飛翔恋騎ラスト・ヴァルキュリア

名切 斗鉄

第1話 対ラストヴァルキュリア連合国証文、序の項

世界は今や、空にある。




かつて、天使が秘匿した物質は神によって暴かれ、それを手にした人類の争いによってこの世界は変貌した。


旧惑星支配者が遺群として忘れ残した、雲海突き破り存在する超高閣チョウコウカク型構造物:スピルネラ、それらを剥ぎ剃り、寄生するように、人類が生活圏を築き上げたのは、遥か昔。


1000年を超える時の経過は、人の進化を促し、可能性を塗り替え、新人類は神の粒子溢れる大気のもと、新成層圏での繁栄を当たり前にした。



そして、推定高度20kmでようやく終わりを迎えた数多のスピルネラの上空は、浮遊都市が溢れるエネルギーを振り撒く中層空圏と化し、国の中心槍廟ソウビョウ、高高度新生存圏にて技術の粋を謳歌するのは、上層空圏の庭人。


この国空が孕んだ世界では、何千万もの命が空の文明を享受し、人々は鋼鉄で出来た光の絶えない都で一生を全うするのだ。






だが既に、空への敬意は失われた。






空を翔ることに飽きた人々は、闘争を求め、新時代に浪漫を求めた人々の結晶は、今や多くを殺すことだけに長けた汎物と成り果てた。


境界に浮かぶ鋼鉄の戦術要塞、核鎧カクガイ門12基甲飛翔戦艦の対面空戦は空を拡充し続け、尖兵と化した戦闘型飛翔機はその力を競い合う。



無論、特異点には、ヴァルキュリアの存在、それは神に抗った人間が創造した、最高の罪の形。


世界に8騎の実存が確認されるその機体を巡って、我らは守るべき国を武器とし、戦争を続けているのだ。






いざ、顧みん。






国空を守護するためという虚偽の大儀を掲げ、空を統一せんとする我らの行いは、空の尊厳を踏みにじり、人類間に軋轢を生み出し、文化的相違を許さぬ、我らの価値観の狭小さを神に露呈するだけであったろう。


いまここに、新人類連合戦線の発足と共に、思想を神のもとに改める必要があるのだ。


新人類史上、最悪となるこの災厄に、他国との協力は不可欠であることを。






そして、改めよう。






覇道を唱え、移り行く時代の大局に目を配らせようとも、世界の崩壊の兆しには、気付くことが出来なかった。


真に目を向けるべきであったのは、世界の細部であったからだ。


小さな変化、始まりの時を決して逃してはいけなかった。


ただの背神者と、目覚めを知らぬ天使の核人。


或る日出会った、その二物が、大きく世界を揺るがせることになったのだから。






神議長ウージー・マクマフィン。

対ラストヴァルキュリア連合国証文、序の項より。

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