第3話 そいつの名前はヒナタ
翌日。俺は一週間ぶりにまともな気分で目覚めることができた。
理由は簡単。ベッドで寝たからだ。文明とはかくも素晴らしいものかと俺は感動した。
で、何で俺はベッドで寝てるんだ?
「あ、おはようございます」
オークどもの肉奴隷が話しかけてきた。暗めの白色の長髪。オークどもが狙うのも納得の引き締まった身体。顔もそこそこ可愛いし、胸もそこそこでかい。
そいつが俺に向かって笑顔で挨拶していやがる。何があったんだ。
……思い出した。こいつはどういう理由か、俺を助けたんだった。でもってその理由を聞く前に俺が気絶したんだったな。
「気分はどうですか?」
「お前、何がしてえんだ?」
質問は同時だった。首を傾げる女に俺は続ける。
「俺を助けたって一ベルンの得にもなりゃしねえだろ」
「それはそうですけど、あなた今にも死にそうでしたし……」
「ほっときゃいいだろそんなの」
「でも、普通助けますよ?」
俺は愕然とした。普通は助けるから助けた。俺には全く存在しない概念だった。
「何でそんな変な顔してるんですか。あ、これ食べます?」
女は衝撃的な事実を受け入れられずにいる俺に向かって変な顔呼ばわり。失礼極まりないが、食い物を差し出してきたので許す。
「食う」
渡されたパンと果物を口に放り込み、咀嚼して飲み込む。そして喉に詰まらせる。
苦しむ俺に女が水を差し出してくる。慌てて受け取って飲み干す。
「し、死ぬかと思ったぜ」
「急いで食べるからですよ。まだオークたちは来ないから平気ですよ?」
流石にオークどもにバレると何かされるらしい。恐らくは俺がしばかれるのだろう。やだな。
お言葉に甘えて俺は久しぶりのまともな食事を堪能した。
「私、ヒナタっていいます。あなたは?」
「アルベルト・バーンシュタイン。三十三才の独身」
「あ、結構年上なんですね」
つい余計な情報まで付け加えちまった。
「おっさんで悪かったな。そのうちお前だっておばさんになるんだよ」
「む、酷いこと言いますね。ベッドも貸してご飯もあげたっていうのに」
「それは感謝してるがな」
これは本心からの言葉だった。それどころか俺はちょっとした感動まで覚えていた。ベッドを貸し与え、食事を与え、それでいて悪びれていない。
なんて……なんて……。
……なんて都合のいい女なんだろうか! これはもうヤっちまうしかねえ!!
底なしのお人好しの気配がするし、多分、襲ったって許してくれるだろ。
そうと決まれば、と言いたいところだったが二つ問題があった。
一つ、もうすぐオークが来そう。二つ、身体がだるくてヤるどころじゃない。
自分で言っておいて何だが、おかしい。俺はこの女がオークに襲われるところを見て、自分でも襲うためにここにいる。なのにここにいるせいで疲労困憊になって折角の機会を無駄にしている。
本末転倒とはこのことじゃねえか! どうなってやがる!
「項垂れてどうしたんですか? もしかして、身体が痛むんですかっ!?」
がっくりしている俺に本気で心配した声をかけてきやがる。情けなくて泣けてきた。
「いや、いい。気にすんな」
「そうですか……」
ヒナタが不安そうな顔をしていたが、オークが入ってきた。
「今日は畑仕事ブヒ」
はいはい畑仕事ね……ってまたかよ!
いい加減にしろこの豚野郎どもが、人間様をナメやがって。鍬を振るのも楽じゃねえんだぞ。
怒りに突き動かされた俺はオークに飛びかかり、顔面に拳を叩き入れて床に沈めた……という妄想をした。
実際にやったら一瞬で殺される。それぐらい身体能力に差がある。
「へいへい」
仕方なく俺は指示に従うことにした。ところが。
「ま、待ってください! その人はもう身体がぼろぼろなんです、少し休ませてあげてください!」
「ブヒ?」
ヒナタがオークの腕を引っ張って嘆願していた。
今度は本気で俺は感動していた。今度という今度はマジだ。こいつかなりいい奴じゃねえか。ちょっと涙が出てきた。
「ヒナタ、お前……」
「お願いします!」
オークへと必死に頭を下げるヒナタ。
だが俺には分かっていた。こんな頼みをオークが聞いてくれるわけがない。きっと刃向かったことを理由にさらなる陵辱がヒナタを待っているに違いない。想像したらちょっと元気になってきた。悪くねえ展開かもしれねえ。
「分かったブヒ。今日はお休みブヒ」
ほらな。やっぱり断られて……ん?
「え、マジ?」
「まじブヒ」
「ほんとですか!?」
「ほんとブヒ」
……通っちまった。予想外の出来事に俺は固まる。
「今日は好きにするブヒ」
「お、おう」
困惑する俺を尻目にオークのでかい手がヒナタの腰を掴む。
「あっ……」
「お前には今日も働いてもらうブヒ」
その瞬間、俺のやることは決まった。
「……ああ、身体が痛くて動かねえ。ちょっとベッド借りるわ」
「えぇっ!? ア、アルベルトさんもここに残るんですか!?」
「ああ、悪いな……動けねえんだ。ちくしょう。できるんならお前を助けてやりてえってのにこの身体がよう」
腕で両目を覆う仕草をしておく。そのまま俺はベッドに寝転がった。
「じゃあ始めるブヒ」
「ちょ、ちょっと待って、待ってくださいっ。あっ!」
御構い無しにオークがヒナタの服を脱がす。意外と丁寧に。
──そこから先は最高のショーだった。
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