誤りのブルー
更に五日後、ブランシュ家は朝から落ち着きがなかった。
クロードが訪ねてくるので皆浮き足立っているのだ。
当然叔父家族揃って歓迎するらしい。
アンナはこの日のためにドレスから何から新調したようだ。
準備は万端。やはり邪魔なのはソフィアだけ。
万一にもソフィアが公爵家の令息に気に入られることがないよう、叔母は部屋から出ないようにきつく言い渡した。
ソフィアの美貌を警戒しての事だ。
ソフィアは気が気ではなかった。
会えないのでは彼は勘違いしたままになってしまう。
アンナは妙に勘が鋭いので、話を上手く合わせてボロを出さないだろう。
やきもきしながら部屋をぐるぐると回っていると、馬車が屋敷の前に止まり中から一人の青年が出てきた。
窓から様子を伺っていたソフィアは、その姿を見て思わず息を止めた。
あの時よりずっと大人びた彼は、さらさらの黒髪はそのままに、目を見張るほどの美青年へと成長していた。
背丈は出迎えた叔父をゆうに越すほどで、すらりと引き締まった身体は堂々と背筋が伸びている。
恐ろしい程に整った顔には見惚れるほど優雅な笑みが浮かべられていて、あまりの美しさに目が離せなくなった。
そのまま見つめ続けていると、不意に彼がこちらを向いた。
ガラス越しに一瞬だけ、あのヘーゼルの双眸と目が合った気がしてソフィアの胸は大きく音を立てる。
赤くなった顔を両手で覆って部屋の中に引っ込むが、心臓はばくばくと音を立てたまま収まる気配がない。
(やっぱり彼に伝えなくちゃ……!)
衝動的にドアへと走り、ノブを回すが手応えがない。
どうやら外側から鍵がかけられているようだった。
声を上げて外に呼び掛けるが全く反応がない。
諦めて部屋の中に戻り、窓際に置いてあるソファーに座ってクッションをぎゅっと抱きしめる。
しばらくぼんやりと動かずにいると、外から微かに声が聞こえてきた。
何気なく目線をそちらに移して、ソフィアは後悔する。
窓から見える庭園にはクロードがいて、その隣にはアンナが寄り添っていた。
クロードはアンナに笑みを向けていて、それを受けて彼女は本当に嬉しそうだ。これ以上見ては駄目だと分かっているのに、二人からどうしても視線が逸らせない。
その時、アンナが突然つまずいた。
咄嗟にクロードが正面から両手で受け止めて、二人は抱き合う格好になった。
ずきっと胸が軋む音がして、引き裂かれたように痛みが広がる。
すると、自然な動きでアンナが少しだけ顔を上げてこちらを見た。
クロードからは見えない角度で、その顔にはいつもの様にあの悪趣味な笑みが浮かんでいた。
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