第三十一話 お肉は友情の架け橋

「うぉぉぉぉぉー! ここで解体するのかー!」


 リアとヴァルとともに街の西門近くにある解体倉庫に来た。この倉庫は大型モンスターも解体できるように滑車のような物や大型の道具が用意されており、水瓶やゴミ箱なども完備されている。さらに、希望なら荷車も貸し出しているそうだ。


「何肉からやるー?」


「まずは新兵ノービスの素材からだ。上に上がれば邪魔になるだけだからな。というわけで、ゴブリン他四種類からやるか!」


「はーい! ボア……待っててね!」


 今回のスタンピードはちょうどいいから、持っている素材から出してもバレそうにないものも混ぜてしまうことにした。ビッグボアの肉以外やウルフたちに、アンデッドではスケルトンがいいだろう。


 まぁスケルトンは依頼がないからポイントはもらえないだろうが、小銭稼ぎ兼在庫処分と思ってギルドに売却しようと思う。


「次は何肉ー?」


兵士ソルジャーは二種類の肉が手に入るぞ。ジャイアントホーンラビットとキックバードだ。他六種類の解体もするぞ」


「お肉ぅぅぅぅぅー!」


 昨日は疲れていたこととヴァルが心配であまり食べれなかったし、朝もいろいろと忙しかったからお肉の摂取量が少ないようだ。お肉愛が強すぎるあまり禁断症状が出ていそうだ。


 それと、ヴァルは遊んでいるわけではない。つまみ食いもしていない。ゴミを片付けたり次の死体を運んだりと大活躍している。


「そろそろお昼ご飯食べるか」


 お昼を少し過ぎた頃、大量にある死体のうち半分が終わった。きりもよかったのでお昼ご飯にする。リアとヴァルは宿で頼んだお弁当と途中で購入したものを食べるが、俺は素材の心臓をひたすら吸収していた。


 討伐直後に魂だけは全て吸収したのだが、危険な森の中で解体できるはずもなく、心臓の吸収は後回しにしていたのだ。


 ちなみに、まだスキルは入手できていない。危険級までしか解体を始めていないから仕方がないかもしれないが、すでに百体くらいの心臓を吸収していて一つもスキルを得られないというのはいかがなものか。


 あと《吸収アブソープ》を今回初めて見せたのだが、リアとヴァルは驚いて固まっていた。


「吸収作業は終わったから先に進めておくね」


「すぐ食べ終わるから!」


「ゆっくり食べてていいよ。もうすぐでボアたちデカ物の番だからさ!」


「ありがとー!」


 俺には疲れというものは存在しない。だからこそ、こういう作業は向いているのだ。それに疲れているせいで、ボアたちの解体で怪我をしてしまっては元も子もない。


戦士ウォリアーは全十種類で全てがデカ物になる。そのうち九種類は肉だー!」


「いぇぇぇぇぇぇい!」


「ガルゥゥゥゥゥゥゥーー!」


 ただ、肉好きコンビに残念なお知らせがある。


「でもホーンブルやサーベルディアは後回し。特にあの巨大蛇も」


「えぇぇぇー! 何でぇぇぇぇーー!」


「アイツらは騎士ナイトの依頼だった。まずは戦士を終わらせて時間があったら解体しよう」


 ホーンブルの強さがビッグボアと違うと感じたのは間違いではなかったのだ。階級の中にも上下があり、ホーンブルは上だったというわけだ。


「じゃあ頑張るしかないね!」


「ガルガル!」


 肉好きコンビは姉弟に見えるほど息ピッタリで解体を始めて行く。そのかいあって戦士までは終わり、ホーンブル一体分の解体も終わらせることができた。もちろん、内臓が食べれるものは全て下処理を行い、すぐに【異空間倉庫】にしまった。


 ついでに【異空間倉庫】内も整理をしたのだが、結局空きを作ることができなかった。ギルドに素材を提出すれば三つ空くが、早くアレ・・を手に入れなければならないと改めて思った。


「早く早くーー!」


 整理と片付けが終わる頃には、辺りは暗くなっていた。さすがにお腹が空きすぎたのか、俺を急かして宿に向かう。


 ◇


「混んでる……」


 せっかく急いで帰ったのにもかかわらず、食堂が激混みでリアの元気がなくなっていく。俺たちの席はあるのだが、そこに辿り着くためには混雑の中を進まなければいけない。さらに、混雑のせいで注文しても時間がかかることが予想できた。


 そこでお詫びに来た女将さんにロックがいる庭で食事をしてもいいかを聞く。庭にはかまどのような物があり、屋外パーティーのときに使っていると聞いていたのだ。当然、別で料金も払うと伝えたところ許可をもらえた。ついでに調味料も購入した。


「リア、今夜はバーベキューだ。ロックも招待しよう!」


「バーベキュー?」


「外で好きなお肉を焼いて食べるんだよ。ロックには好きな生肉をあげればいいだろ?」


「本当にーー? やったぁぁぁーー!」


「ガルルゥゥゥン!」


 盛大に喜ぶ肉好きコンビをつれ庭に行くと、微妙に警戒している岩窟熊がいた。でも警戒しているのは俺にではなく、ヴァルに対してである。何故なら、俺は許可範囲までしか近づいていないからだ。これから餌付け大作戦を実行するのである。


「ロック。お肉あげるから一緒に食べよう!」


「……」


 無視か……。まぁ予想はしていた。


「この子は私の弟のヴァルだよ。いい子だから仲良くしてあげて。ヴァルもロックは友達だから攻撃しちゃダメだよ!」


「ガルガル!」


 弟と言われて嬉しかったようで、激しく頷き返事をしていた。そのおかげか分からないが、ロックの警戒が薄れていた。


「お肉あるから一緒に食べよう!」


「グルルルゥゥゥーー!」


 ムクリと起き上がったロックはリアとヴァルについて行き、かまどの前に座り込んだ。


 おい……。俺は……? やっぱりアンデッドがいけないのか? それともライバル認定されているからなのか?


「アルマ、早くぅぅぅぅー!」


 さすがに肉を出すときは近寄ってもいいようで、警戒態勢になっただけで攻撃はされなかった。


 それからは魔法具を使って火を起こし、野営セットに入っていた網や鉄板を使って焼きまくった。ロックやヴァルは生肉がいいかと思って出したが、焼いたものも好きなようで大量に食べていた。


「美味しいよぉぉぉぉー! ブル肉美味しすぎるぅぅぅぅー!」


 今回のスタンピードでは二種類のブルがいたのだが、リアが感動しているのはホーンブルの方である。デカ物の仲間で一体しかないのだが、肉好きコンビと大きな熊が貪っているせいで三分の一がなくなってしまった。


「リアさん……野菜も食べなきゃ」


「あとで野菜ジュース飲むから大丈夫!」


 子どものようなことを言って肉を爆食している三人組。でも悪いことばかりじゃない。餌付け大作戦が大成功を収め、ロックとヴァルは仲良しになっていたのだ。


 俺にどの肉を焼くように指示をしたり、お代わりを要求したりと楽しそうにしていたのを見たからだ。きっと彼らの中の俺は、肉をくれるモンスターなのだろう。


 まぁロックとヴァルが鎧に触ってくれるようになっただけで十分である。


「分かったから肩を叩くな」


 バーベキューの匂いに惹かれて物欲しげな視線を向けてくる商人を全て無視して、俺は肉を焼き続けるのだった。



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