小話

アルベルトの休日その1

 よう、俺だ。アルベルトだ。

 ……待て、何も言うんじゃねえ。いいか、何もだ。

 俺はここ一、二週間の記憶がない。そういうことになってる。だから余計なことは言うんじゃねえ。

 何があったとか何を言われたとか俺は何も知らねえんだ。いいな!!

 ……さて。そういった話とは全く、一切、微塵も、これっぽっちも関係のない話になるんだが──


「……女は何か、しばらくいいな……」


 今の俺はそういう気分だった。




 アルベルトの休日その1




 〜午前中〜


「……ぐう」


 アルベルト、昼間まで寝る。


 〜午後〜


「……腹減ったな」


 アルベルト、昼過ぎになってようやく飯を食う。


 〜夕方〜


「…………はぁ」


 アルベルト、街中の公園で溜息をつき1号に慰められる。


「マスター、この間漫画で読んだ失業したおじさんみたいね」

「うるせえ。誰が失業者だ」

「でもそっくりよ? 溜息つくところとか」

「ほっとけ」

「女を追っていないと覇気がなくなるわね、マスターは」

「俺にだってそういう気分のときぐらいある」

「落ち込んでるのかしら。しょうがないわね、撫でてあげるわ」


〜夜〜


「いい気分です」


 アルベルト、森に出向いて花を呼び出し水をやる。


「暗くてちょっとじめじめしてて、ここはいい場所ですねぇ」

「気に入ったか」

「はい。……あ、もうちょっと葉っぱに水かけてください……そうそう」

「注文の多い奴だな。どっちが主人か分からねえじゃねえか」

「それはそうと今日は大人しかったですね、マスター」

「俺にだってそういう気分のときぐらい」

「そんなに小さいって言われたのがショックだったんですかぁ?」

「ほっとけっ!!」

「まぁまぁ。マスターには私たちがいますよ、うふふ」


〜夜(花に水をやった少し後)〜


「うむ、美味いぞマスター」


 アルベルト、2号に森の獣の肉をやる。


「これも美味いしあれも美味いぞ」

「どれ食っても美味いって言ってるじゃねえか」

「うむ。マスターのくれたものは大体美味い」

「適当だな、おい」

「事実じゃからな。美味いものをくれるマスターは優秀じゃ。うりうり」

「すり寄ってくんじゃねえって!」


〜夜中〜


「わはは、楽しいぞマスター!」


 アルベルト、深夜の森で4号を好きなだけ光らせる。


「花や霧がいると光るな光るなとうるさいからなー」

「しょうがねえだろ。あいつらとお前は捕食関係にあるんだろ?」

「うむ。たまに腹が減って食べたくなるときがある」

「食うんじゃねえぞ、いなくなられると困る」

「なら良質な餌がほしいな。故郷のものが食べたい」

「高次元の食い物があるわけねえだろ!」


〜夜中(4号を遊ばせた後)〜


「これは美味い。こっちは不味い。あっちも不味い」


 アルベルト、森にあるものを霧に食べさせる。


「この森の評価は星二・一といったところだ」

「五つ星評価とかお前は食通か」

「何を言う。こちらの世界のものは何でも食えるのだから、俺様以上の食通はいまい」

「じゃあ今まで食った中で一番美味かったのは?」

「アルデバランにあった聖堂の椅子の脚だな。あれは最高だった」

「全っ然意味がわかんねえよ!!」


〜早朝〜


「ばびゅーん!」


 アルベルト、朝焼けの空を6号に乗って飛ぶ。


「あー、いい気分だぜ。他に誰もいねえってのはよ」

「マスターが楽しいならあたしも楽しいよー!」

「そうかいそうかい。あんま飛ばすなよ、落ちちまう」

「はーい。がおー!」

「火も吹くんじゃねえよ馬鹿!!」


 その日は大空に光の柱のような巨大な閃光が見えたとか何とか。


 おわり。

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