第6話 国王

ひょんなことから、騎士団に入り、団長になった俺。

「この世界に来てからもう1か月ぐらいかな。長いようで短いもんだな。」

ボソッ、と独り言を口にする。

俺はこれから何をしなくちゃいけないのか。

そんなの全然わからない。

「クオーツさん、クオーツさん!」

「どした?トパーズ」

「騎士団の名前も決まりましたし、新しい団長も決まったことなので、お父様に挨拶しに行きませんか?」

お父様。

トパーズはこの国の第二王女。

ついでに言っておくと、サファイアさん。

彼女はトパーズの姉である。

つまり、この国の第一王女。

お父様=ファレメール国王。

困った。堅苦しいのは嫌いなのだ。

どうしようか。

まぁでも、挨拶しに行かないと、失礼だよな…

「行くか…」


歩いて数分。国王のいる部屋の前に着いた。

トパーズが扉をノックして―

「お父様?トパーズです」

と言った。

すると―

ゴゴゴゴゴゴゴ…という音と共に、扉が開く。

どんだけ重いんだよ…

「あああああああああああああ!!!!!トパーズゥゥゥゥゥ!!!」

ガシッとトパーズを抱く、一人の男性。

背はかなり高い。180㎝ぐらいだろうか。

ひげが生えた、40歳前後の男である。

体格もかなりいい。

ところで。

いつまで娘さんを抱いているのでしょう。

「お、お父様…苦しい…で…す…」

「おっと!ごめんよぉ…ごめんよぉ…」

と、またギュッと抱きつく。

この人…親バカなのか…?

「まぁまぁ。お父様。そこまでにしてあげたらどうですか?トパーズが大変なことになってますよ?」

「え?」

トパーズを見る。

顔の色がおかしい。

「ああっと!!ごめんよ。トパーズ。久しぶりに会ったから、つい。ところで、用件はなんだ?」

「はぁ…はぁ…お父様…抱く力が強すぎます…。今日は騎士団のことでやってきました。」

「ん?王家直属の騎士団か?」

「はい。それで…ぜひ、会わせたい方がいらっしゃるのですが…」

と、俺の方を見てくるトパーズ。

トパーズの視線の先にいた俺に気付いたのか、国王も俺を見てくる。

「ん?君は…」

「あ、俺の名前はアルライト・リスタル・クオーツといいます。この度、王家直属の騎士団、宝石騎士団ジュエリーナイツの団長を務めさせてもらうことになりましたので、国王にご挨拶をしに参りました。」

こんな感じでいいのか…?

よくわからないけど、自分なりに礼儀正しく言ったつもりである。

「ほう。騎士団に名前がついたのか。」

「はい。この宝石騎士団ジュエリーナイツというのは、このクオーツさんが付けたのです。」

「君が付けたのかね?」

と、国王が俺に近づく。

「は、はい…」

しばらくの沈黙。

そして、国王は俺の手を取り―

「いい!!」

……………。

いいって…気に入ったのか…?

「クオーツ君。君は、宝石騎士団ジュエリーナイツの団長、と言ったね。」

「は、はい…」

?」

「え…?」

「言っておくが、宝石騎士団ジュエリーナイツのメンバー全員、貴族なのだぞ?君は庶民だろう。貧富の差があるだろう。君自身、辛くなる時もあるだろう。そんな苦しみに君は耐えられるのかね。君には強さというものがあるのかね?」

強さ…か。

というより、他のメンバー全員貴族なんて初耳だぞ!?

先に言ってほしかったんだけど。

「あの、お父様。そのことなのですが、クオーツさんなら多分大丈夫ですよ?カラットも認めてますし、メンバー全員も納得しています。」

その言葉を聞いて、国王は少し考えた。

そして、俺にある提案を言う。

「今からバトルスタジアムに向かう。そこでもう一回、カラットと戦いなさい。私がこの目で確かめようではないか。」

え。


え。

「え。」

いや、カラットさん。

俺だって「え?」なんだぞ?

またこんなに強い人と戦うなんて…

はぁ…

「では、審判は私がしよう。私が始めと言ったら始め、止めと言ったら止めるのだ。いいな?」

俺とカラットさんがうなずく。

「では。始め!!」

渋い声が響く。

「手加減はしないぞ!!」

「ええ…」

あ。つい心の声が。

はぁ…とため息を瞬間、目の前に剣の刃がすぐ目の前に。

あ、やばい。

キィィィィィィンと、高い音が鳴る。

ああ、俺…もう…だめかも…

――――――――――――――――

なんちって。

「「なっ!?」」

カラットさんと、観戦していた国王が驚く。

俺は、刃を

普通なら、絶対的に手が切れている。

が。

俺は曼荼羅まんだらを応用した。

片腕に防具を作るイメージ。

曼荼羅は、防御する範囲が広くなるほどもろくなる。

なら、集中的に防御する。そうすれば、強度が強くなる。

その性質を使ったのだ。

そして、馬鹿力で。

刃をバキッ、と砕く。

「っ!!!」

カラットさんが少し後ずさりする。

「スタイル…変わりましたね。あの短時間に、何を…」

俺はフッ、と笑って答える。

咄嗟とっさの判断でな。」

「「「………」」」

この言葉に、カラットさん、国王、そして、見ていた全員が絶句する。


カラットは思った。

この人とと。

戦うたびに、戦闘スタイルが見極められる。

この人が何度も戦っていいのは―

だけである、と。

こんなんじゃ、戦う意味はない。

剣の刃は折られ、自分の戦闘スタイルは見極められる。

そんなんじゃ、もう無意味だ。


「国王。私の負けでいいです。」

「「なっ!?」」

俺以外の全員が驚く。

「だ、だが…カラットよ。」

「国王。彼と何度も戦うのは危険です。絶対に勝てません。もし、10回戦うと、勝てるのは最初の1試合目だけ。他は全部負けると思います。」

「なに?なぜだ。なぜそんなことが言える。根拠は―」

「根拠ならあります。彼と初めて戦ったとき、彼はぎこちない動きでした。しかし、今の戦いではそんな動きはありませんでした。」

「そうなのか?」

俺はキョトンとしながら聞いていた。

「自覚していないのですかっ!?」

「?」

首をかしげる。

自分でもよくわからないのだ。

「はぁ…まぁ、そういうことならよい。勝者、アルライト・リスタル・クオーツ!!」

はぁ…。

ようやく終わった。


「いやぁ、少し君のことを疑っていたよ。申し訳ないね。君には十分、強さがある。」

国王が謝る。

心の中で、カフラが、マスターのことを疑うなんて…許さん…!!

と、ボソボソなにか言っている。

「君になら、あの子たちを任せられる。これからも、宝石騎士団ジュエリーナイツのみんなをよろしく頼む。」

「はい。もちろん。」

ガシッと、俺と国王が握手する。


「ああ…疲れた。」

ほんとうに堅苦しいのは疲れる。

「いや~それにしてもクオーツさん。剣を折るなんて、中々できませんよ?」

そりゃそうだろうね。

あの時は結構焦ってたからね。

「クオーツさん、この後どうしますか?」

この後かぁ…

そうだな…

「とりあえず、みんなを呼んでもらえますか?」

「了解です」


宝石騎士団ジュエリーナイツのみんなが集まる。

「えー。じゃあ、正式に団長になったし、皆さんこれからよろしくお願いします。」

「「「よろしくお願いします!団長!」」」

みんなの息が揃う。

「とりあえず、今後のことについて皆さんに言っておきたいことがあります。」

「ねぇ、クオーツさん。なんか、違和感しかないから、普通に話していいですよ?」

あ、そう?

「それじゃあ、いつも通りにさせてもらうよ。さて。これからの方針だけど、こうやってみんなが集合するのは、重要な時だけにする。」

この言葉に、みんなが動揺する。

「え…いや…でも…」

「ク、クオーツさん…」

「どした?」

「王家直属の騎士団が、いいんですか…?」

「はぁ…あのな?王家直属とか知ったことじゃない。これからのことは俺が決める。いいな?」

コクリ、とうなずくトパーズ。

「重要な時以外は全て自由にする。何をしようが、みんなの勝手だ。好きにすればいい。修行したいなら、修行をしてもいい。休みたいなら、休んでいい。遊びたいなら、遊べばいい。」

「「「……………」」」

一同、絶句。

「クオーツさん。自由ですね。」

「自由にまったり生きるのが目標だからな。」

「ははは…」

「ただ、俺が呼びかけた時にはなるべく早く集まってくれ。」

すぐに、とはいかないだろう。

だから、一分一秒でも早く集まってもらいたい。

「え、でも…みんなに連絡する方法は…」

あ。それを忘れていた。

「じゃあ、連絡先交換するか。」

「ふぇっ!?」

この言葉に反応したのは、パールである。

初めて会ったときは、結構避けられていたが、慣れてきたようだ。

「どした?」

「そ、その…男の人と連絡先交換するの、初めてで…」

ああ、なるほどね。

「そっか。でも、いい機会じゃない?ちょっとずつ慣らしていくといいよ。」

「は、はい…」

「じゃ、とりあえず、みんなの連絡先教えてくれる?」

「「「はい、どうぞ!」」」

こらこら。一気に見せるんじゃない。混ざってしまうじゃないか。

一人、二人、三人、四人―と、クオーツの携帯の連絡先はだんだん埋まってきた。


「よし。これで全員だな。」

12人一気に登録したから、結構時間かかった。

「それじゃ、みんな。何かあれば連絡してくれ。」

「「「了解です!!」」」

「では―解散!!」


「あ~疲れた。カフラ。家に帰ろうぜ。」

と、シュッ―とカフラが出てくる。

そして、満面の笑みで―

「はいっ!」

と答える。

「それじゃ、はばたき!!」

能力、折紙操作で飛行ユニットを出す。

【はばたき、発動シマス。】

「さ。帰ろう。」


そして、飛ぶこと数十分。

着いた。なんだか見るのが懐かしく感じる。

俺とカフラは息をそろえて―

「「ただいま!!」」

と、叫んだのだった。

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