!!」


三人はお互いの肌や髪を触り合って楽しんでいる。微笑ましい様子なのだけれども、疑問を感じるところがある。

いくら地球の技術が良くても、一回使ってすぐに効果が出るものなのか? 髪はともかく、肌になれば一回二回どころか、一週間使い続けてやっと効果が現れるのが普通の気がする。

なんかイヤな予感がして来たから、あとでボトルに書いてある説明文を読んでおこう。


「さてと、リズリナさん達の髪と肌も艶やかになった事だし、総合ギルドに行きますか」


「あら、もしかして昇格の話かしら?」


「知ってるんですか?」


俺の言葉を聞いたエイミーさんは、可笑しそうに クスクスッ と笑った。


「それはだってバルデック 公爵様から話を聞いたのだから、知っているに決まっているでしょう」


あの人エイミーさん達に話したんだ。


「それに試験を終わった後にあのモンスターを倒したんだから、昇格しない方がおかしいよ」


ああ、Dランク昇格試験で出て来たバケモノの事ね。


「まぁどんな話をするのか分からないけど、総合ギルドに行かなきゃいけないからね。皆さん帰り支度をしてください」


「「「はぁ〜い!」」」


あれ? みんな素直に言うことを聞くなぁ。


そう思いながら三人が荷物をバックの中に詰める姿を見つめていたら、すぐに荷づくりが終わった。


「みんな荷づくり早くない?」


「だって一日だけのお泊りなんだから、そんなに荷物を来てなんてないわよ」


それもそうか。二泊三日の旅行ならともかく、一日だけなら荷物はそんなにないか。


「さてと、二人共準備は出来た?」


「こっちはOKよ」


「こっちも大丈夫です」


ミュリーナさんは二人の返事を聞いて、 うんうん。 と頷く。


「じゃあ私はお母さんにカギを返しにエルエルと一緒に行くから、家を出たらその場解散ね」


「はぁーい」


「そうね」


ちょいちょいちょいと待て! 今聞き捨てならない言葉を聞いたぞ!!


「・・・・・・ミュリーナさん?」


「ん、なに?」


「カギをお母さんに返しに行く。 ってどういう事ですか?」


「この家のカギをお母さんが持っているの。知らなかったの?」


知らなかったじゃなく、その話は初耳なんですけどぉぉぉおおおおおおおおおおおおっっっ!!?


「なんでラミュールさんがウチのカギを持ってるのっ!?」


「さぁ? 知らないから、お母さんに聞いてみて」


聞かなくても理由がなんとなく分かる。絶対にバルデック公爵様達が関係している!


「それよりも、早くしないとお昼になっちゃうから、もうここを出ましょうか。戸締りはリズリナ達がお風呂に入っている間に、私がやっておいたから大丈夫よ」


「あ、はい。わざわざありがとうございます」


「大した事じゃないから、気にしないで」


ミュリーナさんに手を引かれながら家の外へと出るのだけれども、俺は 絶対にラミュールさんに問い詰めよう! と心に決めるのであった。

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