第7話 包丁
「なんで皆、俺が思うようなアプリの使い方をしてくれないんだろうな」
不思議そうな善の呟きに私は『世の中色んな人がいるからだよ』と答えかけた。善は賢いくせにこういう所がわかっていない。良くも悪くも純粋すぎる。
「……包丁みたいなものだよ。包丁は料理に使う人もいれば殺人に使う人もいる。危険視されても普通は料理に使う人のが多い訳だし、必要だから無くならない。そんな存在にカラミティもなるしかないよ」
我ながら善が納得できそうな答えをなんとか用意できたと思う。カラミティは包丁みたいな存在になるしかない。扱いは難しいけど便利な存在に。
善はその意見に納得したようで、にかっと笑って泥のようなココアを飲み干した。
「よし、太刀川の事件は、俺達で解決しよう!」
「は?」
どうしてそうなる。私のナイスな答えで善は『よーし、管理がんばるぞう!』となるはずなのに。
「ほっといても時間かければ犯人は見つかる。けど、その時にまたカラミティのせいにされてしまう」
「……まあ、それは確かに」
善は太刀川の事件を私刑だとは思っていない。しかしこのまま警察が犯人を捕まえれば、メディアは絶対にカラミティのせいにするだろう。きっとメディアは視聴者がほしがるような事しか語らないのだから。
しかし善が犯人を見つけた場合、カラミティは関係がないとメディアに主張できる。カラミティ無関係の証拠だって集めておきたい。
「俺が思うに、犯人は一人。カラミティを見て犯行に至った訳じゃないが、カラミティを利用しようと複数で痛めつけるように殺したんだと思う」
「うん。確かに都合よく投稿があっただけと思うけど、でもどうやって犯人を探すの?」
カラミティ閲覧者が犯人なら少ない閲覧者から犯人の目星をつければいい。しかし善の話なら犯人が閲覧していない可能性もあって、そうなると探すのが難しくなる。警察ほど捜査の知識のない善に何ができるというのか。
「とりあえずカラミティのデータはあるし、動画投稿サイト周辺や他のSNSから探れると思うぜ。多分犯人は太刀川と近い人間だろうし」
「……わかるの?」
「なんとなくな。死体には右手首がないって話、刑事さんがしてたろ?」
「うん……」
「それは痛めつけた結果のように見えるが、俺には犯人の不都合があって仕方なく手首を切り落としたように思える」
失った右手。それはミステリーの基本。猟奇的な行為に見える切断があった場合、そこに事件解決の鍵があるということだ。例えば被害者が犯人の衣服のボタンを掴んだまま硬直したため切り取らざるをえなかっただとか。当然善はそこに着目した。
太刀川もそこまで馬鹿ではない。もしかしたら死の間際、犯人が犯人である証拠を手に掴んだかもしれない。それはまったく知らない相手にはできない事だ。
改めて善はその細身の体の胸を張る。
「そんなわけだから太刀川の周囲や投稿者を洗いたい。瑠璃、○△高校に話通しておきたいんだが、頼めるか?」
「……私がやらないと善がめちゃくちゃにひっくり返すでしょ」
「ひっくり返しているつもりはないぞ。まあ、俺が説得や頼み事をしたら大抵相手は怒って帰るが」
それをひっくり返すというんだ。
しかたなく通訳の私は先に話す事をした。これも、私が善に恩が有り、その行動に賛成しているからだ。でなければこんなめちゃくちゃやらかす奴、とっくにほっておいている。
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