第1話

ピッピッピッピッ!? ピッピッピッピッ!?


「むぅぅぅ~!」


彼女は目を瞑りながらアラームの音を消す為にスクリーンがある方向に手を伸ばす。


ここらへん? ん~・・・・・・これだ。


スクリーンに映るアラームOFFボタンを押してから目を開けて上半身を起こして、欠伸あくびをかく。


「五時ちょうどか。さてと、準備しなきゃ」


彼女はそう言った後にアイテムボックスから、髪をとかす為のブラシや、トレーニングウェアなどを取り出して身支度を始める。


あのゾンビの軍勢と戦ってから二日が経ったが、未だにその事が街中で話題になっている。


ある者はAランクの冒険達が倒したと言い。またある者はリードガルムの軍隊が倒したと言う。そして、またある者は神様の奇跡がゾンビ達を蹴散らしたと言うが信憑性が薄いと街の人達は互いに言い合いし、一体何者がゾンビの軍勢が倒したのか議論しあっている。

その中でもっとも有力な情報なのは。そう勇者達がゾンビの軍勢を倒したと言う話だ。


しかしそのゾンビの軍勢を倒した張本人はと言うと。


『ちゃんと洗顔して老廃物を取ってから出かけて下さい!?』


「・・・・・・えっと、メルティナさん洗顔は後でやるので朝の修行をしていいですか?」


『この前のアナタは朝修行した後に体を洗っただけで忘れていましたよね? その言葉は本当に信じて良いんですね?』


うっ! この女神様は痛いところを突いてくる。


そう、俺がまだゴーゼスで過ごしていた頃、つまりメルティナさんに女の子の作法を教えて貰っていた頃の話しなのだが・・・・・・朝修行するので汗を流す次いでに洗顔もやろう。と思っていたが洗顔をするのを忘れてしまい体だけを洗って、そのまま総合ギルドに行ってしまった。


その後に宿に帰ってくるなりメルティナさんから通信が来て、頭ごなしに説教された。今でもあの怖さを覚えていて、 この人だけは絶対敵に回していけない。 と俺の心に刻んだ。


「あの時は忘れただけなんです。だから信じて下さい」


『・・・・・・分かりました。アナタを信じましょう。それに今日は昇格試験でしたから時間が欲しいでしょうしね』


フゥ、納得してくれた。


『ただし! 戻って来て洗顔をやらなかったら・・・・・・怒りますからね』


「わ、分かりました」


『それでは失礼しました』


メルティナさんはそう言うと通信を切ってくる。


さてと、メルティナさんに怒られそうになったけど朝修行に行きますか。


軽く食べ物を食べてから宿の鍵を持ち、部屋の外に出て扉の鍵を掛けた後、ドアノブを回して鍵掛かっているかチェックする。


「うん、開かない。これで戸締まりOK!」


俺はそう言った後にカウンターに向かって歩き始める。





「おはようございます!」


俺はカウンターで暇そうにしていたお婆さんに向かって元気にあいさつをするが、素っ気ないそぶりをしてくる。


「ん? なんだアンタかい。また修行をするのかい?」


「ええ」


「確かアンタの今日の予定はDランク昇格試験のはずじゃなかったかい?」


記憶力が良いな。まぁ宿屋をやるならお客さんの予定を把握しないとやってられないか。


「そうですよ」


「アタシが今まで見てきた冒険科全員は昇格試験の前は出来るだけ体を休ませてから昇格試験に挑むか、試験の対策を練ってから昇格試験に挑むんだけどアンタは全然違う事をやるのねぇ」


「まぁ、今回は試験前のウォーミングアップのつもりなので軽く済ませます」


朝修行のやり過ぎの疲れが原因で試験に落ちてしまいました。と言うのは流石にアホらしいけど、日課をやらなきゃ前世で鍛えて貰った師匠に申しわけない。


「そうかい。戸締まりはちゃんとしたのかい?」


「はい、確認しました。これ鍵です」


俺は鍵をカウンターの上に置く。


「はいよ。アンタは食事はどうするんだい?」


そう、出かける前に食事を取るか確認するのがこの宿の鉄則。これを言わないと。 話しをしていないので。ってお婆さんに言われて用意してくれない。


「朝と夜だけ食事をお願いします」


「朝と夜だけねぇ。それとアンタが帰って来たらリマを起こしておくれ」


「分かりました。それでは行ってきます!」


「行ってらっしゃい。変なのに絡まれるんじゃないよ」


俺は修行の為に宿の扉を開き外へ出てから軽く準備体操をしてからランニングを始める。

そして王都の広場まで走って来てそこで格闘の修行をする。これが俺の日課に成りつつある。


修行のやり方は至ってシンプル。ムエタイ、マーシャルアーツの基本的な型の修行をするだけ。今回は試験があるのでいつもより軽く済ませる。


「・・・・・・ふぅ、試験もあるから今日はここまでにして帰ろう」


俺はそう言うと汗を感じながら軽くストレッチをしてから来た道を走って帰る。







「ただいま戻りました!」


宿の中に入りながらそう言ったのだが、お婆さんの返事が返ってこない。 なんで返ってこないのだろう? と思いながら宿の中を見渡してみるとカウンターでお婆さんが商人らしき男の人の入室手続きをしていた。


「はい、食事なしの3三泊ですね。銅貨九枚になります」


「・・・・・・ん」


商人らしき男は銅貨九枚をカウンターの上に置く。お婆さんはその銅貨を手に取ると、部屋の鍵を男に渡す。


「こちらがアナタの部屋、104号室の鍵になります。宿の外に出かける際は鍵をカウンターに渡して下さい。それではアナタの部屋に案内するのでついて来て下さい」


「分かりました」


男の言葉を聞くとお婆さんはカウンターから席を立つと俺の顔を見つめて口を開き始める。


「すぐに戻って来るのでここをお願い出来ますか?」


「あ、はい。いいですよ」


お婆さんは俺のその言葉を聞くと、お客さんを部屋に案内し始める。


今さらだけど、あのお婆さん俺なんかに任せて良かったのか?


「まぁすぐに戻ってくるから大丈夫か」


・・・・・・ほら、もう戻って来た。


「カウンターを任せて悪かったねぇ。アンタに礼を言うよ」


「はうっ!?」


ヤバい!? 今 ドキッ!? としちゃったっ!!


「アンタはこの言葉でも反応すんのかいっ!?」


「だ、だっれぇ~・・・・・・」


「全くアンタは・・・・・・ほら鍵だよ!」


お婆さんは呆れながら俺に鍵を渡すと、すぐに話し始める。


「お湯は用意しておくから照れてないで早くリマを起こして行っといでっ!」


「は、はひぃぃぃ〜〜〜・・・・・・・」


俺は、ちょっとふらつきながらリマちゃんの寝室に向かう。


「・・・・・・リマちゃん起きているかな?」


リマちゃんがいる部屋のドアをノックして起きているか確認するが、リマちゃんの返事が返ってこない。


「・・・・・・まだ起きてないのかな? リマちゃん、部屋に入るよ!」


俺は鍵を使いドアを開きリマちゃんの部屋に入りベッドを見てみると、リマちゃんはまだぐっすり眠っていた。


「リマちゃん朝だよ。起きて」


リマちゃんの身体を揺すりながら言葉を掛けると、寝ているリマちゃんは顔をしかめさせる。


「ううん。まだねむいよ、おねえちゃぁん・・・・・・」


可愛い! リマちゃん可愛いすぎるよっ!!


しかしここでまた寝られては来た意味がないし、なによりも俺があのお婆さんに怒られてしまうので俺はリマちゃんを起こそうとする。


「私は寝てても別に構わないけど、このまま寝ていたらお婆さんに怒られないの?」


「・・・・・・おこられるのやだ」


「ならどうした方が良いと思う」


「ん〜・・・・・・おきるのがいい」


リマちゃんはそう言うとベッドから上半身を起こし、眠たそうにあくびする。


「ふぁ~ぁ・・・・・・おはよう、おねえちゃん」


「おはようリマちゃん。支度してお婆さんのところに行こうか」


「・・・・・・うん」


「はいリマちゃん、髪をとかして上げるからここに座ってね」


「うん」


リマちゃんは眠気眼ねむけまなこながらも素直に椅子に座ってくれる。


なんて良い子なの! あのババァとは全く違うっ!! と感激しつつアイテムボックスからブラシを取り出してリマちゃんの髪をとかしていく。


・・・・・・あまりやり過ぎると逆に髪を痛めるから、これぐらいでやめておこう。後はリマちゃんのお気に入りのリボンを着けてあげて・・・・・・よしっ!


「はい終わり。もういいよ」


「はーい!」


リマちゃんはそう言いながら椅子から立つと笑顔でこっちを向く。


「おねえちゃん、にあう?」


「似合うよリマちゃん」


「えへへ! おねえちゃんにほめてもらったぁ〜」


やだもうこの子、本当に可愛い過ぎるよっ!?


「それじゃあ、お婆さんのところに行こうか」


「うん!」


リマちゃんと俺は手を繋ぎ一緒にお婆さんのいるカウンターに向かうが、もちろん部屋を出た時に鍵をかけるのを忘れない。


「おばあちゃん、おはよう!」


「おはようリマ、アンタまた髪をとかして貰ったんだねぇ」


「うん!」


「カワイイわねぇ~」


「えへへ~」


リマちゃんとお婆さんの笑顔の会話を見て、俺はほっこりする。


あぁ、家族団らんする光景を見るのは良いものだねぇ〜。この街を守って本当に良かったと感じるよぉ。


「アンタに任せて良かったわ~。アタシがリマの髪の毛をとかす手間が省けるからねぇ~。しかも無料だからなおよしっ!!」


お婆さんがいい笑顔をしながら俺にサムズアップしてくるので怒りを感じてしまう。


このババァ~っ! いつか見ていろぉ~っっっ!!


俺は心でそう思いながら作り笑顔のまま、お婆さん達に見えないように手を体の後ろに回すと拳を作り強く握り締める。


「それはそうとアンタ、部屋にお湯を入れた桶を置いといたからそれで身体を拭きな。その間に飯を用意しておくから行って来な」


お婆さんはそう言いながら鍵を差し出してくるので俺はお婆さんから鍵を受け取る。


「はい、ありがとうございます」


そうお礼を言った後に髪と身体を洗いに行く為に自分の部屋に戻ると、髪を湿ったタオルで汗を拭いた後に身体も拭く。


それが終わったら洗面器に桶の中にあるお湯を捨ててから蛇口を捻り水を出して桶を洗う。


「この世界は変なところでハイテクだから困らないところもあるけど、蛇口から水しか出ないからちょっと困るなぁ」


多分この宿はお湯を出す管を各部屋に設置する費用がなかったからお風呂だけにお湯が出るようにしたのかな? それとも水道代関係?


「まぁどちらにせよ俺には関係ないか。さてと、時刻は六時半か。ご飯食べてから向こうに行こう。時間があれば向こうで潰せば良いから」


俺は洗った桶を持ち部屋を出る。


「はい、お婆さん桶返します」


俺は桶をお婆さんに渡す。


「はいよ。ほらアンタの飯を持って行きな」


「ありがとうございます」


俺が朝ご飯を受け取ると、お婆さんが話しかけてくる。


「そういえばアンタ?」


「はい?」


「どうしてそんなに落ち着いてられるんだい? アタシャが見てきた冒険科の中でそんなに落ち着いているヤツは始めて見たよ」


あぁ、なるほどね。


「私の師匠の教えのおかげですね。肝心なところこそ、いつも通りを心がけ慌てず冷静に対処していくべし。です」


「ほ~う。なるほどねぇ~・・・・・・」


お婆さんはそう言うと興味をなくした顔をしながら、黒板にチョークでなにか印を書く。


俺はそのようすを見てから自分の部屋に戻り朝食を食べる。


「ご馳走さまでした。さてと準備しよう」


朝食を食べ終わった俺はメニューからマルチカム迷彩服OPUタイプの服を選び出してから着て、CRYE PRECISION社製のJPC(ジャンパブルプレートキャリア)をマルチカムの上に装備してからニーパッドを着け、CQCホルスターを腰ベルトに通して装備完了。


「次は武器の方だね」


そう言いながら今度は武器庫開くと、IWI ACE31とJERICHO941PSLとMK3A2グレネードを二個とM84フラッシュバン一個をプレートキャリアの背中の方に着けてからカランビットナイフを選びベルトの左側に装備して、アサルトライフルとハンドガンのマガジンをプレートキャリアに付けたマガジンポーチの中に入れた後にヘッドセットを着けてから装備になにか抜けている物がないか確認する。


「これでよし! さてと総合ギルドに行きますか!」


そう言った後に部屋を出てから鍵をかけてカウンターに向かう。


「お婆さん、行ってきます!」


「あいよ、試験頑張っておいで!」


鍵をカウンターに置いた後に宿を出て総合ギルドに向かい歩くのだけれども。


「ん? なにか忘れているような気がする・・・・・・まぁいいか。装備を忘れていたらその場で出せばいいし」


彼女は大切な事を忘れている事に気付いていないまま総合ギルドへ向かうのだった。

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