第4話 休息

森で迷っていた少女を助けてから3日。

彼女はその間、一度も起きてこなかった。

「おはよ、カフラ。」

「おはようございます。マスター。」

「どう?少女は。」

「まだ…」

「そうか…」

と思った瞬間。

部屋のドアが開く音がした。

そこには。

金髪に黄色の目の、眠そうにしている少女の姿が。

「おはよ。」

「……」

相変わらず無口だなぁ…

「おはようございますっ!」

「…おはようございます…」

ん!?

なんでカフラには口を利いてるの!?

「…ねぇ、君。名前は?」

「……」

「ねぇねぇ。名前はなんて言うの?」

「ファレメール・アルテ・トパーズって言います…」

「トパーズちゃん、ね!私はカフラ。この人は私のマスターの―」

「アルライト・リスタル・クオーツだ。よろしく。」

「…よろしくです」

「それで、なんで森に?仲間は?」

「……」

「仲間はどうしたの?」

「はぐれました。そして、迷いました。」

なんでカフラには口利いてくれるの!?

「マスター。この子、男嫌いなのでは?」

…。

「そうなのか?ファレメール・アルテ・トパーズ。」

「…フルで呼ばないで下さい。」

「じゃあなんて呼べばいいの?」

「好きにしてください。」

なんだ。普通に口利いてくれるじゃん。

可愛いなぁ。

「じゃあ、トパーズって呼び捨てでいいか?」

「…大丈夫ですけど、失礼ですよ?」

「え…な、なんで…」

「マスター、この人は、ファレメール王国の第二王女なんですよ?」

え?

今なんて?

だ、第二王女…?

「お、王女様なのか…?」

「そうです…。あまり知られたくなかったんですけど…」

「じゃ、じゃあ、呼び捨てはダメだよな!!王女様に呼び捨てなんて。」

「いえ。いいんです。あなたたちは私の命の恩人なので。好きに呼んでください。」

「そ、そっか。なんかごめんな。ところで…いろいろ聴きたいことがあるのだが。」

「…なんでしょう。」

「3日前に絡んでたやつらはなんなんだ?」

「3日前?」

「うん。3日前。」

「もしかして、その間、ずって寝ていたのですか…?」

「まぁ、そうだな。」

「……」

あら。林檎のように顔が真っ赤。

可愛いなぁ。

「それで?あいつらはなんだ?」

「…山賊です。私は王女なので、命をよく狙われます。命じゃなくても奴隷にされるところでした…。」

「山賊か…。」

あとからカフラから聞いた話だが、山賊の他に、盗賊と海賊もいるらしい。

「それで、仲間は?」

「はぐれました。」

「どこで?」

「わかりません。私はスマホを持っていないので、地図なんてわかりません。」

あ、スマホ。

完全に存在忘れてた。

「そっか…仲間は持ってるの?」

「持ってます。」

「じゃあ、電話番号はわかる?」

「わかります。」

「じゃあ、電話しろ。仲間が心配してるだろ。」

「いいのですか…?」

「いいよ。電話ぐらい。」

「ありがとうございます!」

「はい、これ。」


ピリリリリ―

『もしもし。どちら様でしょうか…?』

「…ダイヤ…」

『はっ!!!その声は―トパーズ様でございますか!?』

「そだよ。ダイヤ。心配かけてごめん。」

『いえ。トパーズ様がご無事で何よりです。ところで―今どこにおられますか?』

「私を助けてくれた方の家にいます」

『そうですか…本当に良かったです。』

「それじゃあ、明日そっちに行くから。」

『了解です』

「じゃ。」


「明日、行くのか。トパーズ。」

「うん。あんまり長くいると迷惑かかるしね。」

「…。俺も一緒に行っていいか?」

「いいけど、どうして?」

「いろいろ買いたくてね。」

「そうですか。」

「で、このあとどうするの?ずっとここにいるわけにもいかないでしょ?」

「…クオーツさん。」

「なんでしょう?」

「話しませんか?せっかくの機会なんですし。」

「そうだね。」

「それで…クオーツさん…ステータス見せてください…私のも見せますので…」

「ん?いいよ。」

お互いにステータスを見せる。


【ファレメール・アルテ・トパーズ】

Lv.61

〖特性〗…オール

〖能力〗…付与

スキル〗…なし

〖加護〗…なし


オール…?

オールってなに?

なんか怖いよ?

付与?

付与ってなに?

怖い…

「ねぇ…クオーツさん。なんで加護が2つもあるの?」

「あ、まぁ…いろいろあってね。」

「なんかずるいです…」

「あはは…」

笑って誤魔化ごまかすしかない。

「カフラさんは?」

「はいこれ。」

「―――――」

声に出ないほど驚いている。

まぁ、当然だろう。

「あの…カフラさん。」

「なんでしょう?」

「その…カフラさんは、機械マシン…なんですか?」

え?

カフラが機械マシン

マジですか…?

「カ、カフラ…?」

「…今はお答えできません。」

「「…」」

今は…か。

いずれカフラの秘密を知ることになりそうな予感がする。

それより…

「なんでカフラが機械マシンだと思ったんだ?」

機械マシンには特徴があります。」

「その特徴って…?」

スキルにマルチコピーがあるということです。確かに、機械マシン以外の種族でもマルチコピーを使える人もいます。ですが、マルチコピーを使える人は、10万人に1人と言われてます。」

じゅ…10万人に1人…

やっぱりマルチコピーっていうスキルは、結構レアだしチートなんだな。

「クオーツさん。絶対に敵にしてはいけない種族TOP3言えますか?」

絶対に敵にしてはいけない種族…

「うーん…わかんないなぁ…」

「そうですか…カフラさんは?」

「いえ、私も知らないです」

「はぁ…簡潔に言いますよ。3位は天使エンジェル、2位は悪魔デーモン、1位は機械マシンです。」

あれ…?思ってたのと全然違う…

てっきり、3位が鬼、2位が悪魔デーモン、1位が吸血鬼ヴァンパイアかと…

「なんで機械マシンを敵にしちゃダメなのか?」

「マルチコピーのせいです。」

「ああ、なるほどね。」

あのチートスキルね。

「マルチコピーは、相手に触れればその人の能力とスキルを自分でも使えるようになります。しかも、一度コピーしたらそのあとでもずっと使えるんです。相手にすると、とてもめんどくさいのです。なので、誰も、どの種族も機械マシンとは関わらないんです。関わらない方がいいんです。」

どの種族からも…って。

さびしい種族なんだな…機械マシンって。


「トパーズ、ずっと話してるのもいいけど、ちょっと外に出ないか?」

気分転換も大事だろう。

「そうですね…でも…山賊が…」

山賊の対策…

なんかできないかな…

「マスター。私のスキルの結界なら対策可能です。」

「ほんと!?」

俺じゃなくてトパーズが驚いている。

「じゃあ、お願いするよ。そうだな…俺を中心として、半径1キロぐらいは欲しいよな。」

「1キロですね。効果はどうされますか?」

「1キロ以内にいる山賊と魔物を麻痺させる。どう?できるか?」

「大丈夫です。問題ありません。」

「ならおっけー」

俺とカフラの会話に、トパーズが唖然としている。

「ねぇ…クオーツさん」

「なんだい?トパーズ」

「クオーツさんとカフラさんって、一体何者なんですか?」

んー何者かと言われても…。

「マスターは転生者、私はマスターのアシスタントでございます」

「おいっ!?」

それ言っていいの!?

よくないよね!?

「転生者…初めて見ました…」

「そうなのか?」

「はい。転生者なんて珍しいですからね…」

「ふーん」

珍しいのか?

俺はてっきり、転生者なんてたくさんいると思ってたんだけど。

違うみたいだな。

「外に出ましょうか。あと…結界!!」

カフラが結界を張る。

「これで大丈夫だろう?トパーズ」

「うん。」

俺とカフラとトパーズは、外に出た。


「あー…暑くない…?」

「…?そうですか?」

「このくらい普通だと思いますよ?」

……。

元ひきこもりにとってはキツイんですよ!!

「あ、そうそう。トパーズに聞きたいことがあるんだけど」

「なんですか?」

「ファレメール王国ってどこにあるんだ?」

「そうですね…ここからだと、だいたい北東の方角に約300kmぐらいですかね。」

300km…

遠くない?

車でだいたい4時間ってとこかな?

「どうやって移動するんだ?」

「本来なら馬ですが…ここに馬はいないので、歩きですかね。」

歩き!?

いやいやいや。

約300kmを歩くのは無理!!

マジ無理!!

「あ、でも、マスター。マスターなら作れるんじゃないんですか?」

「へ?な、何を…?」

「馬を。」

「へ?」

「だーかーら!馬を作るんですよ!!」

「だ、誰が?」

「マスターがっ!」

いい案なんだけど…

「いや、俺、馬の作り方知らない…」

「……………」

カフラが、この役立たず、というような目で俺を見る。

「いや、カフラ、そんな目で俺を見ないでくれない!?」

「だって、ほんとのことじゃないですか!?なんで作れないんですか!?」

「作ったことがないからだっ!!」

お互いが口喧嘩していると、トパーズがひょこっと顔を出して言う。

「あ、あの~。馬じゃなくても、何か代わりになるようなものは作れないんですか…?」

「「……………」」

その手があったか。

「いい案だ。トパーズ。」

「あるんでしょうね?マスター。」

「ああ。あるさ。がな!」

「「……?」」

2人とも首をかしげる。

「まぁいいや。それは今日の夜作るとして。今は散歩だ、散歩!!」

「ですね~」

散歩、再開っ!


「わぁ…いい眺め…」

「だな。」

「ですね。」

歩いて約1時間。

着いたのは、見晴らしの良い丘の上だった。

「あ!クオーツさんの家が見えますよ!!小っちゃいですね!!」

「ほんとだ。小さいね。」

と。

ぐううううう~と。

トパーズのお腹からかわいらしい音が。

トパーズは顔を真っ赤にして―

「いっ、いやっ、違うんですよ!!こ、これはっ…そのっ…」

「はははっ。そんなこともあろうかと、ご飯を作っておいたよ。」

「「い、いつの間に…」」

カフラまで驚く。

「あー…まぁ、それは置いといて。食べようか。」

「食べましょうっ!!」

俺はイスと机を作って、ごはんを出す。

そして、なんと言っても、とてもおいしそうなごはん。

「マスター。よくこんなの作れましたね。男性は料理が苦手なものだと思ってましたが。まさか、折り紙じゃないんですよね?」

「ん?そりゃもちろん、俺が自分で作ったぞ。決して折り紙ではない。」

「…マスターって不思議な方ですよね。」

「え?なんて?」

「なんでもないですっ!さ、食べましょう!!」

「そうだな」

「わ、私…もう待てませんっ!!!早く食べたいです!クオーツさん!早く…!!」

「ははは…」

トパーズって、食いしん坊なのかな?

まぁそんなのどうでもいいか。

じゃあ―

「「「いただきます!!」」」

俺とカフラとトパーズがそれぞれ一口食べる。

そして、沈黙。

少ししてから―

「お、おいしいぃぃぃっ!!!!」

「おいしいです。」

「うん。おいしいな。」

おいしかった。

ものすごくおいしかった。

「も、もしかして…これからずっとマスターに料理を作らせれば…私は毎日こんなにおいしいものを食べることができるんじゃ…」

こーらこらこらカフラくん?

そんなこと考えないでね?

「うちの城で雇いたいぐらいです…」

「いやいやいや…」

そして、あっという間に完食。

「おいしかったですぅ…」

「食後と言えば、デザートだな。」

デザートというセリフを聞いたトパーズが目を大きく見開く。

「マ、マスター…デザートまで作ったのですか…?」

「ん?そうだよ。ケーキだけど。」

「「ケーキっ!?」」

……。

「マスターって女子力高いですよね…」

「ほんとにです…」

「そうか?まぁ…元々一人暮らししてたから、自分でご飯作ってたし。結構料理は得意なんだ。」

「「へぇ~」」

「そういえば、2人とも、何ケーキが好きなの?」

「私はチョコケーキ!!」

トパーズはチョコ。

「カフラは?」

「ショートケーキ」

シ、シンプル…

ま、シンプルイズベストって言うしね。

「わかったよ。今度作ってみるから、時間あったら食べにおいで。トパーズ」

「わかった!食べに行く!!」

「マスター、私にも作ってくださいね!?」

「えーどうしよっかなぁ~」

「なっ!?」

ぷくーっとカフラの頬が膨らむ。

「マスターのケチッ!なんでトパーズちゃんにはよくて、私にはダメなんですか!?差別なんですか!?」

あーめんどくせぇ…

「あーもうわかったよ…」

「やった~」

機嫌よくなりやがって…

変な約束をしてしまった…


「さ。ご飯も食べたし。って…ええ…」

2人とも…すやすやとお昼寝してやがる…

のんきだな…

俺も眠りたいところだが…

ちょっと作業でもするか。

――――――

―――――

――――

―――

――

―。

気付けば外は赤く染まっていた。

「あ、あれ?」

「あ、目覚めましたか?」

「ん?ああ、トパーズか。…ん?」

なんだこの柔らかいものは…。

しかも、とてもいい匂いがする。

なんだこれは。

「あ、あの…クオーツさん…その…恥ずかしいのですが…」

「へ?」

我に返った。

柔らかいものというのは、トパーズの太ももで。

いい匂いというのは、トパーズの匂いであって―

つまり、これは。

「ひ、膝枕…?」

「わわわ…言わないで下さい…」

「ご、ごめんっ!」

体を起こして、周りを見渡すと―

「マスター?」

と。

ものすごーく低く冷たい声でカフラが俺を呼ぶ。

「カ、カフラ…おはよう…」

「とても気持ちよさそーに寝てましたね」

「……」

言い返す言葉もございません。

「ねぇ、マスター?」

「はい」

「マスターは少し浮かれているんじゃないんですか?この世界に来てからまだ数日なのに、山賊倒したくらいで強がってませんか?山賊倒して女の子に懐かれて、浮かれてるんじゃないんですか?…………」

というような説教を約2時間ぐらいされた。


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