第10話

地下二階に降りた俺はレーダーでは敵の反応が出てないが、念のために辺りを見回して危険がないか確認しておく。


「う〜ん・・・・・・左の壁際にトラップがあるけど、右の通路に進むから気にしなくていいかな。ミハルちゃん、エイド教官、準備はいいですか?」


「こっちはいつでもいいぞ!」


「・・・・・・ミハルも大丈夫よ」


「よし、なら進みます!」


ミハルちゃんが不満そうだけれどもエイドさん達に俺はそう言って右側の通路を歩き始めるが、ここで一つの疑問を感じる。


そう言えば前に来た時よりも敵の遭遇率が低いな。レーダーの出ている敵の位置をマップと照らし合わせて距離を計っても、いまいる場所の30m先に3〜4体の敵がいるぐらいだ。

しかも今通っている道から外れた場所にいるから出会う事はないだろうけど気になるなぁ。


「・・・・・・分からない」


「分からない。ってどうしたんだエルライナ?」


「前に来た時よりもモンスターが少ない気がします。どっかのパーティーが倒してくれたのかな?」


「・・・・・・そうかもな」


まぁ、楽に進められるのに越したことはないけど・・・・・・数えるほどしかレーダーに写ってないと不安になってくる。


「アンタに運があるからじゃないの。それに楽に進められる方が良いでしょ?」


「・・・・・・確かにそうだね。ここを右に曲がるよ」


一応二人共把握していると思うけれども、念のために右側の通路を指をさして言っておく。


「そっちに下に降りる階段があるの?」


「うん、この道を進んで行くとT字路にぶつかります。そこを左の道に行けば階段があるよ」


「ハァー、アンタの能力が本物だと知っちゃうと羨ましくなるわね」


ミハルちゃんがボヤくが気にしないでおこう。なんか言うと突っかかって来そうだし。


「うむ、到達予定時間よりも早く着きそうだな」


「そうですか。ん?」


『注意! 複数の危険の接近を検知。敵の可能性あり』


あれ? さっきまでいなかったところに敵がいる。ここに移動して来たって言う感じじゃなかったな。そんな事よりも!


「敵が前から三体来ます!」


「おう!」


「分かったわ!」


少し待つと三体のウルフがこっちに向かって走ってくるのが見える。


コイツらは素早いけど楽に倒せるから心配しなくていいな。


先ずは先頭にいるウルフに照準を合わせて ORIGIN-12 を撃つと、ギャンッ!? と言う鳴き声と共に床に転がる。

次に右側にいるウルフに照準を合わせて撃つと、なにも鳴かずに床に転がり動かなくなる。恐らく即死したんだと思う。最後のウルフに照準を合わせた時に意外な動きを見せ始めた。


「マジか」


何と最後に残ったウルフは反復横跳びをするかの様な動きで左右に大きく横っ飛びしながら、こっちに向かって来るのだ。


いくらなんでもあんな動きをされたら弾が広範囲に広がるショットガンでも照準が合わない・・・・・・仕方ない。


左右に横っ飛びをしながら向かってくるウルフに体を向けると、 ORIGIN-12 から手を離して腰にさしているカランビットナイフを抜く。


引きつけてぇ〜・・・・・・もっと引きつけてぇ〜・・・・・・。


「グルゥアっ!!」


今だっ!!


牙を剥き出しにしながら飛び上がり襲いかかってくるウルフに対して、首にナイフを滑り込ませて差し込むのと同時に右手でウルフの体毛を鷲掴みする。


「ガァッ!?」


「ンッ!!」


そのまま転がり、マウントポジションを取ったところで右手を離し、 JERICHO941PSL をホルスターから抜くと身体をくねらせて暴れるウルフの顔に、パァンッ! パァンッ! パァンッ! と三発撃ち込む。


「・・・・・・よし!」


死んだことを確認すると JERICHO941PSL をホルスターに仕舞い、首に刺しているカランビットナイフを抜いてからウルフから離れる。


「大丈夫か、エルライナッ!?」


「大丈夫、無傷です。ただちょっとだけ返り血を浴びてしまいました」


服にウルフの血がついちゃったけど、あんな事したら仕方ないよね。


「そうか、ウルフがお前に飛びかかった時、俺の肝が冷えたぞ」


「心配かけてゴメンなさい。ウルフを倒すにはああするしかなかったんで、少し無茶な事をしました」


「・・・・・・怪我がなければ良いんだ。しかし、あの一瞬でよくウルフの喉にナイフを差し込めたな。

普通はやろうとして出来る事じゃないぞ」


「まぁあのウルフが私の左肩を狙って飛びついて来ようとしているのが分かったので対応出来たんです。

いやぁ〜、飛びついてくるタイミングと合わせるのが難しかったですよ。ホント」


「いや、説明になってないからな。てかウルフが狙ってくる場所が分かっていたってぇ・・・・・・もういいか、気にしないでおこう」


うわぁ〜、呆れられてる。もう少し言い方を考えるべきだったかなぁ?


そう思いながらカランビットについている血を拭ってからホルスターにしまった後にORIGIN-12のマガジンを差し替える。

そして一番近いウルフから魔石を回収しようとしたのだが、なにかが魔石の上に覆い被さっているのに見て気づく。


「ん? なんで毛皮が落ちてるんだろう?」


「ウルフの毛皮を手に入れられるなんてラッキーだなっ!! って言っても五体に倒して毛皮が一枚出るぐらいの確率だから、ラッキーかどうかは微妙だなぁ」


うーん・・・・・・俺にとってこのウルフの毛皮の使い道がないな。


「まぁそのなんだ。それはお前の物だから自分で加工して使うも良し、総合ギルドもしくは店に持ち込んで売るも良しだ」


「・・・・・・売るしか選択がないですね。ストォ、アイテムボックスに閉まっちゃいますね」


危ねぇ、ストレージって言いそうになった!


ウルフの毛皮を持ち上げると魔石と一緒にストレージに収納する。


「なっ!? ウルフの毛皮まで収納出来るって・・・・・・アンタのアイテムボックスの容量はどうなってるの!」


「ミハルちゃん、私のアイテムボックスの容量は普通の人より倍以上あるから、ウルフの毛皮一枚や二枚なんて平気で入れられるよ。さぁ、進むよ」


一般的なアイテムボックススキルの容量の基準は袋の大きさと考えた方が分かりやすい。

袋が大きければ大きいほど色んな物が入るが、定期的に整理整頓をしておかないと道具を探すはめになるのでアイテムボックススキルを持ってる人にとっては必要な事らしい。

後、アイテムボックスの容量が満タン状態なのに物を無理矢理収納しようとすると火山が噴火したかの様に収納した物が飛び散りそこら辺にぶちまけるので、容量には気をつけた方が良いらしい。


「あっ!? ちょ、待ちなさいよっ!!」


「なに?」


「アンタは・・・・・・アンタは本当に何者なのっ!?」


振り返るとミハルちゃんの顔を笑顔で見つめながら言い始める。


「フフッ、普通の女の子ですよぉ〜」


そのまま下の階段に向けて歩き始めるが後ろからミハルちゃんが早足で歩いてくる音がする。多分、怒ってるんだろうなぁ。


「ちょっと! 説明になってないわよっ!! ちゃんとぉ・・・・・・・」


俺に詰め寄ろうしたミハルちゃんはエイド教官に肩を掴まれてしまった。


「それ以上追求するな」


「なんでよっ!? なんでミハルを止めるのよっ! アンタだって気になるでしょっ!!」


「ああ、俺も気になるが・・・・・・」


「でしょ! なら話しを」


「赤の他人同然のお前がエルライナに追及したところで答えてくれると思うか?」


「それは、そのぉ・・・・・・」


「どう思うんだ?」


エイド教官が睨みながらミハルちゃんを見つめると、彼女は怯えた様子で目を左右に動かし始めた。


「・・・・・・答えてくれないと思う」


「そうだろう。もう追及するなよ」


「・・・・・・分かった」


「よし、エルライナについて行くぞ」


「・・・・・・うん」


暴走気味のミハルちゃんを説得させるとは流石は元騎士団のエイド教官だ。


「もうすぐT字路、ん?」


「どうした。エルライナ?」


「目の前に木箱があるんですが、誰かの忘れ物ですかね?」


目の前に置いてある木箱に指差して言うと、エイドさんは ああ〜。 と言いながら納得した顔をしている。


「多分ここを拠点にして魔物を狩っていたグループがいたんだろう。その証拠にそこの壁に杭が刺さってるだろう」


確かにエイド教官が指をさす方向を見てみると壁に少し錆びた杭が刺さっている。


多分あれかな。ゲームで言うところのレベルリンクをしていたのかもしれないな。


「なんでここでキャンプしたんですかね。それに通路じゃなくて広い部屋でキャンプした方が良いと思うんですけど」


「多分、金稼ぎか新人を鍛える為にキャンプを張ったんだろう。それに広い部屋でキャンプするよりも隠し部屋とか通路とかの方が都合が良いんだ」


「なんでですか?」


「広い部屋でキャンプをする方と魔物となぜか遭遇しやすいんだ。

まぁ魔除けの魔法とか障壁とかを使っているのなら話は別だけど魔除けの魔法は定期的にかけ直さないといけないし、障壁は誰か一人に維持を任せないと行けない。

それに魔除けの書かれた魔導用紙を買って使うのも値段がかかるからなぁ・・・・・・一番いい方法が通路にテントを構える方法だ」


「なるほど、そう言う事ですか。じゃあこの木箱の中身ってゴミですかね?」


木箱を開けたらゴミがたくさん出てきました。と言う風な展開を想像すると余計木箱を開けたくなくなる。

そしてなによりも他人の持ち物を勝手に開けたらいけないと言う感覚があるので、中身が見たいから開けてくれ。と言われても気が引ける。まぁ木箱から嫌な匂いとかはしないけどさ。


「そうかもな。一応この手の落とし物は迷宮に落ちているアイテム扱いなるから拾った者が好きにして良いルールになっている。

まぁそれに名前がないとは思うが名前が刻んであったら落し物扱いになるから拾ったら入口の兵士に渡してくれ」


そう言う迷宮にもルールがあるんだ。ルール違反しないように後で調べておこう。


「私は名前も刻んでなさそうだし、その木箱はいらないのでこのまま放置しますね」


その木箱がトラップだったらヤバいからさ、放っておくのが一番いい判断だと思う。


「お前がそう言うのだったら、それでいい」


「ミハル達の物になるんだから開けていいんじゃないの?」


ミハル達の物って、ミハルちゃんは木箱の中身を山分けする気だったんだ。


「まぁ宝箱だったら開けようとするけど、中身がゴミだらけかもしれない怪しい木箱だから放っておく事にしよう」


「・・・・・・それもそうね」


「それじゃあ、先に進みましょうか」


「うん」


俺はミハルちゃんの返事を聞くと迷宮の奥へ向けて進み始める。


・・・・・・しかし本当に妙だなぁ〜。もうすぐ階段に到着するんだけども敵と遭遇しないなんて。


「階段が見えてきましたね」


「ホントお前がパーティーにいたらと考えると、どれだけ心強いのか今分かったぞ」


「アンタが羨ましいわぁ」


エイドさん達の声を聞きながら安全かどうか階段に近づき下覗いて確認する。


「・・・・・・大丈夫そうですね。進みましょう」


そう言った後に下に降りるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る