第13話

迷宮の外に出るとエイドさんは周囲を見回しながら大声を上げる。


「誰か! 誰か来てくれっ!! 重傷者がいるんだ!!」


「エイド教官・・・・・・自分のことは自分で出来るのでエイド教官は兵士に化け物の報告をして下さい」


「何を言ってるんだ! 血を流し過ぎてフラフラしてるじゃないかっ!!」


「ここは安全です。それに俺はフラフラでも歩けるので安心して下さい」


「・・・・・・しかし、お前を放っては置けない」


マズイなぁ、このままじゃ話しが平行線のままで何も進まない。俺が誰かを呼びに行くか。


「おい、そいつ重症じゃないかっ!? 一体何があったんだ?」


「兵士、来てくれたのか!?」


「重傷者がいるんだっ!! って叫んでいればようすを見に来る。で、本当に一体何があったんだ?」


「強い化け物に襲われて左腕をやられたんだ。サイクロプスに似ているが全く違う。別の化け物と言っていい。

しかも、三階にいるから早く対処しないとマズイことになるかもしれない。今すぐ緊急事態宣言を出して防衛網を敷いた方がいい」


「本当ですか? でも、先ずは我々で調査団を結成してようすを見てから・・・・・・」


「そんな悠長なことを場合じゃないっ!! そんじょそこらの人をかき集めて戦わせればなんとかなるような相手じゃねぇんだっ!! さっさと言われた通りにしやがれっ!!?」


「は、はいっ!?」


兵士さんはビビリながらそう言うと小屋に向かって走って行く。


「ほら、ボサッとしてないで行くぞ!」


「「は、はい!」」


「エルライナ、お前も迷宮を向いてないで着いてこい」


いや、俺は迷宮の入り口を警戒していたから後ろ向いていただけで。って言い返したら争いなりそうだから止めておこう。


「はい」


エイドさん達の方を向くとドーラさんに近づいてから右腕を掴むと肩で担ぐ。その行動を見ていた三人は少し驚いていた。


「ちょっ! アンタ、なにしてんの!?」


「エイド教官は先に行って兵士さん達に話しをして下さい。私は彼を連れて後から追いますから」


「分かった。先に行ってる」


エイドさんはそう言うと小屋の方に走って行ってしまう。


「ミハルちゃんも先に行って良いよ」


「な、なに言ってるのよ! アンタ達が心配だから、ミハルがついてってあげるわよ!」


ミハルちゃん・・・・・・もしかしてツンデレ? まぁいいや。


「そう? ならドーラさんが負担が掛からないように、ゆっくり進むから急かさないでね」


「う、うん・・・・・・分かったわよ」


「それじゃあ歩きましょう。ドーラさん、歩きますよ」


「ああ分かった」


ドーラさんのペースに合わせてゆっくり歩き始めたのだが、ドーラさんがなぜか泣いていた。


「ちょっ! アンタ何で泣いてるのよっ!!」


「ミハルちゃん、聞いちゃダメだよ。ドーラさんが一番ツラい思いしてるんだから、そっとしておいてあげようよ」


「えっ!? そ、そうなの?」


そうなの? っておい! 気遣いが出来ない子だねっ!!


「うぅ・・・・・・すまない。俺のアイツに勝てると思って挑んだせいで、 アイシャ 、ガルフ 、本当にすまねぇ。お前達を死なせてしまった・・・・・・クゥッ!?」


「ドーラさんはもしかして、パーティーリーダーだったんですか?」


「ああ、俺はパーティーリーダーだったんだ。なのに・・・・・・なのに俺はっ! あの化け物に勝てると思ってしまって・・・・・・」


なるほど、三階のモンスターで一体だけだったから三人で力を合わせて戦えば勝てると思ったんだけれども、全く歯がたたなかったと言う感じなんだろう。


「俺の剣でアイツを切ることが出来たんだ。 手応えありっ!! とも思ったさっ! でも、アイツの肉体が堅いせいで浅くしか切れなかったんだ」


あの化け物は防御力が高いってわけか。どうやってダメージを与えるか考えないとダメだな。


「その後、あの化け物に左腕を掴まれて潰されたあげく・・・・・・このザマさ」


腕を潰すほどの握力となると接近戦で挑まない方がいいな。


「あの、その・・・・・・もう少し、私達が早く来ていれば・・・・・・」


「いや、お前達とパーティーを組んだわけじゃないから気にする事じゃない」


「でも」


「それに今は俺の仲間を殺した化け物をなんとかする方法を考えないといけないだろう?」


「・・・・・・そうですね」


「お嬢ちゃんには俺の分も頑張って欲しいんだ! 俺の代わりに仇を討って欲しいんだ! だから、頼む俺の分も頑張ってくれっ!!」


「ドーラさん・・・・・・分かりました。やれることは全てやってみます」


「歯切れの悪い返事だが期待させてもらうぜ」


それはそうだよ。絶対倒してみせますっ!! って言えるほど自信がないもん! だってショットガンの弾を喰らってもピンピンしていた敵だから普通のやり方で倒せないって!! いっその事、 RPG-7 でも撃ち込んで吹き飛ばしてやろうかな?


「・・・・・・ん? 小屋からエイドさんの声が聞こえて来ますね」


「ねぇ、ミハルの間違えじゃなきゃ・・・・・・エイド教官、怒ってる?」


「ああ、怒鳴ってるから間違えないな。説明するだけなのに怒鳴る必要があるのか?」


「う〜〜〜ん・・・・・・二人共もう少しで着くので、ってあれ?」


小屋の扉が開いたよ。あれ? 体格の良い兵士さんが一緒に出て来たけどぉ〜、なんか険悪なムード全開だぞ。小屋の中で一体なにがあったんだ?


「エイドさん!」


「エルライナ! この石頭に説明してやってくれっ! あの化け物がどんだけ危険なのかって!!」


石頭って、兵士さんにそう言ったらエイド教官捕まらないの?


「ええっとぉ〜・・・・・・すみませんが、もしかしてアナタがここの責任者ですか?」


「ああそうだ。迷宮管理担当の アグス・デノール 隊長だ。で、キミがエイドの言う エルライナさんだな。噂通りの人だな」


噂通りの人? まぁそれは置いといて。


「はい、間違いないです。失礼と思いますがエイド教官と一体なにを話していたんですか?」


「ああ、キミはここに居なかったから話し合いを聞いてなかったんだな。

そうだなぁ・・・・・・短く説明すると、彼はここに居る住人を非難させてから防衛網を敷いてから、迷宮に出た化け物の討伐隊を結成させて向かわせよう。と言う提案をしていた」


「・・・・・・はい?」


「しかし我々は国の規定に則って偵察隊を結成させて向かわせて、その化け物を確認してからどう対策するのか考えると私が決めたのだ。

だからその準備をしようとしているのだが、彼が止めてくるのだよ」


偵察隊って、マジでそんなことしている場合じゃないって!!


そう言いたい気持ちを抑えつつ、隊長を見つめながら話し始める。


「その偵察隊って何人で行く予定ですか?」


「ん? 四十人ぐらいで行くつもりだ」


四十人って偵察隊の規模を超えている気がするぞ・・・・・・まさかっ!?


「もしかして、可能なら討伐しようとしていますか?」


「ああそうだ」


俺は確信した! この団長は偵察しに行くつもりが全くないっ!! あの化け物を倒しに行こうとしているっ!!


「隊長さん! 偵察なら五〜六人ぐらいで充分だと思いますよ! それにこの村の安全の為にも危険な化け物が近づいていることをみんなに知らせないと!」


「えぇい、お前もエイドと同じことを言うのか! Eランクの癖に生意気なっ!!」


おいおいおいおい、態度まで変わったぞこの人。


「私だって軍人の端くれだったので、なにをやるべきか分かってるから言ってるんです! 先ずはここにいる人達の安全を確保してから、偵察隊や討伐隊を組むのが普通の考えですよ!

それに、アナタ役目はここで暮らしている人達の安全を守る為にいるのでしょう? 違いますか?」


「その通りだから、化け物を見に行くのだろう?」


ダメだ! この人は話しを聞いてくれないっ!!


「それによ、四十人って言ったらここを守っている兵士のほとんどを連れて行く事になるんだぞ。地上の警備の方はどうするんだ?」


「えぇいっ! だから偵察隊を組んで倒しに向かうんだ!!」


偵察隊なのに倒すって言っちゃってるよ。ダメだこの人、説得出来そうにない。


「時間も余りないから行かして貰うぞ! ダレン、そこの負傷者の手当てを頼む!」


「ハッ!」


隊長さんは近くにいる兵士さんにそう言うと、村の方へと歩き出す。


「あっ! ちょっ、待ちなさいよっ!?」


「ストップ! ミハルちゃんっ!!」


「なによ! アンタ、アイツをほったらかしてて良いの?」


「本当はよくないけどぉ、このまま話を続けてても時間の無駄だからさ。

あの人を説得するのは止めておこう」


「・・・・・・そうだな。エルライナの言う通りだな。しかしお前って軍人だったのか?」


「正確には軍人になる前に色々あってなれなかったんです。でも、私に戦い方を教えてくれた師匠は軍人だったので自分には軍人の精神はあると思ってます」


「そうか」


「それよりも、どうしてこんな事になったんですか?」


エイド教官なら総合ギルドで働いている人だから大丈夫だと思っていたんだけれども。


「ああ、俺はありのままのことを話した後にな、さっき俺が話していた通りに住人を避難させてからここの守りを堅めようと提案したのだが却下されちまったんだ」


「却下? エイド教官! あんな化け物に兵士が二十人で挑んで勝てるわけがないですよっ!?

俺の仲間達が一撃で殺されたんですよ! たったの一撃で!!」


「落ち着けドーラ、俺に怒ったってなにも変わらない」


「ッ!? ・・・・・・すみませんエイド教官」


まぁあの化け物の実力を目の当たりにしたからそう言えるんだけれども、実力を見てないあの隊長は・・・・・・ん? 待てよ。


「どうしてあの隊長は偵察隊と言って化け物を倒しに行こうとするんだろう?」


「自分達なら倒せると思ってるからじゃないの?」


「う〜ん、それなら偵察隊じゃなくて討伐隊を形勢して。とか言ってるはずだと思う」


自分に利があるから倒そうとするんだよな?


「もしかしたらアグス隊長はその化け物を倒せたら出世が出来ると考えてるんですよ。本当に愚かな考えです」


「えっとぉ、ダレンさんでしたよね?」


「はい、そうです」


「もしかして隊長さんが化け物を倒そうとする理由が分かるんですか?」


「ええ、分かります」


「良かったら話していただけませんか?」


「良いですよ。その前に先にこの方を治療したいので、あの小屋へと運んでいただけないでしょうか?」


「あ、はい! ドーラさん、行きましょう」


「お、おう!」


いけない。怪我人を放ったらかしにしたまま話しを始めるところだった!


そう思いながらドーラさんを小屋へと連れて行くのであった。

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