第12話

 綺麗な、蒼い空だ。

 窓枠に肘を掛けて、悠生はずっと空を眺めていた。

 ずっと、変わらないだろうな。


「ユウ、お客さんだ」

 彼を呼ぶマスターの声に、大きく一つ伸びをして立ち上がった。



「ヨーロッパに、行くの」

 波打ち際を歩きながら、久深が言った。

「バイオリンの研修生としてね。四・五年、もしかしたら、それ以上掛かるかも」

「そっか」

 彼女の荷物を持った悠生、呟いた。

「でもね、私は諦めない。だって佐穂さんに申し訳無いもの」

 意外な名前が出てきた事に、悠生は驚いた。


「ごめんなさい、マスターに聞いちゃった」

 彼女は少し恐縮して、話を進めた。

「あなたと同じ写真好きで、夢を一緒に応援してくれて。自分が癌だと分かっていても、決して夢を諦めなかった、あなたの恋人の事」

 久深が、深々と頭を下げる。

「幸せにしてあげられなかった辛さ、無条件に夢を追い求められなくなる辛さ、みんな知ってたのね。私、我が儘ばかり言って……本当にごめんなさい」

 懸命に謝る彼女の姿を、悠生はじっと眺めていた。



 風の森は今日も、真夏の太陽を一杯に受けて輝いている。

「実は、俺も明日帰るんだ」

「そう」

「それでさ、よく考えてみたら、俺と久深さんがこうして出会った事を証明するものが、何も無い事に気が付いたんだ」

 今更ながら、少し照れながら悠生は言った。

「もし良かったら、一枚だけ撮らせてくれないかな」

「うん、いいよ」

 久深の、はっきりした返事が戻って来た。

「どこで撮るの?」

「スナップ写真だから、どこでもいいよ」

「いい加減だなあ」

 彼女は笑って、幾つかある岩の一つに腰掛けた。

「さてと」

 何気なくファインダーを覗き込んだ悠生は、そこに映った光景に、息を呑んだ。

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