第200話 200話達成記念スピンオフ☆R15乙女ゲーム『三好一族の淫棒』松永久秀編バッドエンドルート
あの伝説のR18ゲーム『三好一族の淫棒~逆ハーレムの乱~』の家庭用ゲーム機版が、R15になって発売された。
まだ希美が柴田勝家になる前のその日、早速ソフトを手に入れた希美は、お気に入りの松永久秀ルートをプレイし始めた。
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「あれ?ここ、どこ……。トイレにいたはずなのに!」
わたしは、『のぞみ』。高校二年生。JKってやつよ。
実は学校に行く途中、大きい方を催しちゃって……。
慌てて公園のトイレに駆け込んだの。
そうしたら……。
なんと、和式しか無かったのよ!!
今時なんなの、この公園トイレ。昭和なの?
でも、幸いな事に紙はたっぷりあったし、黄門様が爆発寸前だったから、私は下着を下ろしてしゃがみこんだの。
(しばらくお待ちください【美しい花畑の映像】)
ふう。スッキリしたわ。
紙をカラカラして、丁寧に拭く。
うん、もうオッケーね!
わたしは、レバーを引いてブツを流した。
すると、不思議な事が起こったの。
流れていくのは、ブツと紙ばかりじゃなかった。便器から床から床に置いてあった大量のトイレットペーパーから、全てが吸い込まれて暗い穴に流れていって……。
もちろん、私も。
あっという間だった。立ち上がる間もなかった。
気がついたら、私は、う○こ座りでどこかの日本庭園らしき所にいたの。
……丸出しでね。
これ、人に見られたら、絶対痴女だと思われるよね!?
誰かが来て警察案件になる前に、とりあえず、はかなきゃ!
ジャリ……
「誰だ、お前。女中ではないな。どこぞの間者か?」
終わったー!!
我が人生終わったーーー!!
背後から聞こえた男の声に、私は慌てて下着を上げようとして、首もとにひやりとした感触を感じた。
「動くな。斬るぞ」
いやいやいや。はかせて?
目線だけを下にやると、首のあたりから前に伸びる、長細い光。
「か、刀?」
銃刀法に違反してませんかね!?
背後の男は言った。
「手を頭につけたまま、静かに立ち上がりこちらを向け」
え?はいてないんすけど……
―――――――――――――――――――――
→はいて立ち上がる。
はかずに立ち上がる。
―――――――――――――――――――――
わたしは、はいてから立ち上がり、男の方を向いた。
そしてギョッとする。
その男が、渋いイケおじだったからじゃない。
ちょんまげに着物の、渋いイケおじだったからだ。
「女。そのように足を出して、さては、わしを体で籠絡しようとしておるな?よし、その挑戦、この『松永久秀』が受けて立つぞ!服を脱げい!!」
―――――――――――――――――――――
脱ぐ。
→脱がない。
―――――――――――――――――――――
私は、当然脱がずに、このセクハラ親父の股間を蹴り上げた。
その後、私は捕まって、牢に入れられた。
刀で殺されなかったからよかった。
それにしても、牢屋に入れられたのなんて、初めてだ。なんか、ドキドキする。
牢屋付きの家を建てるなんて、あのちょんまげおじさんは、やはりど変態に違いない。
私は、どうなるんだろう。
このままここに監禁されて、変態ぷれいを強要されるのだろうか。ムチとかロウソクとか使って。
痛いのは嫌だな……。
せめて、私がしばく側だといいんだけど。
そんな埒もない事を考えていると、あのちょんまげおじさんがやってきた。
「女、わしの股間を蹴りあげるとは、なかなか肝が座っておるな!気に入ったぞ!わしの側妻になれ!」
あ、どMの方だ。よかった。
私が、しばく方ですね。把握した。
それにしても、そばめ。聞いた事ある。
「あの、そばめって、めかけとか愛人って事ですよね?嫌だって言ったらどうなるんですか?」
「殺す」
―――――――――――――――――――――
→そばめになる。
そばめにならない。
―――――――――――――――――――――
「なります。是非ならせてください」
選択肢などなかったんや……。
こうなったら、そばめ人生満喫してやる。こいつをメロメロにして、こいつの金で贅沢三昧してやる!
「では早速、ムチをください」
「鞭など欲して何をするつもりだ?」
「あなたを、全力でしばきます」
「何故!?」
そこから私は、このちょんまげおじさんのそばめになった。
「今宵、わしの寝所へ来い。かわいがってやろう」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【ミニゲーム】
あなたは、たまたま落ちていたムチとロウ
ソクを拾って、寝所へやってきた。
これで、松永久秀をかわいがってやろう!
松永久秀の体に出てきた☆を、タッチペンで
タッチして、ムチを入れてね。
体に○×△□のマークが出たら、そのマークの
ボタンを押してロウソクを垂らそう。
それでは、夜伽スタート!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ハアッ、ハアッ、ハアッ」
ちょんまげおじさんは目隠しされたまま、荒い息をして、ふんどし姿で布団に突っ伏している。
「こんな、こんな世界があったのか……///」
おじさんは、新しい扉を開いてしまったようだ。
よかった、女王様のバイトをしている友達からいろいろ話を聞いていて。持つべきものは友達である。
「それで、殿様。殿様は、松永久秀という武将で、三好家に仕えているのですね?」
「そうだ。お前は本当に、三好三人衆から命じられて潜入した忍びではないのか?」
「誰に向かって、『お前』なんて言ってるんだい!?」
ピシィッ!!
「ああっ!申し訳ござらぬ、のぞみ様、いや、お方様!!」
久秀おじさんが悶えている。
私は、おじさんを四つん這いにさせてその上に座って考えた。
うん。これ、タイムスリップだわ。
松永久秀、聞いた事あるよーな、ないよーな。
三好三人衆……。どっかで似たような名前を聞いたような……?
……ああ、思い出した。チャンバラトリオだ!
三好三人衆とは関係なかったわ。でも、想像するに、三好って名前の人が三人集まって作ったお笑いグループみたいな、そんな感じかな?
うーん、時代はやっぱ戦国時代?いつ頃だろう。聞いてみよ。
「殿様」
「なんだ?」
「織田信長って、まだ生きてます?」
「生きておるぞ。文のやり取りをしておる」
「なるほど。少なくとも1582年よりは前の話ね」
本能寺の変ダンスは、テレビで繰り返し見たから、年号覚えてるんだよね。
ちょっと待てよ。戦国時代は戦ばかりの時代でしょ?
ここも危なくない?
「殿様、殿様は今、戦をしてますか?」
「真っ最中よ」
よし、可及的速やかに逃げよう。
ぷれいだと言って、久秀おじさんを縛り上げた後に、ここを脱出……。
ダメだ。ここを出た所で、他で死ぬ未来しか見えない。
しばらくは様子見で、この人をしばいて生きていこう。
とはいえ、この人の状況も聞いておかないと!
「つまり殿様は、三好三人衆とかいう愉快な人達と戦をしているのですよね?」
「そうだ。敵は三好三人衆以外にもおるがな」
「勝てるのですか?」
「負けはせん。……怖いのか?大丈夫だ。わしがのぞみを守ってやろう。のぞみには、指一本触れはさせぬ」
【四つん這い目隠しふんどし一丁の松永久秀の美麗スチル『お前はわしが守る』】
―――――――――――――――――――――
→しばく。
しばかない。
―――――――――――――――――――――
ビシビシィ!!
「何故エエ!?」
「のぞみ様だろ!」
「ごめんなさい、のぞみ様ぁ!!」
久秀おじさんは、まだどMの一丁目。
打たれてからの「ありがとうございます!」が言えるようになってからが、玄人の世界なんだ。
わたしはその夜、久秀おじさんをしばき倒して、なんとか貞操を守った。
その後、わたしは久秀おじさんに気に入られ、どこに行くにも連れ回されるようになった。
おじさん曰く、「本当はわしの首に縄を巻いて、連れ回してもらいたい」のだそうだ。
……絶対嫌だ。その恥辱ぷれいは、わたしにも辱しめだ。
「堺の町って、外国人も多いんですねえ!」
「南蛮人の事か?堺は、南蛮貿易が盛んだからなあ。何か気に入ったものがあれば、買ってよいぞ」
「え!本当に?嬉しいー!」
わたし達は輸入物を扱っているお店に入った。
アンティークの山だ。
小物もアクセサリーも、現代なら好事家が高値で取り引きしそう。
でも、わたしはどっかのちょび髭おじさんが唸るような、『いい仕事』しているものはどうでもいいのだ。
やっぱ、可愛いアクセサリーでしょう!
アクセサリーを物色していると、トントンと肩を叩かれた。
「のう、これなんか、のぞみ様に似合いそうだ」
見ると、革のムチである。
これが私に最も似合うと?
アクセサリーではなく?ドレスだの、ガラス細工だのでもなく?
「……」
わたしは半眼で、どMおじさんを見た。
そこへ店主が寄ってきて説明を始めた。
「いやあ、流石松永様、お目が高う御座います!それは、ある伴天連が持ち込んだものでして。彼らはそのムチを用いて己れを打ち、自分を罰するのだそうです」
「なんと!それは良い趣味だな、伴天連というのは。あれは呪うべき教えではあるが、それだけは理解できるぞ」
全然、理解できませんね。あなたも、伴天連も。
「のぞみ様、そのような首飾りより、こっちのムチが良いと思うぞ?」
―――――――――――――――――――――
→アメジストの首飾り。
どM南蛮人宣教師の革ムチ。
―――――――――――――――――――――
「首飾りください」
「ええーー!?ヒインッ」
残念そうな久秀おじさんの尻を、ギリッとつねる。
誰がムチとボンテージの似合う女だ!(ボンテージまでは言っていない)
だが、久秀おじさんはなんだが嬉しそうに追加注文をした。
「こちらの革ムチもくれ」
【照れ臭そうに革ムチをプレゼントする松永久秀の美麗スチル『お前に似合うと思って』】
久秀おじさんは顔を赤らめて、革ムチをわたしにくれた。
「これを使うのはわしだけにせよ。他の男に使うのは許さんぞ」
当たり前だ。
わたしが、そこらの男を見境なくムチでしばく女だとでも言うのか。
イラッとしたので、早速使い心地を試してみる。
ビシビシィッ!!
おじさんは幸せそうだった。
これは良い買い物をしたのかもしれない。
でも、店主さんがすごくドン引きしてたので、外では使わないようにしよう。
「あ、久秀と側妻ののぞみではないか。久秀にねだって買い物か?卑しい女め!」
声がした方を見ると、店の外に知った顔の人が立っていた。
三好義継君とその家来の金山信貞さんだ。
義継君は、久秀おじさんの主なんだそう。
でも、私からしたら、ヒモの居候だ。
偉そうだし、年が近いからか、すぐつっかかってくるんだ。
わたし、俺様キャラは苦手なのよ。
義継君は、なんか顔を赤くして、さらにわたしをディスってきた。
「お前、その革ムチ、……お前に似合うと思う……(ゴニョゴニョ)」
くっそう!なんなの、みんなして。革ムチが似合う女って、すごく、不本意なんだけどっ。
ムカついたから、突発性難聴のふりしてやる。実際小声だったし。
「はあ?あんだってえ?」
ちょっと、志村○んが混じっちゃったのはご愛敬よ。
義継君は、
「な、なんでもないわっ。バーカ!醜女ー!」
と言って去っていった。
ガキかな?
「暗殺……主は織田信長に……」
隣から不穏な言葉が聞こえる。
久秀おじさんの闇スイッチが入ったかもしれない。
―――――――――――――――――――――
→義継の暗殺をいさめる。
義継の暗殺をいさめない。
―――――――――――――――――――――
「ダメだよ、殿様。今はあの人が必要って言ってたじゃない」
「のぞみ様がそう言うのなら……」
むう、と口を尖らせた久秀おじさんが少し可愛い。
わたしは自然におじさんの手に指を絡ませた。
びっくりしてる。
でも、すぐに嬉しそうに笑って、わたしの手をぎゅっと握った。
【手繋ぎデート中の松永久秀デレ顔美麗スチル『女子と手を繋いで町中を歩くなど、なんという羞恥かハアハア』】
その後、なんだか久秀おじさんは忙しくなり、会えない日が続いた。
私は退屈だ。
思い出すのは、堺の町で手を繋いだあの日の幸せそうな久秀おじさんの顔。
ムチでしばいた時の久秀おじさんの恍惚の表情。
お灸の熱さじゃ足りないというおじさんに、蝋燭の蝋を月代頭に垂らした時の熱がる様。
わたしの足で急所を蹴ってほしいと懇願する久秀おじさんの土下座姿。
思い返すとため息が出る。ドキがムネムネする。
時々現れる義継君をしばいたんじゃ、全然物足りない。
義継君の鼻水垂らした泣き顔じゃ、全然萌えない。
ああ、やっぱりわたしは錯乱しているようだ。
これじゃ、まるで―――。
ある日、久秀おじさんが戻ってきた。
「のぞみ様、引っ越すぞ!」
「え?どこに!?」
「信貴山城だ!今、三好三人衆よりもこちらの方が優勢でな、信貴山城に戻れる事になったのよ!わはははっ」
そう言って、久秀おじさんはわたしの体を持ち上げ、ぐるぐる回した。
「ちょっ、殿様!目が回っちゃうよ」
「わははははは」
久秀おじさんは、楽しそうにわたしといっしょにぐるぐる回る。
そしてそのまま、わたしごと倒れ込んだ。
「もうっ!殿様っ」
わたしは倒れた久秀おじさんの胸の上で、顔を上げて睨んだ。
でも、思ったより、おじさんの顔が近くて。
顔が熱い。
思わずそらしかけたわたしの顔を、おじさんが両手でホールドした。
「顔を隠さんでくれ。会いたかったのだ。ずっと」
久秀おじさんの真剣な眼差しがわたしを射抜く。
おじさんの鼓動がわたしの鼓動と重なって、一つの曲のようだ。
「わたしも、会いたかった」
「浮気しなかったか?」
「し、してない……」
ちょっと義継君をしばいちゃったけど、あれはノーカンだよね……!?革ムチじゃなくて、拳だったし。
久秀おじさんがわたしに口づけた。
目を見開くわたしに、おじさんは言った。
「戻ったら、のぞみ様をわしのものにしようと思っていた」
心臓が、どくんと跳ねた。
わたし達、まだぷれい止まりだったから。
貞操を守ろうと、全力で久秀おじさんをしばいていたから。
「嫌か?」
わたしは、首を横に振った。
もう、貞操は守らなくていい。わたしは、この人を……。
「好き」
涙といっしょに、そんな言葉が溢れた。
急にこの世界にやって来て、問答無用に愛人にさせられて、がんばっておじさんをしばき倒した。
色々堪えてきたものが、今、この人を受け入れて、全部決壊したんだと思う。
そんなわたしを久秀おじさんは強く抱きしめた。
「のぞみ様の全てを愛しておる」
【松永久秀の愛と加齢臭に包まれる美麗スチル『のぞみ様の全てを愛しておる』】
(暗転)
久秀おじさんは、ぐちゃぐちゃのわたしを全部まとめて愛してくれた。
わたしはこの日から、身も心も、この人の側妻になった。
信貴山城に移ったわたし達は、ラブラブで過ごした。
すぐに戦で大和国に出陣する事になったけど、久秀おじさんはわたしを小姓姿に変装させて、連れていってくれた。
戦争中だ。久秀おじさんは忙しそうだったけど、わたしと過ごす時間を大事にしてくれて、わたしもその愛に全力の革ムチをもって応えた。
久秀おじさんは、「敵に斬りつけられるより、のぞみ様に打たれた方がずっと昂る」なんて言ってくれる。
……うん。敵に斬りつけられても昂るのか。
わたしのお殿様が真性過ぎて怖い。
それから時は流れ、大和国に来て、何ヵ月も経った。
いい加減決着をつけて欲しい。
そんな風に思っていた矢先の事だ。
「のぞみ、わしは今夜奇襲をかける」
久秀おじさんの突然の宣言だった。
「え、奇襲、ですか?」
「そうじゃ。このまま睨みおうて、小競り合いを続けておるわけにもいかん。冬が来るでな。やつらの本陣である東大寺に奇襲をかけてやるつもりだ」
―――――――――――――――――――――
奇襲が気になる。
→東大寺が気になる。
―――――――――――――――――――――
「東大寺……」
奈良の大仏のあるあの東大寺だ。
三好トリオは今、そこを本陣にしてる。
あそこに奇襲か。
東大寺に行くのなんて、中学の修学旅行以来だ。
あの時は、神社仏閣廻りに古墳廻りとスケジュール目白押しで、大仏なんて、ベルトコンベヤ状態でじっくり見てる暇はなかった。
今回はじっくり見学……できるわけないな!奇襲だもんな!
あっちの人数を考えると、ヒットアンドアウェイの精神で突っ込んでいくしかないかもしれない。
これまでは、トップの久秀おじさんの小姓だから、ほとんど前線に出ずに守られていたわけだけど、本陣に奇襲なら死んじゃう可能性だって……。
これまでだって、すぐ目の前で合戦は行われてた。
でも、自分が戦うわけじゃないから、どこか現実味がなかった。
離れた立場で、この時代の人達を観てたんだ。
でも、奇襲についていくとなったら、わたしは傍観者でいられない。
殺して殺される世界のただ中に、突っ込んでいくのだ。
殺される……。
死ぬのは、怖い。
すごく、怖いよ。
青ざめたわたしを安心させるように、久秀おじさんの大きな手がわたしの頭に乗せられた。
「安心せい。のぞみ様は、奇襲の前に、安全な所へ逃がしてやる」
「わたしを安全な所へ……。でもそれじゃあ、殿様が!」
「必ず、帰ってくる。のぞみ様の元へ。そうだ。帰ったら、おかえりのムチをくれ。熱いのを頼むぞ?」
―――――――――――――――――――――
→いっしょに行く。
着いていかない。
―――――――――――――――――――――
久秀おじさんは笑っている。この笑顔は見納めなの?
死ぬのは、怖い。
でも、この人を失って一人で生きる方が、もっと辛い。
「わたしも、いっしょに行きます!」
「馬鹿を申すな!怖いのであろう?女のそなたに、戦場は酷な事だ。それに、のぞみ様には生きていてほしいのだ」
「いいえ、殿様。わたし、殿様の傍で共に生きて共に死にたい。正直言うと怖いけど、わたしは着いていくよ……!」
久秀おじさんは、わたしを抱きしめた。
「わかった……。比翼の鳥のように共に生き、死しては連理の枝となろう」
「……うん」
何を言っているのかちょっとよくわからないですね。
でも、わたしも奇襲に連れていってもらえる事になった。
戦国時代の夜は、闇が深い。
わたし達松永軍は、夜陰に紛れて東大寺にこっそり迫った。
鎧に付けてある布が金属音を吸収し、動いても音は鳴らないので、三好トリオさん達はわたし達の動きに全然気づいていない。
久秀おじさんが号令をかける。
「かかれーい!!」
「「「「「うおおおおおーー!!!」」」」」
不意を突かれ、三好トリオ勢が大混乱に陥ってる。
三好トリオ軍は、文字通りチャンバラトリオ軍になって、慌てて槍や刀をとって応戦してるけど、油断してたんだろうね。こちらが優勢だ。
久秀おじさんの元に、どんどん報告が来る。
「敵侍大将の丸田角兵衛を討ち取りました!」
「浦中鰤衛門、矢頭介父子を討ち取ったり!」
「佐東塩之進殿、御討ち死に!」
そんな中、おじさんの家来の人が、やって来た。
肩から何本か矢を生やしているし血まみれだし、夜中に見たら漏らす自信がある。
あ、今、夜中だった。こんな時に何だけど、超トイレに行きたい。
家来の人は、「三好三人衆の姿、どこにも見当たりませぬ」と報告している。
久秀おじさんは、思案顔で顎を撫でた。
「逃げたとも思えぬが……。どこぞに隠れておるに違いない。よし、長川平蔵を呼べ!」
「な、長川!あの『鬼平』をお使いに!?」
「そうだ。早う!時が惜しい!」
「ははっ」
家来の人が駆けていく。
わたしは、もじもじしながら聞いた。
「長川平蔵さんって?」
「長川平蔵はわしの家臣なのだが、奴は火が好きでな。火付けにかけては右に出る者はおらん。故に、火攻めの時には重宝しておるのだが、火が好き過ぎるのが玉に傷なのよ。火攻めとなると、奴は興奮して、嬉々として敵を苛む。それが、地獄の鬼のように見えるから、奴は『鬼平』と呼ばれ、恐れられておるのさ」
「火付けが大好きな鬼平さんかあ……。色々ヤバイですね!」
「?おお、来たようじゃ」
「殿、火付けですか?!ハアハア」
長川平蔵さんがやって来た。
渋いおじさんだ。でも、ヤバイ。既にハアハア言ってるし。
「お前の好きな火付けよ。励め!」
「ふ、ふおおおお!!燃やす燃やす、燃やし尽くしてやりますぞおっ!」
「おいおい、味方は燃やすなよ、わはははっ」
「気をつけまする、ヒははっ」
わ、笑えないよお。笑い声まで、『ヒ』とか言ってる。もう、ホント、色々ヤバイよおー!
ついでに、わたしの膀胱もヤ・バ・イ。
「と、殿様……、ちょっと用を足しに行ってもいいですか?」
「何?!よし、ちょうど喉が渇いておったところ……」
よし、じゃねえわ。それはわたしの守備範囲を越えている。
「本気でキモい。それ以上言ったら、革ムチ封印するから」
「のぞみ様、お許しをっ!!わかった、あまり遠くに行くな。この辺りはもう我等しかおらんが、離れると敵と会うかもしれぬ」
「わっかりましたあ!」
わたしは走って、その場を離れた。
人気のない場所を探しながら、小走りする。どこも人がいる。
探して探して、いつの間にかずいぶん離れた場所に来ていた。
やっと見つけた建物の陰に入って、用を足す。
その時、建物の中から声が聞こえた。
「何か激しく水を流すような音が聞こえぬか?」
「松永軍かの?」
「わしら、いつまでここに隠れておればいいんじゃ……」
「松永軍が引くまでよ。それより、三好の殿達は逃げたのか?」
「わからん。松永軍に押されて、大仏殿の辺りに逃げ込んだらしいが」
わおっ!これ、なかなかの情報じゃない?
わたしは急いで久秀おじさんの元へと戻った。
「殿様っ、三好トリオの場所がわかったかも!」
「三好鳥男?誰じゃ、そりゃ?」
……とにもかくにも、わたし達は、三好鳥男がいるらしい大仏殿に放火する事になった。
大仏殿の辺りは、敵がうようよしていて、松永軍と交戦中だ。
わたし達は、その隙間をかい潜って、大仏殿に放火しなくちゃならない。
できるだけ、戦闘は避けたい。
長川平蔵さんが持っている特製油が溢れたら放火に手間取るんだそうだ。
長川平蔵さんは、何故そんな油を常備しているのか。
誰かこの人を逮捕してください。
戦のない平和な世では、この人は生きていけない。
それはさておき、わたし達は、人目を忍んで手拭いでほっかむりをした。
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【ミニゲーム】
敵の目を盗んで、大仏殿にたどり着こう!
一番近くで交戦している敵が向こうを向い
ている間だけ進めます。こちらを向いたら、
立ち止まろう。
敵の背後についたら体に出てきた☆をタッ
チペンでこするんだ。
気づかれる事なく、とどめを刺せるぞ♪
それでは、スタート!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
隙をつきながら敵を殲滅したわたし達は、大仏殿にたどり着いた。
「長川!」
「火ーッ火ッ火ッ!」
長川平蔵が笑いなから油を大仏殿に振りまく。
久秀おじさんが、松明を持って油をかけた部分に近づいた。
そして、わたしを振り返る。
「大仏殿に火付け。わしは御仏からきつい仕置きを受けようなあ……!」
【ほっかむり姿で放火する松永久秀美麗スチル『御仏のお仕置きは、キツそうじゃ……!(期待)』】
ニヤニヤしながら松明の火で放火する久秀おじさんは、御仏のお仕置きを想像してでもいるのだろうか。
そのしまりのない表情に、イラッとする。
わたしは、おじさんの尻を力一杯蹴った。
「そんなに御仏からのお仕置きがいいなら、勝手に、してもらえば!?」
大仏殿についた火は、ちろちろと這い伝い、瞬く間に建物を燃やしていく。
その燃え盛る様は、まるでわたしの心のようだ。
「嫉妬しておるのか?のぞみ様?」
さらに嬉しそうにニヤニヤする久秀おじさんが、腹立たしくて、わたしはおじさんの胴をポカポカ殴った。
長川平蔵さんは、興奮のあまり『鬼平』化してしまい、大仏殿から逃げてきた敵兵達を、愉しそうに斬っている。
「痴話喧嘩は後でやってください!炎に巻かれますよっ。長川殿も!」
家来の一人が声をかけてくれた。
確かに危ないので、わたし達は、すたこらさっさと逃げ出したのだった。
こうしてわたし達松永軍は、奈良の大仏様を犠牲にして三好トリオを敗走させた。
大仏様、ごめん。
あなたの事は忘れない。
けど、悪い事はできないもので、結局三好トリオは大和国から出ていかず、なんか四国から仲間を呼んできて、わたし達は、信貴山城を追い出された。
仕方なく多聞山城に移った久秀おじさんは、しきりに誰かと連絡を取っている。
誰だろう。
……浮気かな?
この時代、ハーレムが当たり前みたいだし、うかうかしていられない。
浮気相手に負けないように、久秀おじさんを満足させねば!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【ミニゲーム】
あなたは、革ムチとロウソクを持って、寝所
へやってきた。
これで、松永久秀をかわいがってやろう!
松永久秀の体に出てきた☆を、タッチペンで
タッチして、ムチを入れてね。
体に○×△□のマークが出たら、そのマークの
ボタンを押してロウソクを垂らそう。
それでは、夜伽スタート!!
【ボーナスステージ☆】
×ボタンを連打だ!
激しく打ちまくり、『ウルトラハイパーノ
ルディックエクストラムチ打ち』を完成さ
せよう。
×××××××××××××××××××××××××××××××
×××××××××××××××××××××××××××××××
×××××××××××××××××××××××××××××××
コングラッチュレーション!!
『ウルトラハイパーノルディックエクスト
ラムチ打ち』成功だ!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ピクピク……(超ノルディック極楽状態)」
「やり過ぎた……!」
この時のわたしは、まだ知らなかった。
まさか久秀おじさんの連絡相手が、わたし達の運命を決めてしまうだなんて……。
しばらく多聞山城で過ごすうちに、状況が変わった。
なんと、あの織田信長が上洛したのだ。
織田信長って言ったら、本能寺の変の人だ。
本能寺の変か……。何が起こったかは、うろ覚えなんだよね。
確か、織田信長が本能寺でダンスしてたら、石田三成だか明智光秀だかが乱入してきて、「死ぬ前に鯛の天ぷらを食わせてやろう」と言われたけど、「体に毒だから食べません」と断ったもんだから激怒されて殺されたんじゃなかったっけ……?
まあ、いいや。
とにかく、その織田信長が上洛というものをしたんだそうな。
上洛とは京都に入る事らしい。
わたしも前に、修学旅行で奈良と京都に行ってるから、上洛経験ありですね。
それでその織田信長さん、久秀おじさんと仲良しみたいで、上洛を助けてくれたからって、多聞山城のまわりの敵を追い払ってくれた。
そして今、その信長さんがわたしの目の前にいる。
「ほう、その女が霜台の掌中の玉か。名は何という?」
「のぞみと申しまする。のぞみ、挨拶せよ」
「は、はじめまして。のぞみです」
「ふむ。なかなか良い目をしておるな。物怖じせぬ」
「ありがとうございます……?」
わたし達は、京都のお寺に来ていた。ここに織田信長さんが泊まっている。
三好トリオを追い払ってもらったお礼を言うためもあるけど。
久秀おじさんは足利義昭さんの家来だけど、今度信長さんの家来にもなるらしいの。
で、信長さんに忠誠を誓う証に、お宝をプレゼントするんだって。
お父さんが土地を担保に銀行からお金を借りたみたいに、信用してもらうためには必要みたい。
ドMのくせに茶道サドウが趣味の久秀さんが、お茶を点てて信長さんに振る舞った。
信長さんは、ぐいと飲み干すと言った。
「それで、礼を言うためだけに来たわけではあるまい。その方、どうやってわしに証立てをするつもりじゃ?」
「は、忠誠の証にこちらを。『九十九髪茄子』に御座る」
久秀おじさんがコトリと置いた茶色くて丸いの。
これ、有名なやつらしい。茶道具集めが趣味の久秀おじさんのお気にだし。
でも、それを見た信長さんの目が細くなる。
「ほう……。その方の忠誠は、その程度か。命の次に大事な宝を差し出せと、わしは言うた筈だがのう」
信長さんの視線が、湯気の立つ平べったい茶釜に向かった。
そして、わたしを見る。
「そこの茶釜か、そこの女を人質に寄越せ。それ以外は受け付けぬ!」
「平蜘蛛か、のぞみを寄越せと!?」
「どうした?裏切らぬための質(しち)じゃ。それだけのものを寄越すのが筋であろう。どちらでもよいぞ」
「ぐ……っ!」
久秀おじさんが、わたしを見る。
その後、一回茶釜を挟んでから、またわたしに視線を戻した。
ねえ、なんで茶釜挟んだ?
茶釜とわたしを天秤にかけて、ぐらついたって事?
わたしのライバル、茶釜かよ!
でも、久秀おじさんは、涙目でこう言った。
「ならば、平蜘蛛を質に……」
「いや、やはり、女がよい」
「「は!?」」
信長は、くつくつと笑った。
「言うたはずじゃ。命の次に大事な宝を、と。その方が質に出したくないものが、その方にとってより大事な宝であろう」
こいつ、真性のドSだ。
わたしみたいな、ファッションSとは違う、紛うかたなきSの人だ。
ああ、久秀おじさんの目が、絶望とNTRの色に染まっている。
そんな複雑な変態模様のプレイルームへ、おじさんの家来が駆け込んだ。
「失礼致します!殿、多聞山城が!!」
追い払った三好トリオ軍が、リターンしてきたらしい。
多聞山城が攻められているとの事で、おじさんは慌てて救援に向かった。
「京は安全だから」とわたしを置いて。
京都に知り合いのいないわたしは、信長さんと同じお寺に泊まる事になった。
心配しながら日々を過ごすわたしに、久秀おじさんが劣勢に立たされて危ないという噂が聞こえてきた。
不安でたまらない。
わたしにできる事は何だろう。
そうだ。信長さんに加勢に行ってもらえるよう頼んでみよう。
前も、助けてくれたし。
わたしは、信長さんの部屋を訪ねた。
「お願いします。久秀おじさんを助けてください!」
わたしは部屋に入るなり、ジャンピング土下座をして頼み込んだ。
でも、信長さんは頷かない。
「あれは、わしにまだ質を出しておらぬ。故に、助ける義理はない」
ケチ!ドケチ!
本能寺で鯛の天ぷら食べて腹壊せ!
わたしは心の中で悪態をつきながら、畳に額をこすりつけた。
「そこをなんとか!できる事なら何でもします!お願いします!」
「ほう……、何でも?」
信長さんが食いついた。
「あ、でも、危険な作業と高い所はちょっとNGで……」
わたし、高所恐怖症なの。
「ふ、ならば、今からわしの伽をせよ」
「え……?」
「聞こえなかったのか?わしの伽をせよ、と言ったのじゃ」
「とぎ……。それは……」
浮気じゃないか。
ああ、でも、この状況。
人妻。夫は不在。夫の上司に土下座。
NTRフラグがビンビン物語。
どうしたら……。
「何じゃ、ならば、愛する者の命を犠牲にして、己れの貞淑を守るか?」
「そんな言い方は卑怯です!」
「じゃが、真理よ」
「……」
―――――――――――――――――――――
→伽を受け入れる。
伽を拒否する。
―――――――――――――――――――――
わたしが一番大事なものは、久秀おじさんの命だ。
「伽、します」
久秀おじさんのNTRが決定した。
「こちらに来い、のぞみ」
わたしは、悲痛な思いを抱えて、信長さんに近づいた。
「わしの背に腕を回せ」
わたしは、恐る恐る信長さんに抱きついた。
「ばぶう!」
ん?
「ばぶう、ばぶばぶう!!」
な、なん……だと……!?赤ちゃんぶれい、だとおお!??
「ばぶばぶ、ばぶうばぶう、ばぶう!」
だ、誰か、通訳プリーズぅぅぅ!!!
(暗転)
地獄……。
何が悲しくて、おっさんのおしめ替えを……。
それにしても、武将の性癖の癖が強すぎる。
ストレスフルな日々が悪いのかしら?
その信長さんだけど、わたしとの約束を守って、久秀おじさんを助けてくれた。
でも、京に戻ってきたのは、信長さん一人。
「久秀おじさんは?」
「あやつは来ないぞ。それと、お前は質に出された」
「え?嘘……」
「書簡を預かっておる。読んでみよ」
震える手で、手紙を開いた。
そこには、わたしが信長さんの伽をしたと聞いた事、裏切りが許せない事、信長さんにわたしを譲渡した事が書かれていた。
後、平蜘蛛の茶釜を送れ、と。
「なんで!わたしが、何のために……!」
悲しくて、苦しくて、涙がポロポロ溢れてくる。
信長さんが、わたしを抱きしめた。
「わしを恨め。そなたを気に入ってしもうたのじゃ。わしのものにしとうて、伽の事を伝えて譲るように言った。それでも拒否されたら、諦めようかと思っていたのじゃが……」
わたしは、信長さんの胸をポカポカ叩いた。
酷い。なんて事をしてくれたのだ。
わたしの夫を返せ!
返してよ―――。
しばらくは、悲しくて辛くて落ち込んで、でも、段々腹が立ってきた。
わたしの話も聞かずに、一方的に三行半とは、馬鹿にしている。
しかも、わたしを捨てて、平蜘蛛を戻せとは……!
革ムチでお仕置きしてや……いや、もうその必要もないんだった。
ポロリと涙がこぼれた。
結局わたしは、言いつけ通り、平蜘蛛を返すことにした。
でも、ただでは返さない。
平蜘蛛に、玉薬をいっぱいに詰めて返してやった。
いつかの革ムチも添えて。
『ムチの代わりに鉄砲にでも打たれたら?』
そんな嫌味も込めて。
わたしに、もうムチは必要ない。
これからは、おしめがわたしの武器だ……!
その日、松永久秀は連日の戦での疲れをとろうと、頭に灸を据えていた。
のぞみに裏切られてから、気持ちが晴れないのだ。
そこへ、待ちに待った平蜘蛛が届いた。
久秀は、早速木箱を開けて平蜘蛛を取り出した。
「何やら重いな。何が入っておる?」
平蜘蛛の蓋を開けた。
中を覗きこんで仰天した。
中にはぎっしり玉薬が詰まっている。
その拍子に、久秀の頭の灸がつるりと滑って、釜の中へ―――。
【爆発する松永久秀の美麗スチル『ああっ!!?』】
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「これを見に来た!!」
松永久秀の『お灸爆発エンド』、もしくは『信長ばぶうエンド』は伝説のバッドエンドルート。
無事、スチルを回収した希美は、ハッピーエンドルートに向けて、再度コントローラーを握った。
《おまけ》
ハッピーエンドルートの場合、ばぶうした後、信長が久秀を助けに行き、全てを知った久秀はそれでも希美を選び、信長といっしょに京に戻ってきます。
最終的に、信長は平蜘蛛をゲットし希美を諦め、久秀と希美はいつまでも幸せにムチ打ちしたのでした。
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