第14話

神様と通信を終えた俺は門を抜けて銀色の竜亭に着く。


ホント、時間に間に合って良かった。


「ただ今戻りました!」


「お帰り。アタシャはあんたが今日は帰って来ないと思ったわ」


失敬なお婆さんだな。と思ってしまうが、お婆さんは鍵を俺に手渡して来るので受け取る。てか、この人本当に口調が変わってない?


「まぁ色々ありましたけど、なんとか九時までに帰れました」


「ふ~ん。あんたになにかあってもアタシャには関係ないが、親しいヤツに心配を掛けるもんじゃないよ」


「はぁ、分かりました」


この世界で親しい人はいないけどぉ・・・・・・もしかして、この人はこの人なりに心配してくれているのかな?


俺はそう思いながら鍵を受け取る。


「風呂が沸いてるから冷めない内に入りな! 」


「え? お風呂? お風呂入って良いんですか!」


この宿お風呂があるんだなんてサイコー! 紹介してくれて、ありがとうアイーニャ様っ!!・・・・・・って! まさか後で金を請求されるパターンじゃないよね?


ジト目で見る俺に向かって、お婆さんは怒声を浴びてくる。


「なにを怪しんでいるんだいっ!!? 家は無償でお風呂に入れるのが売りの一つだよっ!ただし、石鹸とかタオルの入浴セットはアタシャの所で借りるか買うか、もしくは自分で用意して貰うかだよっ!! 入浴の道具なしで入るのはダメだからねっ!!」


お婆さんはそう言うと、カウンターの下から入浴セットを取り出して 買えっ!! と言わんばかりに俺に向かって見せつける。


「使い回されたレンタルお風呂セットは銅貨五枚、新品買うなら銅貨八枚、さぁどうするんだい?」


買わせようと言うのかこのお婆さんは・・・・・・フッ! 残念だったな、お婆さん。


「私、自分の持っているんで大丈夫です」


俺はそう言うとショップを開き、お風呂セットとスポンジとバスタオルを買って召喚してからお婆さんに見せ付ける。


「ふ~ん・・・・・・そうかい、持ってのかい。ならさっさと風呂に入ってきな」


あら? 意外とサッパリした回答が帰ってきた。これはこれで悔しい感じがしてしまう。


「おねえちゃ~んっ!!」


「うわっと!?」


リマちゃんは俺のお腹に抱きついて・・・・・・いや、突撃かました後に顔を上げて見つめくる。


「おかえりっ!!」


「ただいま。リマちゃん」


本来ならば怒らなければいけないのだが、この笑顔を見てしまうと許してしまうのは母性のせいだろうか?


「まったくリマ、お前はぁ〜〜〜っっっ!!」


リマちゃんはお婆さんの般若はんにゃみたいな顔を見た瞬間に、俺の後ろに隠れてしまう。その行動を見たお婆さんは俺を見つめて睨んでくる。


ヤメテ、ワタシカンケイナイヨ。


「ハァー・・・・・・ねぇ、あんた」


お婆さんは、なぜかさっきと違い呆れた顔で俺を見てくる。


「は、はい! なんでしょうか?」


「ちょうど良いからリマを風呂入れて来ておくれ」


ちょっ!? この人、リマちゃんを俺に任せるつもりなのか?


「おねえちゃんといっしょにおふろはいれるの! わぁ~いっ!!」


わぁ~いっ!! って、リマちゃんその気になっちゃってるよっ!?


「あのぉ私じゃなくて、ご両親にやらせるのが良いと思いますが?」


「リマの両親は今はいないよ」


あっ!? ヤバい事を言っちゃった感じだ。


「あ、あの・・・・・・軽率な事を言ってしまい。すみませんでした」


俺はお婆さんに向かって頭を下げながら言う。


「はぁ? あんたなに変な事を想像しているんだい?」


「・・・・・・へぇ?」


俺は下げた頭を上げるとお婆さんの恐ろしい顔が目の前にあった。


「もしかしてリマの両親が死んだと思っているんなら、それはあんたの勘違いだよっ!!」


「そ、そうなんですか?」


「そうだよっ!! 二人共出稼ぎに行ってるから、アタシャがリマの面倒見てるだけだっ!! まったく変な想像する子だねぇっ!!」


あ、そう言う理由だったのか。


「そ、そうだったんですか。勘違いしてすみません」


俺はお婆さんにまた頭を下げると、お婆さんは腰に手を当てて俺をまた睨みながらこう言ってきた。


「フンッ! 分かったんならさっさとリマを連れて風呂に入ってきておくれ! アタシが入る時に冷めてたらこまるからねぇ」


「ねぇ、おねえちゃん・・・・・・はやくいこうよぉ〜!」


リマちゃんがそう言いながら俺の服のすそを掴んで引っ張ってくる。


「分かったよリマちゃん。お風呂まで案内をお願いね」


「はぁーいっ!!」


俺とリマちゃんは互いに手を取りながらお風呂場に向かって歩いて行く。





~~ ??? ~~


まったくなんて事なんだ! あの人は私達の間で話しあって決めた。決まり事を破るなんてっ!!


真っ暗な夜の中、フードを深く被った女性は光の魔石を入れたカンテラの光を頼りにして、気持ちを苛立たせながら走っていた。


・・・・・・アイツはやはり我々の組織から除名するべき存在だったな。 連れ戻せ。 と言った彼の方には申し訳ないが、ソルド見つけたらヤツを殺してしまおう。他の連中にここの来る前にそう言ったら、納得していたからな。確かここらへんに・・・・・・ん?


彼女はソルドがいる場所に近づいた時に、なぜかだか人らしき気配を察したので、気付かれないように魔石の光を消す。


「なにか話しているが、ここからでは見えにくいな。透過魔法してから近づきましょう。[エスケープ]」


そして彼女は自分の姿が消えたのを確認する。


なにをしているのか見に行くだけだが、もしかしてソルドが負けたのか? ・・・・・・いや、いくら私達の中で一番弱いと言われているソルドが、人間に負けるはずはないわ。勇者の子孫辺りならともかく。


彼女は悟られないようにゆっくり慎重に近づいて行き話しが聞こえるところまで来ると、その場に止まり聞き耳を立てる。


「・・・・・・で、他のヤツは見つかったか?」


「いえ、ゾンビの死体ばかりです」


「そうか。しかし、本当にこの状況は一体なんだ?」


「グエル団長、僕もサッパリ分かりませんよ」


グエル団長? つまりこの国の騎士団にして勇者の子孫であるグエルがここに来たのかっ!! でも、あの人達がゾンビ達を壊滅させたわけじゃなさそうね?


「まったく、 ここに不穏な気配がするから調査してくれ。 と言われて来たが、まさかこんな事が起こっていたとはな。なぁキース・・・・・・どう思う?」


「グエル隊長、どう思うとは?」


「お前は誰がゾンビを集めて誰がゾンビを壊滅させたのか。お前はどう考えているか聞きたいんだ」


「逆に聞きます。グエル団長はどう考えていますか?」


グエルは腕を組んだ後に自分の考えをキースに話し始める。


「この転がっている死体は恐らく魔人まじんだろう」


「やっぱり、グエル団長もそう思いましたか」


ウソだろっ!? ソルドが殺されただと!! 一体誰があの人をやったの?


「その魔人がゾンビ達を召喚してどこかを襲おうとした。までは考えつくんだがぁ・・・・・・」


「一体誰が退治したのか分からない。って言いたいんですね?」


「あぁそうだ。しかし、酷い死体臭の中に微かに匂うこの匂いは嗅いだ事があるな」


匂い? ・・・・・・そうかヤツは黒狼族っ!! 嗅覚で相手を判断が出来るのだったな。ソルドを殺した犯人の手掛かりが掴めるかもしれないわっ!!


「匂い・・・・・・ですか?」


「あぁ、アイツの匂いだ」


「グエル団長、アイツとは一体誰の事ですか?」


「それはな。エ「団長ぉ~っ!!」」


チッ!? 邪魔が入ってしまったか!


「こっちの調査は終ったっす!」


「アゼス、どうだった?」


「こっちも同じようなゾンビの死体だらけっす! ただ、見たことのない足跡を見つけたっす!」


「見たことのない足跡?」


「その足跡は平べったくて、馬車の車輪のようにずぅーーーっと続いているっす! しかも二つもあって、かなり重量がありそうっす!」


平べったい車輪の跡? 平べったい車輪を使う馬車なんてあったかしら?


「変な跡ですね? 他にはなにか見つからなかったですか?」


「そうっすねぇ~。その車輪の跡の近くに靴の足跡があったっす!」


「・・・・アゼス、その靴の足跡は変な模様だったか?」


「はいっす! 見たことない模様が付いていたっす!」


「・・・・グエル団長、これで確定ですね」


「ハァー・・・・・・」


グエルは呆れた顔をした後、二人向かって指示をだし始める。


「この事は明日本人に聞いて確かめるとして、このゾンビ達の処理する為に人手が必要だな。一旦王都に戻って応援を要請しよう」


「ゾンビ達は放置っすか?」


「ゾンビがまたゾンビになる事はないから、ほっといても大丈夫だろう。さぁ、ベイガー達を呼びに行くぞ!」


「「了解」っす!」


キースとアゼスがそう言うと、彼らは馬をベイガーがいると思われる方向に走らせる。


「・・・・・・行ったか。良かったわ、見つからなくて。このゾンビの死体から発する強い臭いのおかげだな」


彼女はそう言った後に自分自身に掛けた魔法を解く。


「彼らはこの惨劇を招いた人を察しついているみたいわね。ハッハッハッハッハッハッハッ!! 一体どんなヤツがこんな事をしたんだ? 会って姿を見るのが楽しみだわぁっ!!」


彼女はそう言い残すと夜の闇へと姿を消すのだった。

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